ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風

文字の大きさ
11 / 42

文官への道のり

しおりを挟む
「ハア、ハア、ハア、ハイネェー!」

「父上!? まさか、激励しにきてくれたのですねッ!?」

バカンと資料室のドアを開けたら、ハイネとセレンが並んで座り本を読んでいた。突き動かす衝動のままに、ハイネの胸倉を掴み持ち上げる。

「んなわけあるかぁッ! 貴様っ、文官になるとはどういう了見だ! 俺を小馬鹿にしてるのか!?」

「心外ですッ、私が父上を馬鹿にした事など、生涯でありましたでしょうか? イイエッ、ありません。なぜならッ愛しているから!」

「馬鹿な事言ってないで質問に答えろぉぉ!」

「ルドルフ様。ハイネ様の傷に響きますので……」

「セレンは黙っていなさい! とういか、その傷はお前がつけたものだろ」

「……記憶にございません」

悪徳貴族のような言い訳をしやがって!
セレンが気まずそうに視線を逸らす。もう全てが無茶苦茶であった。

「父上、話をきいてください」

「はあ、はあ、いいだろう。俺も少し熱くなりすぎた」

掴んでいた手を離して、一度冷静になるため呼吸を整える。

「ジンから聞いたのですね? 私が文官を志すというのを」

「そうだ、ついさっきな。一体どういうつもりか説明してもらおうか」

「そうですね……」

何から話すか迷ったような口ぶりでそう呟き、ハイネは静かに語りはじめる。

「父上はヴァリアンツ領の内情について、詳しくご存じですね?」

「当たり前だ。日頃から部下の報告や領民の陳述書には目を通している」

「では、我が領土がどれだけ王国にとって重要な場所なのかについても、分かっているはず」

そういって、ハイネは資料室にあった、我らが国の、エンバース王国の地図を引っ張りだしてくる。

ハイネは、ヴァリアンツ領の地形などが詳細に書き込まれている部分を指さす。

「地図を見れば一目瞭然ですが、我らが領の実に半分もの面積が、魔獣の住む森、『獣深森じゅうしんりん』と隣り合わせになっている。つまり、ヴァリアンツは古くから魔獣が王国全土に侵攻をするのを防ぐ防波堤の役割をになってきた訳です」

地図を見れば地図の端まで続く深い森と、ヴァリアンツの領土の境界線には綺麗に線が引かれて東西にくっきり分かれている。

―――魔獣とはゲームに出現してくるモンスターのことだ。ゲーム本編では主に勇者のレベルアップための経験値として養分にされていた。そして、そんな魔獣が住む未開拓の森は『獣深森じゅうしんりん』と呼ばれている。現実となった今では人類にとって脅威ではあるもの、魔人のように知能が高い訳ではないので、危険性で言えば一段下がる。


「ヴァリアンツ領が重要なのはこの点だけに留まりません。我らの土地は肥沃な平原地帯が続き、農業や畜産業なども活発で、食料生産量は王国全体の三割を担っている。だから、もしヴァリアンツが魔獣の進行を許せば、この国は魔獣への防波堤を失うだけに留まらず、巨大な食糧生産地をまるごと食い荒らされることになる」

「そんなのは承知している。だからこそ、我らヴァリアンツはどの貴族よりも重い責任を持ち、ゆえに民や王国の為の『剣と盾』として、誇り高い心でこの地を統治している」

まあ、ゲームでは俺が断罪された後に、領を引き継いだジンとリアが私利私欲な統治をしたせいで、滅茶苦茶になるのだけど。

しかし、俺の瞳が黒い内は、そんなことはさせんし、今のジンとリアはそんな馬鹿なことをする奴等じゃない。

魔獣対策のために、ヴァリアンツ家の兵は強者ぞろいと有名だ。

毎日、戦闘訓練と獣深森じゅうしんりんで魔獣との戦闘で実践を積んでいるのだから、当たり前の結果である。ただ、若い内から魔獣と戦うのが当たり前の環境のせいか、兵士達は全員脳筋の節があり、ちょっとのことでキレて暴れるのも我が兵士達の悪い癖だ。

それが原因で問題が起こり、領主の俺が毎回対処して胃を痛めるまでがセットである。いい加減にしろ!

しかも、ヴァリアンツは毎日魔獣と戦っているせいで頭がおかしくなった野蛮な奴等という風評被害まであがっている。

「それで、ヴァリアンツ領の実情と、お前が文官を目指す理由になんの関係があるのだ?」

「関係大ありです! 父上は見ていたではありませんか。私が祝福の儀で、無様にも無属性になったところを!」

「……」

「無属性では魔剣士として魔獣相手にまともに戦えません。上に立つべきヴァリアンツ家の人間がそんな有様では兵士はついてこないし、士気を下げるだけで、いない方がマシの役立たずです。 私は、ただ父上のそばにいる無能に成り下がるつもりはありません! 父上の役に立ちたいッ! だから無属性の自分でも活躍できる文官の道を選んだのです!」

ハイネは息継ぎも忘れて、顔を真っ赤にしながら熱い感情を露わにそう叫ぶ。隣にいたセレンが感動して「ヨヨヨ、ハイネ様ご立派になられて」と目に涙を貯めている。

かつて息子がここまで感情的になにかに打ち込んだことがあっただろうか?

でも違う、違うんだハイネ。
お前はいずれ勇者として覚醒して誰よりも強くなる男。こんなところで文官として活躍する程度の逸材ではないのだ。お前の握るべき武器はペンではなく剣だ。なぜ分かってくれない。

しかし、ここまで決意を固くしているハイネになにを言っても耳を貸さないだろう。
この状態で魔剣士学園に通えといっても絶対に納得しない。

勇者になるために一番必要なのは、強くなりたいという意思だ。
誰かの為に剣を手に取るという正義感と、全てを跳ね返す強さへの渇望。それが、ハイネには決定的に足りない。

だが、この話を聞いて、俺は一筋の希望の光を見た。

つまり、ハイネが戦いたくない理由は己の力に自信がないという弱気な心からくるものだ。ならば、俺には一つ策がある。本当は、こんな序盤でを渡したくはなかった。

過ぎた力は人の心を成長させないから、良くないと思っていたが、この状況まで追い込まれたら致し方なし。

ハイネにアレを授けて、お前は弱くないのだと教えてやる。こうしてはいられない。急いでとりに行くぞ。

ゲーム本編クリア後に入手できる、勇者専用チート武器、救国の英雄初代勇者様が残した『破滅の剣ブレイクソード』を。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

【完結】追放された元聖女は、冒険者として自由に生活します!

夏芽みかん
ファンタジー
生まれながらに強大な魔力を持ち、聖女として大神殿に閉じ込められてきたレイラ。 けれど王太子に「身元不明だから」と婚約を破棄され、あっさり国外追放されてしまう。 「……え、もうお肉食べていいの? 白じゃない服着てもいいの?」 追放の道中出会った剣士ステファンと狼男ライガに拾われ、冒険者デビュー。おいしいものを食べたり、可愛い服を着たり、冒険者として仕事をしたりと、外での自由な生活を楽しむ。 一方、魔物が出るようになった王国では大司教がレイラの回収を画策。レイラの出自をめぐる真実がだんだんと明らかになる。 ※表紙イラストはレイラを月塚彩様に描いてもらいました。 【2025.09.02 全体的にリライトしたものを、再度公開いたします。】

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」  勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。  ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。  そんなある日のこと。  何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。 『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』  どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。  ……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?  私がその可能性に思い至った頃。  勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。  そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

処理中です...