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家族3
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とりあえず漫画喫茶を出て歩く。
「え、じゃあ何しに入ったの?」
「暇潰し。ただ寝てただけだ」
「あはは」
何故か笑われて首を傾げる。
「……なんだ?」
「ううん。泳げる時期だったら、プールとか行ってそうだなーって思っただけ」
それも考えなかったわけではないが、生憎学校のプールを休日に利用するには事前に許可が必要で、屋内市民プールは賑やか過ぎて気が引けた。
「今度から一応許可取っておくかな」
「ん? なんて……?」
良く聞き取れなかったのかこっちに視線を向けて来た唐木に、俺は首を振った。
「いや、こっちのこと」
わざわざ二度言うほど重要なことじゃあない。
俺達は駅付近の店を見て回った。
もちろん、目的などない。
「あのさぁ……」
不意に、唐木が立ち止まる。
「んー?」
「何か欲しい物、ない?」
突然の問い掛けに唐木を振り向く。
「欲しい物? ……特に無いけど」
「六年目ってことで、何かプレゼントしたいんだよね」
全く質問の意図が分からない。
(家族なら分かるが……、唐木にそこまでしてもらう事じゃないよなぁ。それとも、何かあるのか?)
目を眇める俺に、唐木が慌てて口を開いた。
「もちろん僕は家族じゃないから、そこまでする必要はないのかもしれない。でも、相見と出会えたのは、今のご家族のお蔭だから……」
「……」
「あっ。ちょっと不謹慎だったね。ごめん。でも、結果的に僕にとっては……その……」
俺の死んだ両親のこと気にして言っているんだろうが、俺は疾うに乗り越えている。
それに、コイツは他人のことを悪く言うような人間じゃあない。
「――ハァ。お前、変に気ぃ遣い過ぎ」
「……相見……」
「ま、それがお前なんだろうけどな。俺はそんなに弱ってるように見えるのか?」
「ううん……」
「なら、そういうことだ。俺の周りのことまで見過ぎるなよ」
「相見……」
唐木の少し驚いた顔に、心中で舌打ちを零しながら顔を前に向けた。
何故だか居たたまれない。
「プレゼントはいいから。その代わり、ジュース奢れよ」
「っ……うん! じゃあそこのカフェに入ろうよ!飲み物の種類、豊富だからさっ」
どうやら吹っ切れた様子の唐木に安堵しつつ、促されるまま店に足を踏み入れた。
「へぇ……。ホットドックとか売ってるのか」
「そうそう。いろいろあるよー♪ でも、夜に備えてお腹は空かせておかないとね」
アイスフロートを注文し、支払いは唐木に任せて窓際の椅子に腰かけた。
もうすぐ十月も終わる。
一年なんてあっという間だ。
(いつまで、あの人と一緒にいられるんだろうな……)
ぼんやりと行き交う人を眺めていたら、どことなく知り合いに似た顔が通り過ぎて腰を上げかけた。
(……や、まさかな)
あり得ない、と思い直して腰を下ろす。
もう五年以上経っている。
本人かどうかなんて、分かるはずがない。
「お待たせ~。ん? どうしたの?」
「いや、なんでもない。――サンキュ」
飲み物を二つ持った唐木が向かいに座り、片方を受け取ってストローに口をつける。
視線を外に戻すと、もうその人影はどこにもなかった。
「え、じゃあ何しに入ったの?」
「暇潰し。ただ寝てただけだ」
「あはは」
何故か笑われて首を傾げる。
「……なんだ?」
「ううん。泳げる時期だったら、プールとか行ってそうだなーって思っただけ」
それも考えなかったわけではないが、生憎学校のプールを休日に利用するには事前に許可が必要で、屋内市民プールは賑やか過ぎて気が引けた。
「今度から一応許可取っておくかな」
「ん? なんて……?」
良く聞き取れなかったのかこっちに視線を向けて来た唐木に、俺は首を振った。
「いや、こっちのこと」
わざわざ二度言うほど重要なことじゃあない。
俺達は駅付近の店を見て回った。
もちろん、目的などない。
「あのさぁ……」
不意に、唐木が立ち止まる。
「んー?」
「何か欲しい物、ない?」
突然の問い掛けに唐木を振り向く。
「欲しい物? ……特に無いけど」
「六年目ってことで、何かプレゼントしたいんだよね」
全く質問の意図が分からない。
(家族なら分かるが……、唐木にそこまでしてもらう事じゃないよなぁ。それとも、何かあるのか?)
目を眇める俺に、唐木が慌てて口を開いた。
「もちろん僕は家族じゃないから、そこまでする必要はないのかもしれない。でも、相見と出会えたのは、今のご家族のお蔭だから……」
「……」
「あっ。ちょっと不謹慎だったね。ごめん。でも、結果的に僕にとっては……その……」
俺の死んだ両親のこと気にして言っているんだろうが、俺は疾うに乗り越えている。
それに、コイツは他人のことを悪く言うような人間じゃあない。
「――ハァ。お前、変に気ぃ遣い過ぎ」
「……相見……」
「ま、それがお前なんだろうけどな。俺はそんなに弱ってるように見えるのか?」
「ううん……」
「なら、そういうことだ。俺の周りのことまで見過ぎるなよ」
「相見……」
唐木の少し驚いた顔に、心中で舌打ちを零しながら顔を前に向けた。
何故だか居たたまれない。
「プレゼントはいいから。その代わり、ジュース奢れよ」
「っ……うん! じゃあそこのカフェに入ろうよ!飲み物の種類、豊富だからさっ」
どうやら吹っ切れた様子の唐木に安堵しつつ、促されるまま店に足を踏み入れた。
「へぇ……。ホットドックとか売ってるのか」
「そうそう。いろいろあるよー♪ でも、夜に備えてお腹は空かせておかないとね」
アイスフロートを注文し、支払いは唐木に任せて窓際の椅子に腰かけた。
もうすぐ十月も終わる。
一年なんてあっという間だ。
(いつまで、あの人と一緒にいられるんだろうな……)
ぼんやりと行き交う人を眺めていたら、どことなく知り合いに似た顔が通り過ぎて腰を上げかけた。
(……や、まさかな)
あり得ない、と思い直して腰を下ろす。
もう五年以上経っている。
本人かどうかなんて、分かるはずがない。
「お待たせ~。ん? どうしたの?」
「いや、なんでもない。――サンキュ」
飲み物を二つ持った唐木が向かいに座り、片方を受け取ってストローに口をつける。
視線を外に戻すと、もうその人影はどこにもなかった。
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