山に捨てられた元伯爵令嬢、隣国の王弟殿下に拾われる

しおの

文字の大きさ
20 / 43

20

しおりを挟む
 今日はノア様とデートの日だ。お休みをもらったみたいで、朝から出かけるのだ。
「今日も可愛いな。さ、お手をどうぞ」
 可愛いという言葉に頬が染まった。あの日以降なんだかわたしを褒めまくるのだ。ことあるごとに可愛いと言われ、その度に顔を赤くする。そんなわたし達を生暖かい目で見ている皆。これがこのお屋敷の日常となっていた。



 今日は海に連れて行ってくれるらしい。どうやら別荘を持っているそうでそこで過ごすのだそうだ。
 生まれてこの方海を見たことがないわたしは、はしゃいでいた。
 そんなわたしの頭を撫でながら彼は綺麗な青色の目を細め微笑んでいた。
「わぁ、きれい。吸い込まれそう」
「それは俺が困るな。連れ去られないように手を繋ごうか」
 ぎゅっと握り込まれた手は大きくて、わたしの手をすっぽり覆ってしまう。嬉しくなりにこにこしていると頬にキスを落とされた。
 びっくりして固まってしまったわたしを見てくすくす笑い、再び歩き出す。
 砂浜に来ると周りには屋台が並んでいた。ちょうど小腹がすいた頃だ。
 屋台で適当なものを買い、砂浜に二人並んで座る。別荘の使用人がついてきてくれて、シートをしっかりと敷いてくれていた。

 ザザーっと波の音だけが聞こえる。山とは違った自然に心穏やかになる。
「セリーヌは本当自然が好きだな」
「はい、落ち着きます」
 ぽつり、ポツリと会話しながら二人でぼーっと眺める。
 そのうち彼の視線がこちらに向いているような気がして、顔を向ける。
 きれいな顔立ちに青い眼。反射しているのか余計にキラキラしている。
 そっと後頭部に手を添えられて、彼の方へ引き寄せられる。

 唇と唇が触れてそっと離れた。
 恥ずかしくなって彼の胸に顔を埋めると、両手でそっと抱きしめてくれた。


 馬車に乗り、帰路に着く。馬車の中では恥ずかしくて顔を上げれないわたしとそれをくすくす笑いながら後ろから抱きしめる彼。
 甘々な彼にわたしは翻弄され続けていた。



 そんな日々が続き、わたしは顔が赤くなるのを隠すために白粉をはたき、あえて頬紅をさして誤魔化そうとしていた。変な方向に努力しているわたしを見て彼はくすくす笑い、耳も塗らないとすぐわかると言って揶揄ってくる。
 もう! と頬を膨らませて抗議するもすぐに唇にキスされてしまい、とどめに可愛いと言われ、何も言えなくなってしまった。

 なんとか見返してやろうと思い、わたしはまた彼が一人で出かけているときにお義兄様を呼び出した。
「今度は何をするんだい?」
 化粧で誤魔化してみたら?っていったのはお義兄様だ。その通りやったのに全く意味をなさなかった。
「お義兄様のいう通りにやってみたけどダメだったの。なんか他にいい案はない?」
 面白がっているような表情でくつくつ笑っているお義兄様。絶対この状況楽しんでるでしょ!
「もう、こっちは真剣なんだけど!」
「わかったわかった。要は、恥ずかしいと思わなくなればいいってことだな?」
「違うわ!恥ずかしいことをしないでほしいの!」
「それは無理だな。好きな人に触れたいって思うのは人間の当然の心理というものだ。そこを抑制すると爆発するぞ」
 うっ、それもそうだ。
 もっとすごいことをされてしまうかもしれない。どうしよう。やっぱり慣れるしかないのかな。
 でもドキドキしてしまって何をされても恥ずかしくなってしまう。
 どうしたものか。
「じゃあさ……」
 お義兄様の作戦を実行することにした。


 後日二人で再びあの海の別荘へ向かっていた。   
 今日はあの作戦を実行する日。覚悟も決めてきた。
 二人でぷらぷら過ごしながら夜をまった。
 別荘は部屋数があまりなく、彼の部屋とわたしの部屋は扉一枚で繋がっている。
 ソフィアに相談したらピラピラの薄い寝巻きを用意してくれた。
 意を決して続き扉を開ける。
 わたしを見た彼は目を見開いて驚いている。同時に手を目で覆って下をむいた。
「セ、セリーヌ?!ど、ど、どうした」
 かなり動揺しているようだ。初めて見る彼の姿に作戦が成功したことを確信し、思わず顔が緩む。
 そしてお義兄様から伝授された決め台詞を言うのだ。
「ノア様、一緒に寝よ?」
 しばらく無言が続く。失敗しただろうか。彼の様子を伺うと体を折り曲げていて、表情もわからない。
 思わずおろおろしてしまうわたしの腕を彼は掴んだ。そのまま引き寄せられて彼の上に向き合った状態で座らされてしまう。
「誰の入れ知恵だ?ルカか……」
「あ、あの」
「男の部屋にそんな格好で来ることの意味を君は理解しているのか?」
 こくりと頷く。前世も含めて経験がないとはいえ、知識はある。この後起こるであろうことも予想はできていた。



