染まらない花

煙々茸

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家族

1-9

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(うわ……忘れてたな)
 前髪をくしゃりと掴みながら小さく溜息を零し、封筒の端っこにカッターを滑らせていく。
 俺が一人でこの手紙を読もうと思ったことには、唐木が言った理由の他にもう一つ――。
 もし、封筒にも差し出し人の名前が書いてあったのなら、忘れないうちに帰り道にでも封を切っていただろう。
 それを止めたのは、俺の名前以外何も書かれていないという不安感からだ。
 花柄であっても、これが女子からのもので、ラブレターであるという事実確認はできない。
 もちろん、筆跡なんてものも当てにはならない。
(唐木はまったく疑わなかったけどな。――ま、俺のは考え過ぎなんだろうけど)
 封筒から二つに折り畳まれた手紙を抜き取り、その流れで躊躇わず開く。


 ――Dear相見くん
 突然のお手紙なんてビックリしちゃうよね。
 でも、最後まで読んでくれたら嬉しいです。
 私、友達に誘われて水泳の夏の大会に行ったんだけど、そこで相見くんを見かけて、イイなって思っちゃって……。
 少し話だけでもしてみたいなって、部活にも押しかけちゃってるんだけど、他の人もいるからなかなか声かけられなくて……。
 本当に少しでいいので、お話させてもらえませんか?
 テストの最終日、放課後に第一体育館裏で待ってます。
 From宮下彩夏――


「宮下?」
 どこかで聞いた名前だ。
 再度手紙を上から目で追って行く。
(部活、って……)
「――あ」
 俺は朝のことを思い出した。
 一人の水泳部員がこの名前を口にしていたことを。
 少しだが、その女子生徒を視界に入れたはずだ。
(あの子か……)
 とか思いながらも、顔までははっきりとは覚えていない。
 それよりも、テスト最終日までこのことを覚えていられるかが問題だ。
 記憶力は悪い方ではないが、こういった類のことは忘れがちになる。
 興味があれば別なのだが……。
(アイツに知られたら煩そうだな)
 唐木の顔を思い浮かべるのも、今日何度目になるだろう。
 俺は手紙を封筒に戻し、机の引き出しに仕舞い込んだ。
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