【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ

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陰日向

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 肩に付かないくらいのところで切り揃えられた淡い薄桃色の髪に、紫の瞳。派手さのないワンピースを纏っていても、どうしようもなく目立つ雰囲気がある。
 何よりとんでもないのは、溢れ出る陽のオーラ。

(こ、これが、主役のオーラ……!)

 ひぇ、とエマは目を覆いたくなった。
 そう、目の前にいるのは『MLS』のヒロインなのだ。

 背後から大丈夫かとユーリに声を掛けられるが、

「わ、私は大丈夫だから! 多分この子の方が大丈夫じゃないと思う! 起き上がらせてあげて!」

 尻餅を着いたまま慌ててそう促せば、ユーリは怪訝そうにしながらもヒロインへと駆け寄った。

 彼が片膝をついて彼女の手を取る様子は、絵にできるほどの麗しさだ。
 見惚れそうになるが、ブンブンと首を横に振って気を取り直す。

 急ぎ自分も立ち上がる。
 足を見事に挫いてしまったが、アドレナリンのおかげで全然痛くもない。エマはバレないように片足を庇いながら、ひょこひょこと二人に近付いた。

「すみませんでした。お怪我は無いですか…?」

 結果的には二人を会わせることができたが、やり方は強引で、しかもぶつかる役目は自分が担ってしまった。
 色々申し訳なく思い謝罪を入れれば、

「はい。何ともありません。それよりもわたしの方こそ、ぼんやりしていて申し訳ありませんでした……」

 深々と頭を下げられ戸惑う。悪いのはこちらだというのに。
 急ぎ頭を上げさせる。
 めちゃくちゃいい子だな……とエマはしみじみと思う。こんな子を苛めるとは、本来の自分はどれだけ捻くれていたんだろうか。

「この子が勝手に暴走していただけですから、あなたが謝る必要はありませんよ」

(ユーリめ……)

 恨めしく睨んでいれば、

「僕はユーリ・シア・ウィレニア。彼女はエマ・ルソーネ。ここにきたばかりの見習いです」

 いらんいらん私の紹介は! とツッコミたくなるがそういうわけにもいかない。礼儀に乗っ取り挨拶をする。

「あ……! わ、わたしは、アリス・クローデルと申しますっ!」

 慌てた様子でヒロイン──アリスはまた深く頭を垂れてしまった。
 しかしこの反応も仕方ない。目の前にいるのは王国第二王子とその婚約者の令嬢である。

(大丈夫、君がお姫様なんだよ!)

 心の中でグッとサムズアップする──公爵令嬢である。

「アリスさんは何科ですか?」

 エマが随分フランクに話すせいか、アリスは一瞬呆気に取られたような表情を浮かべたが、すぐに正統派ヒロインならではの笑みを浮かべ、

「精霊魔法科です」
「(めっちゃ可愛い…)  じゃあユーリと一緒だね!」

 意気揚々と言えば、ユーリは「なんだこいつ」という顔を向けてくる。しかし気にしている暇はない。

「アリスさん、もしかして困っていらっしゃる?」
「え…?」
「ワーズって広いから、迷子になったりしてませんか?」

 エマが内心確信を持ちながら問えば、アリスは少し頬を赤らめて「お恥ずかしながら、仰る通りです」と答えた。
 よしよし、と心の中でガッツポーズを取ったエマは、

「じゃあユーリと一緒に行けば解決だね」

 そう言って隣に立つ彼を見上げた。

「何だか今日妙に元気だね」
「ソ、ソンナコトナイヨ」

 いつも元気だよ、と引き攣った笑み浮かべるエマをどう思ったのかはわからないが、ユーリは軽く嘆息してからアリスへと向き合った。

「では、行きましょうか」
「えっと……」
「あなたが噂に聞く特殊な魔力をお持ちの方でしょう? であれば、共に見習い同士、畏まっていただく必要はありませんよ」
「は、い……では、あ、ありがとうございます」

 眩しい。
 二人のやり取りを眺めながら、エマはそっと合掌した。
 良いものを見せてもらった、そんな心地だった。

「じゃあリュカ、エマのことお願いね」

 ──え?
 ユーリの視線を追って振り返れば「どーも」と、いつも通りどこか気だるい雰囲気を纏った赤毛の男が立っていた。
 つくづく人の背後に立つのが好きな男である。
 突然のことにギョッとして一歩引いたエマは、そのまま体制を崩しそうになった。

 ありゃ、と思っていれば、腕を引かれて支えられる。

「承りましたよ」

 そうリュカが答えれば、ユーリはひらりと手を振って、アリスを連れて去っていった。
 二人の背を見送りながら、エマがほっと息を吐いていれば、

「んぎゃっ」
「はーい大人しくしてくださいねぇ」

 突然の浮遊感に間抜けな声が上がってしまう。
 何事、と目を白黒させている間にもリュカはズカズカと歩みを進める。
 がっつり横抱きにされていた。所謂、お姫様抱っこというアレだ。

「どこにいても鈍くささは相変わらずですねー」
「ちょっと、おろして…!」
「却下です」
「ぎゃあ!」

 ひょいと持ち上げ直され、思わず彼の首に腕を回してしまう。
 エマの慌てようが可笑しいのか、リュカは機嫌良さそうに表情を和らげた。こういう顔も出会った当初の関係を思うと感慨深くなるが、今はそれどころではなく。

「なんで抱っこなんでしょうか……」

 自分は荷物だ、と無心に浸りながらリュカに問いかける。
 救いなのは人通りがないこと──造形科の研究室はワーズでも端の端に位置しているため近付くほどに無人──だが、そうだとしても問題は大ありだ。
 重くないか、だとか、密着度が高い、だとか、純粋に恥ずかしい、だとか、色々とある。

「だってアンタ足挫いてましたよね」
「な──んで、わかるの……」

 恐るべし観察眼。ていうか、どこから見てた、どこにいたんだ。とツッコミどころ満載で、エマは思考をグルグルと彷徨わせた結果、大人しく荷物にとして運ばれようと抵抗を諦めた。

「日頃からよく見てるからじゃないですかね」

 シレっとそう言われ、やはり監視体制は万全ということか、とエマは撃沈した。
 ──何故なんだ。
 エマは小さく唸った。

「ぐぬぬ……」
「どういう反応ですかそれ」

 何となくやりきれれない気持ちから、すぐそこにあるリュカの胸元にぐりぐりと額を擦り付けた。
 馬鹿野郎~、という思いのこもった緩い頭突きに、リュカはピタリと立ち止まる。

「アンタってほんと……」

 エマの耳にも届かないくらいの呟きを零したリュカは、横抱きにしていた彼女を肩へと担ぎ直した。

 またもお上品とは言い難い悲鳴を上げるエマを無視して、リュカは廊下を突き進む。
 大きなガラス窓に映る自分たちの姿に、少し呆れた。
 こっちの方がよっぽどしっくり来ているな、とリュカは溜め息を吐く。

「お、怒ってる……?」

 ごめんよー、と速攻で謝り倒すエマに、リュカは悟りを開いたような表情を浮かべていた。
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