40 / 41
40 限界
しおりを挟む
薄暗い室内に、喘ぐような自身の声と衣擦れの音が響く。あの後、香油を手に入れたロッドは、ひたすら俺の後ろを弄っていた。
うつ伏せになり、襲いくる違和感と必死に格闘する俺。丹念に香油を塗り込んで、どうにか穴を拡げようとするロッド。顔は見えないが、どうせいつもの無表情に違いない。そう考えながらチラッと背後を窺えば、予想に反して何かを堪えるように唇を引き結ぶ彼の顔が見えた。
その熱の籠った視線に、背中がゾワゾワする。慣れない感覚に身を捩れば、ロッドのすらりと長い指が中の一点を掠めた。
「っ、あ」
途端に襲いかかる妙な違和感。びくりと体を揺らせば、ロッドが小さく息を吐いた。なにやらちょっぴり上機嫌に、そこばかりを狙う。指があたるたびに、意思とは無関係に体が跳ねる。そのうち、その妙な違和感が快感だということに気がついた。
知らないうちに呼吸を止めていたらしい。
ふと「ウィル様」と囁くように呼ばれて、なんとか息を吐き出した。速まる呼吸音に、じんわりと滲む汗。非日常的な空気に、徐々に呑まれていく気がした。
「あの、もういいですか?」
なにが。
伺うような言葉に、盛大に顔をしかめる。
俺の中を無遠慮に暴いていた指が、ゆっくりと抜けていく。縁をなぞられて、つま先に力を込める。そうして完全に指が離れていくのと同時に、ホッと息を吐いた。
なんだか頭がぼんやりする。
動くのも億劫で、ベッドに顔を埋めたまま息を整える。
目を閉じて余韻に浸っていれば、なにやらベルトを外す音が聞こえてきた。ハッと上半身を起こそうとするが、目敏く察したロッドにより背中を押さえつけられて叶わない。代わりに足をジタバタさせれば、ロッドが訝しむのを感じた。
「暴れないでくださいよ」
「え? おまえ、なにしようとしてんの?」
「なにって。え、今更それ訊きます?」
なぜか呆れたようなロッドの声音に、自分がなんだかすっかり流されていたことを思い知る。いや、まぁ、うん。そういう雰囲気ではあったけど。でも心の準備というか、なんていうか。
ここにきて急に怖気付いた俺であったが、空気を読まないロッドはちょっぴり首を傾げただけで行為を再開する。
「うわぁ、ちょ」
「動かないで」
普段とは異なる素っ気ない物言いに、顔が熱くなる。熱をおさめようと肩で大きく息をするが、それもロッドに邪魔をされてしまう。
ひとりジタバタしているうちに、ロッドの方は準備を終えたらしい。再び指を突っ込まれそうになって「やめろ」と声を出すが、案の定ロッドは止まらない。こいつは俺の子分のくせに、いまいち俺の言うことをきかない。
すでに十分解されているそこは、さらなる刺激を期待しているかのように疼き始める。
指の数が、いつの間にか増やされる。中を探るようにあちこち触れられて、時折敏感なところを掠めていく。
「もうっ、いい、から」
「え、いいんですか?」
案外真面目に問い返されて、意味不明なままこくこく頭を縦に振っておく。少しだけ考えるように沈黙したロッドは、「本当にいいんですか?」と首を傾げる。
「い、いから」
「はぁ。ウィル様がそう言うなら」
随分と上から目線で言ってのけたロッドが、今度こそ本当に指を抜く。ひくつく穴が外気に触れて、ひんやりと心許ない。そう思ったのも束の間。
「ひ、あっ! ふ、」
「……ちょっときつくないですか?」
グッと押し拡げて侵入してきたものが、容赦なく俺を追い詰める。反射的にシーツを握って歯を食いしばるが、痛いやら熱いやら、よくわからない感覚に、目がくらくらする。俺に余裕がないことを悟ったのか。俺の良いところをじんわり押さえつけるようにしながら、ロッドは動きを止めた。ビクビクと勝手に腰が震える。しかしロッドのせいで、ろくに動けない。
「やめ、ぁ、ッ!」
「まだ全部入ってないんですけど」
知らんがな。
勝手に事を進めていくロッドは、合間で思い出したように「大丈夫ですか?」と訊いてくる。これが大丈夫に見えるのか?
