山に捨てられた元伯爵令嬢、隣国の王弟殿下に拾われる

しおの

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 お腹にくっきりついた線はすっかり消えていた。もう大丈夫だと何度伝えてもずっと付き添っている彼は以前にもましてべったりだ。
 わたしは全然気づいていなかったのだけれど彼は仕事をサボってまで私に付いていてくれたらしい。
 わたし宛に国王陛下から王宮へ来るように言ってくれと何度も書かれた手紙を受け取り、彼を説得にかかった。
「ノア様。わたし、言いたいことがあります」
「なんだ」
「一緒にいてくださるのはとてもありがたいですが、わたし、ノア様がお仕事をしっかりしているところも好きです」
 ガバッと抱きつかれ、キスされる。でもまだ言わないといけないことがある。
「でも!最近行ってませんね?陛下から苦情が来ています。それを聞いてわたしびっくりしたんです。仕事ができる人が好きです。サボる人は好きになれません」
 実際は仕事をサボってでも一緒にいようとしてくれる彼が好きだけれど、流石にサボりすぎだ。心を鬼にして言い放つ。
「そんなノア様は好きになれません」
 この世の終わりみたいな顔をしている。なんだかやりすぎたかなって思ったけど、王妃様からこのくらいやらないと効かないのよって聞いていた。どうやら効果は覿面てきめんのようだ。
「……わかった。けどその前に、本当に大丈夫になったか確認させてくれ」
 その言葉に首を傾げているとベッドに押し倒され、恒例の朝までコースとなった。




 その次の日から彼はいつも通り仕事に向かっていた。毎朝少し名残惜しそうにキスをして。
 今日はクレバーとたくさん遊ぶ日だ。最近体がだるくて遊んであげられなかったけれど体力がついたようで、以前よりも元気だ。
 彼からプレゼントされたお気に入りの髪飾りをつけて朝から夕方まで遊んでいた。
 クレバーと共に部屋に戻るとソフィアは首を傾げていた。
「セリーヌ様、髪飾りはどうされました?」
 ん?と思って鏡を見るとどこにもついていない。今日はクレバーと一緒に走り回ったからどこかに落としてしまったようだ。
「落として来ちゃったみたい。探してくるわ」

 再び庭に行く。しゃがみながら草をかき分けて探すもなかなか見つからない。
 途方に暮れてしまい、諦めようとしたそのとき
「わん!」
 クレバーが何かをくわえてきたのだ。よくよく見ると無くした髪飾りで。
「まぁ、探してきてくれたの?ありがとう、大事なものなの」
 たくさん頭やお腹を撫でて褒めてあげる。やっぱりクレバーは賢いのだ。
 そういえばわたしが王宮から連れ出された時もクレバーが吠えて彼に知らせてくれて、そのままわたしのいる小屋まで一直線だったのだそう。
 誰かに飼われていたのかしら?わたしの命の恩人だ。
 クレバーは専用の部屋が与えられていて普段はそこで寝ているらしい。日中はあちこち顔を出し、使用人達の仕事のお手伝いをしてくれているそうだ。
 おかげで屋敷のアイドル犬である。
 クレバーはクレバーで楽しそうなのでよしとしよう。



 その日からノア様の帰りが遅くなり、次第に王宮に泊まるようになった。よっぽど仕事を溜め込んでいたのか、何か大きな事案があるのかはわからないけど、忙しそうだ。
 わたしはわたしで、なんだか眠たくてソファで居眠りする時間が増えていった。


 二週間ぶりに帰ってきた彼はだいぶやつれている。目の下のクマがひどいのだ。ふらふらと歩きながら部屋へ歩いていた。心配になってその後ろをついて歩く。
 部屋に入ると彼はソファに座り目を閉じてしまった。こんなに疲れ切っている彼を見るのは初めてだ。一体どうしたというのか。
 彼の隣に座り、膝枕をしてあげる。
 サラサラな髪を撫でているといつの間にかわたしも眠ってしまっていた。


 目を覚ますとベッドで横になっている。目の前には彼の綺麗な顔がわたしを見つめていて。
「あぁ、生き返る」
 そう言ってぎゅっと抱きしめられる。よっぽど疲れたのだろう。頭を撫でてあげた。すると次第に彼の目がとろんとしてきて。
「幸せか?」
「幸せです」
「俺も」
 二人で笑い合ってそのまま眠った。




 二人でぐっすり眠って次の日を迎える。
 まったり二人並んでソファに座りながら、ここ数日忙しかった理由を教えてくれた。
 どうやら隣国から抗議文が届いたらしい。一体なんのことかと内容を確認すると、どうやらわたしとカーライル王太子殿下との婚約が成立していたという手紙だったそうだ。
 一体なぜ?と思っていたら、わたしが山に捨てられる前に、カーライル王太子殿下とフォンティーヌ伯爵との間で口約束で婚約が約束されていたのだという。そのことを書状で送られ、彼のお兄様、アルメリア国王陛下が向こうへ確認を取ったのだという。
 向こうの国王陛下はその話について何も聞いていなかったようで、そんな事実はないと返答が来たのだとか。
 どうやらカーライル王太子殿下の独断での抗議文だったようだ。
 その対応でどうやら忙しかったらしい。
 結局は伯爵とカーライル王太子殿下の口約束に過ぎず、書類もかわしていないため無効となった。そもそもいつの時点での口約束だったのか知らないが、今は勘当されていて籍も抜かれているため、今更持ち出したところで無効になるのは目に見えている。なぜそんなことをし出したのか謎だった。
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