山に捨てられた元伯爵令嬢、隣国の王弟殿下に拾われる

しおの

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「ここは、どこですか?」
 教えてくれるかわからなかったが、聞いてみる。すると女性は本当に申し訳なさそうな表情で教えてくれた。
 ここはアルメリア国のとある空き別荘なのだという。女性は脅されてしまい、泣く泣くわたしのお世話をしてくれているんだとか。どうにか出してあげたいけれどどうしていいか分からないと泣きながら教えてくれた。
「そう、あなたも辛かったのね。一緒にここから出ましょう!まずはあなたの知っていること教えてもらえる?」
 その女性は涙ぐみながら教えてくれた。
 どうやらこの誘拐の犯人は隣国のグロリアの者らしい。相手は権力者のようで、どうしても断れなかったと。
 ただ誰なのかはわからないらしく、チラリと見えた姿しかわからないのだとか。金髪だったのは覚えていて服装からも王族なのではないかと。
 もしかして、カーライル王太子殿下かしら。
 最近妙な抗議文を送ってきたと彼も言っていた。可能性は高い。

 それからこの部屋の外の様子も教えてくれた。
 どうやら部屋の外には兵士が見張りで立っているらしい。門前や玄関など全部で五人。
 脱出するのは難しそうだ。
 それに、誘拐犯はここ、アルメリア国から隣国グロリアへ帰る際にここに寄って、わたしを連れ帰る計画らしい。これは騎士や誘拐犯の会話を盗み聞きして仕入れた情報だという。
 なかなか頼りになるわ。
 名前はクリスティナというらしい。仲間意識が芽生えたわたしは彼女をティナと呼ぶことにした。
 もし、助けがきた場合、必ずティナを助けると約束して。


 相変わらず、匂いの強いものは受け付けない。そんなわたしの食事をティナが作ってくれていた。
「ねぇ、セリーナ様、あなたもしかして……」
「お医者様にかかっていないからわからないけれど、多分そうだど思うの」
「まぁ……もしあの人が帰ってきたらそれは隠しておいた方がいいわ。なんだかあの人の目、執着しているような嫌な感じだったもの。もしバレたら、お腹の子が危ないわ」
 その言葉に震えてしまう。そうだ、いるかはわからないけれど、もし命が宿っていたら。何が何でも守らなくては。
 幸いにも協力者がいるし、騎士達はこの部屋には入ってこない。
 二人で作戦を考えていた。


 警備が薄くなるのは夜だ。抜け出すなら夜しかない。しかし抜け出す方法を考えないと……
 ティナと一緒に部屋中を探しまくる。大抵の屋敷や別荘には隠し通路というものが存在するのだ。
 日が沈み暗くなった頃、ティナから「休んでいてください、わたしがやりますから」と言われ、調子も悪かったのでお言葉に甘えた。


「あ、ありました!」
 どうやらティナが見つけてくれたみたいだ。中に入ってどこに続くか確かめようと思ったけれどティナにとめられてしまう。
「危ないですから、わたしがやります。セリーナ様はお休みになっててください」
 そのまま彼女は隠し通路に消えて行った。

 
 しばらくするとティナが戻ってきた。
「どうやらどこかに繋がっているようですが、どこに繋がっているかわかりませんでした。おそらく外に繋がっていると思うのですが……」
「そうね、今は兵士もいるし開けるのは危険だわ。やるなら夜かしら。でも明かりがいるわね」
 ティナは明かりをこっそりと調達するために部屋をでた。右手に何か持って帰ってきたところを見ると、無事にランタンを入手できたようだ。

 とりあえずその日はゆっくりと休むことにした。




 次の日は朝から具合が悪く、動けなかった。水やスープしか喉を通らない。
 そんなわたしの背中をずっとティナはさすってくれていた。
 そんな中、ティナは廊下やあちこちに配置されていた兵士達の話を聞いてきてくれたらしい。
「どうやらあと二日後にくるみたいです。それまでにどうするか考えなければ」
「そう、ね……明日でも、いいかしら……今日はダメそう」
「考えてみますから、休んでください」
 ティナの言葉に甘えてゆっくり休むことにした。


 朝から二人で作戦会議だ。
 今日は調子がいいのか朝は元気だった。
 昨日の夜にティナがこっそり抜け道の先を見てきてくれたそうだ。その先は屋敷よりも離れていて、安全そうだと。
 それとおそらく誘拐犯はここに寄った後すぐに出発する予定らしい。ということは、誘拐犯がくる前までに抜け道を使って逃げなければならない。
 逃げた後のことも考えて食糧を少々集めて置く必要もある。種があればいくらでも作れるけれど、何も調理しない状態で食べれるものの方が好ましい。
 それをティナに伝えると、厨房にいってこっそりくすねてくると言ってくれた。
 順調だ。
 ただ、わたしの体調が安定しない。どうやら波があって今は少し調子が悪いのだ。

 もしわたしが動けなかったときは、ティナだけでも抜け道で抜けて、外に助けを求めた方がいい。
 わたしが体調不良でも無理やり連れて行行とする人なら、どうしようもないだろうが、そこはティナに任せるしかない。とりあえず、時間を稼ごう。

 多分今彼が何か策を立てて助けに来てくれるはず。彼はカーライル王太子殿下を警戒しているはずだからきっと気づいてくれる。
 一縷の望みをかけて、明日を待った。   
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