息も絶え絶えな俺は、その度にロッドのことを睨みつける。時間をかけて奥へと入ってくるそれは、まるで俺を縛りつける楔のようだ。自分自身でさえもよく知らない場所に、無視できない質量を感じて涙が滲んでくる。ぼやける視界の中、シーツを握り込む。
「ぁ、ふッ、んあ」
ゆっくりと、でも確実に奥へと侵入してくる度に、びくりと震える。痛みにも似た快感を逃そうと小さくもがいていれば、ロッドの温かい手が頭を撫でていく。
「ウィル様って、髪長くて綺麗ですよね」
さらりと髪の毛を掬いとられるのがわかった。背中にこぼれ落ちるくすぐったい感覚に、身を捩ったその瞬間。
「っ、あ!?」
グッと押し込まれて、目の前がチカチカした。息が詰まり、はくはくと勝手に口が動いてしまう。そのまま繰り返される挿入に、ガクガクと腰が揺れる。
「あ、んッ、ちょ、やめッ」
「ッ! すみません、ちょっと」
切羽詰まったロッドの呻き声と共に、一際強く中を擦られる。叩き込まれるような快楽に、限界を迎えた俺はあっけなく精を吐き出した。
うつ伏せになり、襲いくる違和感と必死に格闘する俺。丹念に香油を塗り込んで、どうにか穴を拡げようとするロッド。顔は見えないが、どうせいつもの無表情に違いない。そう考えながらチラッと背後を窺えば、予想に反して何かを堪えるように唇を引き結ぶ彼の顔が見えた。
その熱の籠った視線に、背中がゾワゾワする。慣れない感覚に身を捩れば、ロッドのすらりと長い指が中の一点を掠めた。
「っ、あ」
途端に襲いかかる妙な違和感。びくりと体を揺らせば、ロッドが小さく息を吐いた。なにやらちょっぴり上機嫌に、そこばかりを狙う。指があたるたびに、意思とは無関係に体が跳ねる。そのうち、その妙な違和感が快感だということに気がついた。
知らないうちに呼吸を止めていたらしい。
ふと「ウィル様」と囁くように呼ばれて、なんとか息を吐き出した。速まる呼吸音に、じんわりと滲む汗。非日常的な空気に、徐々に呑まれていく気がした。
「あの、もういいですか?」
なにが。
伺うような言葉に、盛大に顔をしかめる。
俺の中を無遠慮に暴いていた指が、ゆっくりと抜けていく。縁をなぞられて、つま先に力を込める。そうして完全に指が離れていくのと同時に、ホッと息を吐いた。
なんだか頭がぼんやりする。
動くのも億劫で、ベッドに顔を埋めたまま息を整える。
目を閉じて余韻に浸っていれば、なにやらベルトを外す音が聞こえてきた。ハッと上半身を起こそうとするが、目敏く察したロッドにより背中を押さえつけられて叶わない。代わりに足をジタバタさせれば、ロッドが訝しむのを感じた。
「暴れないでくださいよ」
「え? おまえ、なにしようとしてんの?」
「なにって。え、今更それ訊きます?」
なぜか呆れたようなロッドの声音に、自分がなんだかすっかり流されていたことを思い知る。いや、まぁ、うん。そういう雰囲気ではあったけど。でも心の準備というか、なんていうか。
ここにきて急に怖気付いた俺であったが、空気を読まないロッドはちょっぴり首を傾げただけで行為を再開する。
「うわぁ、ちょ」
「動かないで」
普段とは異なる素っ気ない物言いに、顔が熱くなる。熱をおさめようと肩で大きく息をするが、それもロッドに邪魔をされてしまう。
ひとりジタバタしているうちに、ロッドの方は準備を終えたらしい。再び指を突っ込まれそうになって「やめろ」と声を出すが、案の定ロッドは止まらない。こいつは俺の子分のくせに、いまいち俺の言うことをきかない。
すでに十分解されているそこは、さらなる刺激を期待しているかのように疼き始める。
指の数が、いつの間にか増やされる。中を探るようにあちこち触れられて、時折敏感なところを掠めていく。
「もうっ、いい、から」
「え、いいんですか?」
案外真面目に問い返されて、意味不明なままこくこく頭を縦に振っておく。少しだけ考えるように沈黙したロッドは、「本当にいいんですか?」と首を傾げる。
「い、いから」
「はぁ。ウィル様がそう言うなら」
随分と上から目線で言ってのけたロッドが、今度こそ本当に指を抜く。ひくつく穴が外気に触れて、ひんやりと心許ない。そう思ったのも束の間。
「ひ、あっ! ふ、」
「……ちょっときつくないですか?」
グッと押し拡げて侵入してきたものが、容赦なく俺を追い詰める。反射的にシーツを握って歯を食いしばるが、痛いやら熱いやら、よくわからない感覚に、目がくらくらする。俺に余裕がないことを悟ったのか。俺の良いところをじんわり押さえつけるようにしながら、ロッドは動きを止めた。ビクビクと勝手に腰が震える。しかしロッドのせいで、ろくに動けない。
「やめ、ぁ、ッ!」
「まだ全部入ってないんですけど」
知らんがな。
勝手に事を進めていくロッドは、合間で思い出したように「大丈夫ですか?」と訊いてくる。これが大丈夫に見えるのか?
