染まらない花

煙々茸

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家族

1-8

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 正直、就職したいとも思う。
 早く働いて李煌さんに追いつきたい。
 しかし水泳も捨て難い。
(――まあ、もう少し考えるか……)
 浴室から出て下着とズボンを穿き、何もまとっていない肩にタオルを引っ掻けドライヤーのスイッチを入れた。
 手首を動かして泳ぐ熱風を髪に当てる。
 黒く短い髪が舞い上がってふわりと元に戻るを繰り返す。
 そこへ――、
「大河くんごめんね。ボディーソープ少な……――」
 何かを言いながら脱衣室に入って来た李煌さんと、鏡越しに目が合った。
 丁度ドライヤーが耳の近くにあったせいか、最後まで聞き取れず、一旦スイッチを切って彼を振り向く。
「……何て?」
「あ、え、えっと……ボディーソープ少なかったかなーって……」
「まだ大丈夫だったけど。一応ココに置いておいた方がいいかもな。ありがとう」
 彼の手から詰め替え用のパックをヒョイと持ち上がる。
「……」
(? ……李煌さん、なんか固まってる?)
 明らかに様子のおかしい彼に小首を傾げる。
 普段白い頬が赤みを帯びているようにも見えるが……。
「李煌さん?」
「あっ、ごめんごめん! じゃ、じゃあ置いといてもらえる? お願いねっ」
 ハッとした様子の李煌さんは勢いよく俺から視線を逸らして、慌てた様子で脱衣室を出て行った。
「え……何だ?」
 いつもと全然様子の違った彼に、数秒その場で立ち尽くす。
(あれ、俺何かしたか……? ボディーソープ受け取っただけだよな?)
 疑問を頭に浮かべながら鏡の方へ向き直る。
(……あ、もしかして裸だったからか? いや、でも上半身だけだし、男同士で照れるとかないよな。――まあ、俺なら李煌さんの裸とか見たら手が出ちまうだろうけど……)
 いけない妄想をくっ付けつつ、俺は答えの出ない謎に暫く翻弄され続けた。
 人前で上半身を曝すことは慣れている。
 水泳をやっていれば特に意識もしないし、そんなこと考えていたら泳げやしない。
(寧ろ俺の裸体にドキッとしてくれたなら、嬉し過ぎるけどな……って、やっぱそれは無いか)
 有りもしないだろう憶測を、ドライヤーのスイッチを入れて断ち切った。


 髪がある程度乾いたところで、長袖のTシャツを着て自室に戻った。
「先に連絡しとくか」
 机の上に無造作に置いたままの携帯を手に取る。
 率直に【泊まりOK】とだけ打ち込んで送信。
 数分もしないうちに返信が来た。
【やった!じゃあ詳細は学校で話そうね(*゚艸゚*)】
 唐木らしい顔文字付きのメッセージに口端を僅かに上げ、このメッセージには返信せずベッドに放った。
 ベッドに背を預けて床に座り、前に買っておいた問題集を部屋の中心に置いてあるテーブルに広げた。
 小学六年生のころに買ってもらった勉強机は、今は教科書や小物置き場になっている。
「テスト範囲のプリント、確か貰ったよな」
 机の前に置いたスクールバッグに手を伸ばし引き寄せる。
 ファスナーを開けた時、一番に目に留まったのは、あの花柄封筒だった。
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