 顎を掴まれ上へ向けられる。
 そのまま彼の顔が近づいてきてキスをされる。角度を変えて何度も口付けられた。下を向こうにも後頭部にも手を回され、顔を動かすことができない。
 そのうちに唇をなぞられ、ゾクゾクしてくる。息が苦しくなって口を開けた瞬間、彼の舌が入ってきた。
 
 
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

婚約者候補になったけれども

ざっく
恋愛
王太子 シャルル・ルールに、四人の婚約者候補が準備された。美女才媛の中の一人に選ばれたマリア。てか、この中に私、必要?さっさと王太子に婚約者を選んでもらい、解放されたい。もう少しだけそばにいたいと思う気持ちを無視して、マリアは別の嫁ぎ先を探す。コメディです。

悪女役らしく離婚を迫ろうとしたのに、夫の反応がおかしい

廻り
恋愛
第18回恋愛小説大賞にて奨励賞をいただきました。応援してくださりありがとうございました!  王太子妃シャルロット20歳は、前世の記憶が蘇る。  ここは小説の世界で、シャルロットは王太子とヒロインの恋路を邪魔する『悪女役』。 『断罪される運命』から逃れたいが、夫は離婚に応じる気がない。  ならばと、シャルロットは別居を始める。 『夫が離婚に応じたくなる計画』を思いついたシャルロットは、それを実行することに。  夫がヒロインと出会うまで、タイムリミットは一年。  それまでに離婚に応じさせたいシャルロットと、なぜか様子がおかしい夫の話。

婚約破棄に応じる代わりにワンナイトした結果、婚約者の様子がおかしくなった

アマイ
恋愛
セシルには大嫌いな婚約者がいる。そして婚約者フレデリックもまたセシルを嫌い、社交界で浮名を流しては婚約破棄を迫っていた。 そんな歪な関係を続けること十年、セシルはとある事情からワンナイトを条件に婚約破棄に応じることにした。 しかし、ことに及んでからフレデリックの様子が何だかおかしい。あの……話が違うんですけど!?

【完結】愛する人はあの人の代わりに私を抱く

紬あおい
恋愛
年上の優しい婚約者は、叶わなかった過去の恋人の代わりに私を抱く。気付かない振りが我慢の限界を超えた時、私は………そして、愛する婚約者や家族達は………悔いのない人生を送れましたか?

貴方の✕✕、やめます

戒月冷音
恋愛
私は貴方の傍に居る為、沢山努力した。 貴方が家に帰ってこなくても、私は帰ってきた時の為、色々準備した。 ・・・・・・・・ しかし、ある事をきっかけに全てが必要なくなった。 それなら私は…

ラヴィニアは逃げられない

恋愛
大好きな婚約者メル=シルバースの心には別の女性がいる。 大好きな彼の恋心が叶うようにと、敢えて悪女の振りをして酷い言葉を浴びせて一方的に別れを突き付けた侯爵令嬢ラヴィニア=キングレイ。 父親からは疎まれ、後妻と異母妹から嫌われていたラヴィニアが家に戻っても居場所がない。どうせ婚約破棄になるのだからと前以て準備をしていた荷物を持ち、家を抜け出して誰でも受け入れると有名な修道院を目指すも……。 ラヴィニアを待っていたのは昏くわらうメルだった。 ※ムーンライトノベルズにも公開しています。

殿下、今回も遠慮申し上げます

cyaru
恋愛
結婚目前で婚約を解消されてしまった侯爵令嬢ヴィオレッタ。 相手は平民で既に子もいると言われ、その上「側妃となって公務をしてくれ」と微笑まれる。 静かに怒り沈黙をするヴィオレッタ。反対に日を追うごとに窮地に追い込まれる王子レオン。 側近も去り、資金も尽き、事も有ろうか恋人の教育をヴィオレッタに命令をするのだった。 前半は一度目の人生です。 ※作品の都合上、うわぁと思うようなシーンがございます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】王子から婚約解消されましたが、次期公爵様と婚約して、みんなから溺愛されています

金峯蓮華
恋愛
 ヴィオレッタは幼い頃から婚約していた第2王子から真実の愛を見つけたと言って、婚約を解消された。  大嫌いな第2王子と結婚しなくていいとバンザイ三唱していたら、今度は年の離れた。筆頭公爵家の嫡男と婚約させられた。  のんびり過ごしたかったけど、公爵夫妻と両親は仲良しだし、ヴィオレッタのことも可愛がってくれている。まぁいいかと婚約者生活を過ごしていた。  ヴィオレッタは婚約者がプチヤンデレなことには全く気がついてなかった。  そんな天然気味のヴィオレッタとヴィオレッタ命のプチヤンデレユリウスの緩い恋の物語です。  ゆるふわな設定です。  暢気な主人公がハイスペプチヤンデレ男子に溺愛されます。  R15は保険です。

処理中です...