【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ

⚪︎

文字の大きさ
19 / 39

連行

しおりを挟む

 魔法学園の卒業は確定した。
 推薦が来るはずのない成績に納まった。
 第二王子の婚約者という設定は変えられていないが、それは今後に期待。とりあえずはまだ嫁がされる様子はないので、あとやることと言えば┄┄

「就職活動!」

 基礎は固まったのだ。魔法学者としての本格的な始動である。
 父に良い感じの研究室を紹介してもらえないだろうか、と甘えられるものには存分に甘えていくつもりでいるエマ。
 スッキリとした表情で自室の扉を開ければ、丁度ノックをするつもりだったのだろうニーアがいた。

 お互いに面食らったが、直ぐに、

「おはよう、ニーア」
「おはようございます。お嬢様」

 思えば視線も随分近付いたものだ。
 子どもらしくちんちくりんだったエマは、年相応に美しい女性へと成長を遂げた。

 しかしまぁ、結局身長は平均より少し下という微妙なラインで、本来の悪役らしい深海のような闇を孕んだじっとりとした目は、ただの気の抜けた眠そうな瞳になってしまった上、

「今日もいい天気だねぇ」

 へらへらと笑う姿は、実年齢以下の──子どもらしさは抜けたが相変わらず──ただのちんちくりんである。

「ニーア、お父さんどこにいる?」

 そんなエマが早速、件の話を持ち掛けようとニーアに問えば、

「ご来客があり、客間に」
「来客?」
「はい。サースティン様です」

 ファッ!?

「お嬢様もお呼びするよう仰せつかいました」

 なんだと、とエマは息をのんだ。
 お偉い魔法士様が、わざわざこんなド田舎領へと何用なのか。
 しかも訊けば一人で来ているのだという。

 嫌な予感。

 エマは即座に自室にUターンしようとしたが、ニーアに首根っこを掴まれ止められた。
 ぐぇ、と潰れたカエルのような声を上げる。
 なんだか最近はこんな声ばかり上げているような気がする。

「お嬢様。ルソーネの息女として、くれぐれも粗相のないように」

 念を押され、エマはズルズルと客間へと連行された。


 /


「エマさん、少しぶりですね」

 我が家に悪魔がやってきた。

 エマは笑顔を引き攣らせながら挨拶をし、フェリクスと対面しているレオンの隣に座った。

「エマ、サースティン殿から話は訊いたよ。人助けをしたんだって? 偉かったねぇ」

 この父親、人前でもいつもと調子は変わらないのだ。
 頭を撫でられそうになったので素早く躱した。
 フェリクスはそんな親子のやり取りをクスクスと楽し気に眺めながら、

「では、こちらの書類は持ち帰らせていただきますね」

 レオンのサインがばっちりと入った承諾書を掲げた。

 仕事の速さにエマの胃痛が荒れ狂った。
 だが彼が来たと聞いた時点でそんな気はしていたのだ。

「はい、是非とも娘のことをよろしくお願いします。┄┄よかったね、エマ。大好きな魔法研究の最高峰だよ!」
「本当に、お嬢様は優秀であらせますよ」
「えぇ~いやぁ、知ってはいますが上等級魔法士様に改めてそう言われると照れますねぇ~」

 でへへと締まりのない笑みを浮かべる父親に、エマは久しぶりのイライライラー発作が起きそうになった。
 そんなエマを放置して、ニコニコ笑顔でゆるんゆるんの雰囲気を醸し出すレオンとフェリクス。

(この二人、なんか微妙に似てるな、嫌な意味で)

 そんなことを思うが、愚痴を零すのは後にしなければ。

「あの!」

 立ち上がり、大きく声を張った。
 瞳を瞬かせ同じような反応をする二人に向かって、

「私、ワーズには行きましぇ……ん!!」

 見事に大事なところで噛んでしまった。
 だが無理やり押し切った。
 何事もなかったかのようにキリリと表情を強めるエマ。

 少しの沈黙を経て┄┄

「エマ、それはいけましぇん」
「エマさん、これはもう必須事項だと思ってくだしゃい」
「うがぁぁぁぁぁ!!」

 頭を抱えて蹲った。
 どうしてスルーしてくれないんだ。

「まぁ冗談はさておき、残念ながら君の才能を野放しにはできないので」
 と、フェリクス。

「半端なところに行くよりも安心だから、僕も賛成だよ、エマ」
 と、レオン。
 
 父親はさておき、

「君は少し、器用すぎますしね」

 フェリクスのその言葉だけは引っ掛かった。

 彼の言う通り、エマはとても器用だった。
 多種多様な魔法が安定して使えるというのはある意味特殊で、魔力量とその扱いの巧さは彼女の血がそうさせるものだ。魔法の質はどうしたって基本より頭一つは抜きん出てしまう。
 魔女だとバレていなくても、ユーリのように特殊な才能を持つ者と同じ枠に入ってしまってもおかしくない。
 セーブしているとはいえ、近くで長らくエマを観察できたであろうフェリクスからすると『入っておいた方がいい』と思うのは当然だった。

 ワーズへの推薦、それは暗に国家機関という安全な施設で保護、そして管理しておきたいという思惑も秘められている。

「改めて、今後ともよろしくお願いしますね」

 この人は何を考えて自分と関わっていたのだろうか、思わずそんなことを考えてしまった。
しおりを挟む
感想 48

あなたにおすすめの小説

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

【完結】どうやら時戻りをしました。

まるねこ
恋愛
ウルダード伯爵家は借金地獄に陥り、借金返済のため泣く泣く嫁いだ先は王家の闇を担う家。 辛い日々に耐えきれずモアは自らの命を断つ。 時戻りをした彼女は同じ轍を踏まないと心に誓う。 ※前半激重です。ご注意下さい Copyright©︎2023-まるねこ

春告竜と二度目の私

こもろう
恋愛
私はどうなってもいい。だからこの子は助けて―― そう叫びながらも処刑された王太子の元婚約者カサンドル。 目が覚めたら、時が巻き戻っていた。 2021.1.23番外編追加しました。

公爵令嬢の辿る道

ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。 家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。 それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。 これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。 ※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。 追記  六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。

婚約者に愛する人が出来たので、身を引く事にしました

Blue
恋愛
 幼い頃から家族ぐるみで仲が良かったサーラとトンマーゾ。彼が学園に通うようになってしばらくして、彼から告白されて婚約者になった。サーラも彼を好きだと自覚してからは、穏やかに付き合いを続けていたのだが、そんな幸せは壊れてしまう事になる。

【完結】あなたのいない世界、うふふ。

やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。 しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。 とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。 =========== 感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。 4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。

処理中です...