山に捨てられた元伯爵令嬢、隣国の王弟殿下に拾われる

しおの

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 今日はマルクスさんが来る日だ。手渡すものを準備して迎え入れる。
「いらっしゃい。今日はこれを受け取って欲しいの」
 たくさんの野菜や果物、茶葉を渡す。その代わりに今日はお肉をお願いしていた。そろそろお肉も恋しくなってきたのだ。ハーブティの売り上げもかなりあるみたいで、野菜も質がいいと評判でよく売れているらしい。
 あらかじめスパイスで下処理されたものを持ってきてくれていた。
 今日はお肉で出汁をとってスープを作ろう。絶対美味しいわ。
 それと一緒にいくつかのレシピも買い取った。

「そういえば、変な男に声をかけられたんですよ」
 唐突な話に首を傾げる。変な男って誰かしら。
「金髪の男で、セリーヌという少女を知らないかって。黒髪の小さな女だって言ってたんですよね」
 金髪……
 ノア様のこと? でもわたしがここにいるって知ってるはずだし、他にそんな人知らないわ。
 でも容姿は当たってる。わたしは黒髪だし身長はこの国では小さい方だ。なんだか気持ち悪いなって思いながら話を聞く。
「なんだか訳ありっぽいから知らないっていっておいたけど、気をつけてくださいね?ここに来る人たちには一応口止めしといたほうがいいと思う」
 マルクスさんの忠告に頷いて返事を返した。ここでまた問題が増えてしまい、さらに頭を抱えた。



 鶏を骨ごとくつくつ煮込む。脂が出てきて、いい匂いがする。やっぱりお肉はいいわね。
 出汁の中に野菜を突っ込む。野菜のポトフの完成だ。テーブルについて久しぶりにお肉を頬張る。顔が溶けてなくなりそうだ。
 流石に動物の世話はできないし、お肉にするために解体しなきゃいけないけどそんなのもできない。持ってきてもらうほかないのだ。
 そんな時、訪問者が現れた。
「ノア様!また来てくれたんですね」
 金髪碧眼の美形、ノア様が来てくれていた。
 ちょうどご飯を食べていたので「食べますか?」と聞くと頷いたのでお出しする。美味しいと言いながらペロリと平らげてくれて、嬉しくなった。

「今日は何かあるか?」
 きっと手を貸してくれるのだろう。けれど今日は特に何もなかったので大丈夫と首を振る。
「そういえば今日村の辺りでお前を探している奴がいたんだが……」
 またその話だ。どれだけ聞き込みをしているんだろう。本当気味が悪い。
「金髪の人ですよね?わたし知らないと思います。金髪はノア様しか知りません」
「そうだよな。しかしなんであいつが……」
「あいつ?」
「あ、いや。とりあえず、知らないとは言っておいたが……マルクスからも聞いたんだよな?さっきすれ違ったけど」
「そうですね。あとはここに来てから会ったことがあるのは、騎士の人たちくらいですけど」
 あいつらは大丈夫と彼が言っていたので信じることにする。なんだか気持ち悪い感じがするが、気にしないことにした。



 いいところを見つけたんだという彼について行き、森を散策すると水の音が聞こえてくる。澄んだ綺麗な水の中には魚が泳いでいる。思わず近くまで行こうとするも彼に止められてしまった。
「足元危ないから」
 そう言って手を繋いでくれた。
 そばの切り株に座り眺めたところでふと思った。釣りをしたらお魚が食べられるんじゃないかな。
「どうした?」
「釣りをしようかと思いまして。お魚食べたい」
 素直に伝えると彼は渋い顔をして首を振る。
「それはダメだな。もし野盗や変なやつが来たらどうする」
 それもそうか。川の近くには獣道ができていて、この山を越えようとすれば必ず通る道だ。がっかりする。魚、食べたかったのに。
「俺がいる時なら付き合うよ」
 ぱあっと顔が明るくなる。魚は食べたくても日持ちしないのでマルクスさんにも頼めなかった。
 そんなわたしをみて彼は顔を綻ばせていた。


 次の日、ノア様は釣り竿と餌を持ってきてくれた。お昼ご飯も用意して川へ向かう。餌をつけてもらって川へ糸を投げ入れた。釣竿の先を二人並んでぼーっと見ている。
「あっ」
 竿の先が動いている。
 来たかもと思い、えいっと釣り上げるも逃げられてしまい、がっかりしてしまう。そんなわたしに彼は優しく教えてくれた。
 その通りにやってみると、釣り上げることができた。楽しくなって、時間を忘れて釣りに熱中する。
「ちょっと休憩しよう」
 彼が声をかけてくれたことでお腹が空いていることに気づき、昼食を食べることにした。今日はサンドウイッチだ。食器がなくても食べられるし、味のバリエーションもある。
「そういえばお仕事されているんですよね?こんなに来ていただいて大丈夫なんですか……?」
「大丈夫だよ。融通が効く仕事だから」
 そうだと言いうならそうなのだろう。あまり深く聞かないようにしよう。
「そういえば、セリーヌ嬢はどうしてこんな山奥で暮らしているんだ?ここに来たのは最近だろう」
 そう聞かれたわたしは、今までのことを話すことを決めた。
「わたし、家族からは虐げられていて、ついには山に捨てられたんですよ。でも元々あの家から出たかったし、準備もコツコツしてたんで、今はとても充実しているんですけどね」
 特に虐げられていたことに関しては何も思わない。周りに助けてくれる人たちがいたから。
 そう思っていたけれど、彼の表情は曇っていた。辛いような怒っているような妙な表情だ。
「君の家はどこのものかな」
「あ、全然気にしてないので大丈夫ですよ!助けてくれる使用人たちもいたので……あ」
「君が貴族ということはわかったよ。そこまでわかればあとは簡単だ」
 うっかり墓穴を掘ってしまい、俯いてしまった。
 
 
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