息も絶え絶えな俺は、その度にロッドのことを睨みつける。時間をかけて奥へと入ってくるそれは、まるで俺を縛りつける楔のようだ。自分自身でさえもよく知らない場所に、無視できない質量を感じて涙が滲んでくる。ぼやける視界の中、シーツを握り込む。
「ぁ、ふッ、んあ」
ゆっくりと、でも確実に奥へと侵入してくる度に、びくりと震える。痛みにも似た快感を逃そうと小さくもがいていれば、ロッドの温かい手が頭を撫でていく。
「ウィル様って、髪長くて綺麗ですよね」
さらりと髪の毛を掬いとられるのがわかった。背中にこぼれ落ちるくすぐったい感覚に、身を捩ったその瞬間。
「っ、あ!?」
グッと押し込まれて、目の前がチカチカした。息が詰まり、はくはくと勝手に口が動いてしまう。そのまま繰り返される挿入に、ガクガクと腰が揺れる。
「あ、んッ、ちょ、やめッ」
「ッ! すみません、ちょっと」
切羽詰まったロッドの呻き声と共に、一際強く中を擦られる。叩き込まれるような快楽に、限界を迎えた俺はあっけなく精を吐き出した。
197
あなたにおすすめの小説
どうも、卵から生まれた魔人です。
べす
BL
卵から生まれる瞬間、人間に召喚されてしまった魔人のレヴィウス。
太った小鳥にしか見えないせいで用無しと始末されそうになった所を、優しげな神官に救われるのだが…
左遷先は、後宮でした。
猫宮乾
BL
外面は真面目な文官だが、週末は――打つ・飲む・買うが好きだった俺は、ある日、ついうっかり裏金騒動に関わってしまい、表向きは移動……いいや、左遷……される事になった。死刑は回避されたから、まぁ良いか! お妃候補生活を頑張ります。※異世界後宮ものコメディです。(表紙イラストは朝陽天満様に描いて頂きました。本当に有難うございます!)
悪役令嬢の兄、閨の講義をする。
猫宮乾
BL
ある日前世の記憶がよみがえり、自分が悪役令嬢の兄だと気づいた僕(フェルナ)。断罪してくる王太子にはなるべく近づかないで過ごすと決め、万が一に備えて語学の勉強に励んでいたら、ある日閨の講義を頼まれる。
見習い薬師は臆病者を抱いて眠る
XCX
BL
見習い薬師であるティオは、同期である兵士のソルダートに叶わぬ恋心を抱いていた。だが、生きて戻れる保証のない、未知未踏の深淵の森への探索隊の一員に選ばれたティオは、玉砕を知りつつも想いを告げる。
傷心のまま探索に出発した彼は、森の中で一人はぐれてしまう。身を守る術を持たないティオは——。
人嫌いな子持ち狐獣人×見習い薬師。
大好きな獅子様の番になりたい
あまさき
BL
獣人騎士×魔術学院生
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
カナリエ=リュードリアには夢があった。
それは〝王家の獅子〟レオス=シェルリオンの番になること。しかし臆病なカナリエは、自身がレオスの番でないことを知るのが怖くて距離を置いてきた。
そして特別な血を持つリュードリア家の人間であるカナリエは、レオスに番が見つからなかった場合彼の婚約者になることが決まっている。
望まれない婚姻への苦しみ、捨てきれない運命への期待。
「____僕は、貴方の番になれますか?」
臆病な魔術師と番を手に入れたい騎士の、すれ違いラブコメディ
※第1章完結しました
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
長編です。お付き合いくださると嬉しいです。
宰相閣下の絢爛たる日常
猫宮乾
BL
クロックストーン王国の若き宰相フェルは、眉目秀麗で卓越した頭脳を持っている――と評判だったが、それは全て努力の結果だった! 完璧主義である僕は、魔術の腕も超一流。ということでそれなりに平穏だったはずが、王道勇者が召喚されたことで、大変な事態に……というファンタジーで、宰相総受け方向です。
悪辣と花煙り――悪役令嬢の従者が大嫌いな騎士様に喰われる話――
ロ
BL
「ずっと前から、おまえが好きなんだ」
と、俺を容赦なく犯している男は、互いに互いを嫌い合っている(筈の)騎士様で――――。
「悪役令嬢」に仕えている性悪で悪辣な従者が、「没落エンド」とやらを回避しようと、裏で暗躍していたら、大嫌いな騎士様に見つかってしまった。双方の利益のために手を組んだものの、嫌いなことに変わりはないので、うっかり煽ってやったら、何故かがっつり喰われてしまった話。
※ムーンライトノベルズでも公開しています(https://novel18.syosetu.com/n4448gl/)
ゲームにはそんな設定無かっただろ!
猫宮乾
BL
大学生の俺は、【月の旋律 ~ 魔法の言葉 ~】というBLゲームのテストのバイトをしている。異世界の魔法学園が舞台で、女性がいない代わりにDomやSubといった性別がある設定のゲームだった。特にゲームが得意なわけでもなく、何周もしてスチルを回収した俺は、やっとその内容をまとめる事に決めたのだが、飲み物を取りに行こうとして階段から落下した。そして気づくと、転生していた。なんと、テストをしていたBLゲームの世界に……名もなき脇役というか、出てきたのかすら不明なモブとして。 ※という、異世界ファンタジー×BLゲーム転生×Dom/Subユニバースなお話です。D/Sユニバース設定には、独自要素がかなり含まれています、ご容赦願います。また、D/Sユニバースをご存じなくても、恐らく特に問題なくご覧頂けると思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる