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お手洗いを終え、部屋を出ようとした時黒い服を着た人たちに囲まれてしまった。声を上げる間も無く首を打たれ意識を失った。
「あれ、ここは……」
馬車の中のようだ。窓は布で覆われていてどこにいるかわからない。しばらく走ってぴたりと止まった。
黒い服の人に外に連れ出され、向かったのは小屋だった。周りには何もない。
促されて進むと中には見知った人物が立っていた。
「え?なんでこんなところに……」
「なんで?なんでかわからない?」
思い返してみてもよくわからない。以前生家へ行った時、わたしとは今後一切関わらないって書面で書かれていたはず……
「ねぇ、わたくしあの方と結婚したいの。わたくしと変わってくださる?」
変わる?あの方って誰のこと……?
「ノア様よ!わたくしとあんたが入れ替わるの。それで全てうまくいくわ。さ、譲ってちょうだい?」
譲る……譲れるわけ、ないじゃない
「無理よ。いや。彼のそばを離れたくない」
ここで初めてわたしは妹に反抗した。何があっても譲れない大切なものができたから。何があっても離してあげられない。わたしを留められるのは彼だけだもの。
妹はそんなわたしに激昂し、手を振り上げて頬を打つ。
「もうわかった。やっぱりあんたは消しとくべきだったわ。わたくしの人生めちゃめちゃにして楽しかったでしょうね。今度はあんたがメチャクチャになる番よ!」
妹はそう言って小屋を出て行った。がちゃんと音がしてハッとする。もしかして、閉じ込められた……?
小屋の入り口に駆け寄り開けようと試みるもあかない。
脱出するのは諦めて、倉庫の中を見渡してみる。小麦粉は大量にあるけど、他は既に食べられない状態だ。それに水もない。ここで生活するのは不可能だ。
どうしようか考えていると、ふと小窓を見つけた。背伸びしても届かないけど、踏み台があればなんとかなりそう。
そう思い、小麦粉の入った袋を引きずって小窓のそばに積み上げる。ちょっと重かったけど、頑張って積み上げる。
「よいしょ」
せっせと上にのぼるとなんとか出れそうだ。けれどその小窓は少ししか開かなくて、出るには壊さないといけない。
再び降りて使えるものがないか探すと、ちょうどよさそうな木の棒を見つけ、窓の木枠を突いた。留め具が古くなっていたようで簡単に外すことができた。
「よし」
そのまま木枠に頭から体を突っ込む。お腹まで抜けたところでふと気づいた。
「ど、どうやって降りよう……」
このまま抜けたら頭から落ちるのは確実だ。猫でもない限りうまく着地なんてできない。
そのままの状態で固まっているとどこからか、わん!と聞こえた。
こんなところになんで犬が?
なんて呑気に考えていると今度は馬の足音も聞こえてくて。わたしの目の前にクレバーが現れた。
「え?クレバー?」
クレバーに驚いていると続いて彼が馬に乗って現れた。
「セリーヌ!」
びっくりしてじっと目を見開いていると彼は馬を降りて小窓まで来てくれる。両手を広げ、降りろと言っているようだ。
意を決して降りようとするも今度はドレスが引っかかって出て来れない。
「ドレスが、引っかかって出れないです」
半泣きになりながら彼に伝えると、今度はバンっと大きな音がする。どうやら小屋の入り口を蹴飛ばして開けたようだ。
そのまま彼に引っ張られて、無事に小窓から出ることができた。
「あ、ありがとう」
ぎゅっと彼に抱きしめられる。その体は震えていて、わたしは安心させるために腕を彼の背中に回した。
どうやらかなり心配をかけてしまったみたいだ。
馬に乗っている間も彼はちらちらと心配そうにわたしの様子をうかがっていた。
どうやら今回は妹の単独行動だったらしい。あの日以来、妹は伯爵家に軟禁状態だったのだという。それもそうだ。隣国の王弟殿下のお怒りをかうようなことをしてしまったのだから。それでもなぜか妹は伯爵家から飛び出しわざわざ隣国まで来て、さらには王宮に間者を忍ばせていた。
いくらあの妹といえど、そこまでできるのかしら。そもそも隣国の王宮に間者を忍ばせるなんて可能なのだろうか。
その点は彼も疑問に思っているらしい。けれど妹は自分が全てやったと言っているのだという。
今回のことで妹は辺鄙な場所にある修道院へ送られることとなった。こちらからはお咎めなしといえど、後継もなく使用人達からも見限られた状態で、おそらく伯爵位は返還されるのではないかとのことだ。
仮にも王弟殿下の婚約者に危害を加えようとするものは極刑を免れないだろうにと首を傾げているとノア様が教えてくれた。
「今回のことは国際問題になる。隣国ともあまり揉めたくないのもある。グロリア国は今の国王陛下と第二王子殿下が優秀だと聞くしな。未来を見越して、今回は何も刑を言い渡していない。ただし、抗議はさせてもらったがな」
とのことだった。なるほど、政治が絡んでいるのか。
その日は甲斐甲斐しく世話され、お風呂も一緒に入った。怪我の確認だと言っていたけど、あちこち触られてしまって。悪戯心で「痛い」って言ったらすぐやめてくれた。
断るときはこれが使えるかもしれない。
「あれ、ここは……」
馬車の中のようだ。窓は布で覆われていてどこにいるかわからない。しばらく走ってぴたりと止まった。
黒い服の人に外に連れ出され、向かったのは小屋だった。周りには何もない。
促されて進むと中には見知った人物が立っていた。
「え?なんでこんなところに……」
「なんで?なんでかわからない?」
思い返してみてもよくわからない。以前生家へ行った時、わたしとは今後一切関わらないって書面で書かれていたはず……
「ねぇ、わたくしあの方と結婚したいの。わたくしと変わってくださる?」
変わる?あの方って誰のこと……?
「ノア様よ!わたくしとあんたが入れ替わるの。それで全てうまくいくわ。さ、譲ってちょうだい?」
譲る……譲れるわけ、ないじゃない
「無理よ。いや。彼のそばを離れたくない」
ここで初めてわたしは妹に反抗した。何があっても譲れない大切なものができたから。何があっても離してあげられない。わたしを留められるのは彼だけだもの。
妹はそんなわたしに激昂し、手を振り上げて頬を打つ。
「もうわかった。やっぱりあんたは消しとくべきだったわ。わたくしの人生めちゃめちゃにして楽しかったでしょうね。今度はあんたがメチャクチャになる番よ!」
妹はそう言って小屋を出て行った。がちゃんと音がしてハッとする。もしかして、閉じ込められた……?
小屋の入り口に駆け寄り開けようと試みるもあかない。
脱出するのは諦めて、倉庫の中を見渡してみる。小麦粉は大量にあるけど、他は既に食べられない状態だ。それに水もない。ここで生活するのは不可能だ。
どうしようか考えていると、ふと小窓を見つけた。背伸びしても届かないけど、踏み台があればなんとかなりそう。
そう思い、小麦粉の入った袋を引きずって小窓のそばに積み上げる。ちょっと重かったけど、頑張って積み上げる。
「よいしょ」
せっせと上にのぼるとなんとか出れそうだ。けれどその小窓は少ししか開かなくて、出るには壊さないといけない。
再び降りて使えるものがないか探すと、ちょうどよさそうな木の棒を見つけ、窓の木枠を突いた。留め具が古くなっていたようで簡単に外すことができた。
「よし」
そのまま木枠に頭から体を突っ込む。お腹まで抜けたところでふと気づいた。
「ど、どうやって降りよう……」
このまま抜けたら頭から落ちるのは確実だ。猫でもない限りうまく着地なんてできない。
そのままの状態で固まっているとどこからか、わん!と聞こえた。
こんなところになんで犬が?
なんて呑気に考えていると今度は馬の足音も聞こえてくて。わたしの目の前にクレバーが現れた。
「え?クレバー?」
クレバーに驚いていると続いて彼が馬に乗って現れた。
「セリーヌ!」
びっくりしてじっと目を見開いていると彼は馬を降りて小窓まで来てくれる。両手を広げ、降りろと言っているようだ。
意を決して降りようとするも今度はドレスが引っかかって出て来れない。
「ドレスが、引っかかって出れないです」
半泣きになりながら彼に伝えると、今度はバンっと大きな音がする。どうやら小屋の入り口を蹴飛ばして開けたようだ。
そのまま彼に引っ張られて、無事に小窓から出ることができた。
「あ、ありがとう」
ぎゅっと彼に抱きしめられる。その体は震えていて、わたしは安心させるために腕を彼の背中に回した。
どうやらかなり心配をかけてしまったみたいだ。
馬に乗っている間も彼はちらちらと心配そうにわたしの様子をうかがっていた。
どうやら今回は妹の単独行動だったらしい。あの日以来、妹は伯爵家に軟禁状態だったのだという。それもそうだ。隣国の王弟殿下のお怒りをかうようなことをしてしまったのだから。それでもなぜか妹は伯爵家から飛び出しわざわざ隣国まで来て、さらには王宮に間者を忍ばせていた。
いくらあの妹といえど、そこまでできるのかしら。そもそも隣国の王宮に間者を忍ばせるなんて可能なのだろうか。
その点は彼も疑問に思っているらしい。けれど妹は自分が全てやったと言っているのだという。
今回のことで妹は辺鄙な場所にある修道院へ送られることとなった。こちらからはお咎めなしといえど、後継もなく使用人達からも見限られた状態で、おそらく伯爵位は返還されるのではないかとのことだ。
仮にも王弟殿下の婚約者に危害を加えようとするものは極刑を免れないだろうにと首を傾げているとノア様が教えてくれた。
「今回のことは国際問題になる。隣国ともあまり揉めたくないのもある。グロリア国は今の国王陛下と第二王子殿下が優秀だと聞くしな。未来を見越して、今回は何も刑を言い渡していない。ただし、抗議はさせてもらったがな」
とのことだった。なるほど、政治が絡んでいるのか。
その日は甲斐甲斐しく世話され、お風呂も一緒に入った。怪我の確認だと言っていたけど、あちこち触られてしまって。悪戯心で「痛い」って言ったらすぐやめてくれた。
断るときはこれが使えるかもしれない。
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