ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風

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特大の泥棒猫を追い出すんだ

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―――ハイネの部屋

ミラは興奮していた。

今朝、ルドルフが渋い声で兵士達に命令を飛ばしている姿があまりにも格好良かったのだ。その時の光景を思い出して熱っぽい声をあげる。

「痺れるわぁ。ねえ、ハイネも見たでしょ! ルドルフ様が命令しただけで全員テンション爆上がりよ!」

「ああ、あれはたまらないね。父上の雄姿が見れてよかった。あれはいいものだよ」

ハイネも同意とばかりに大きくうなずく。

ヴァリアンツ軍全体の雰囲気はお世辞にも上品なものではなかった。統率された軍隊というよりも、ならず者集団と言われた方が納得できる。

それなのに、そんな粗暴な兵士たちがルドルフの鶴の一声で素直に従う様は見ていて圧巻だった。

「特に、あの剣をビュンッと取り出して、足場に突き刺すのは個人的にクるものがあったわね」

「ミラはいいところに目をつけるね。あれは僕も感動した。いつか真似したいと思う」

ルドルフマニアな二人はその後も興奮冷めやらない様子で、すでに日は傾いて夕方だというのに、ずっと同じ話題で盛り上がり続けている。

あれから、セレン、ミラ、ハイネはずっとルドルフについていき、一日の業務を見学させてもらった。ルドルフは忙しそうに業務に追われており、領主という偉い立場にも胡坐あぐらをかくことなく、懸命に働いていた。

それは、ミラにとってさらに好印象だった。知れば知るほど、ルドルフが好きになっていく。

ミラとハイネが仲睦まじい雰囲気で会話をしていると、ドアがノックされる。

「ハイネお兄ちゃん……夕食の準備ができたわよ」

ハイネの妹リアが、ドアの隙間から身を乗り出してそう伝えた。

「ありがとう。すぐに向かうよ。ミラも一緒にいこう」

「ええ、そうしましょう」

「……」

ハイネとミラのやりとりを、リアがジト目で見つめる。頬を膨らませて、不満そうな表情をしていると、それに気が付いたハイネが言った。

「リアどうしたんだい。何かあったのかい?」

「……別に」

そう言い残して、リアは二人を置いて先に食堂へと向かうのだった。




―――夜

「我が家に泥棒猫が潜り込んでいる」

リアは自室に一人で籠り、憤慨していた。

いつの間にか家に滞在することになったミラは、リアにとって非常に厄介な存在であった。

自分が愛してやまないハイネお兄ちゃんを、突然横からかすめ取られたような気分だと、リアは思う。

ミラが家に滞在することは父にきかされてリアも知っていたが、まさかたった二日間であそこまで二人が仲良くなるとは、だれが予想できようか。

リアは真剣に、将来ハイネお兄ちゃんと結婚すると考えていた。だというのに、とんんだ伏兵がいたものだ。

「これはマズイ状況ね。どうにか手を打たないと」

そもそも、いくら滞在を許されたとはいえ、家族でもない婚姻前の男女が、同じ部屋で二人きりでいたというのは見過ごせない。

リアが夕食が出来たと呼びにハイネの部屋を訪ねた時、ハイネとリアは非常に近い距離で話をしていた。リアはそれを咎めるつもりで睨みつけたのだが、ハイネは一切気付く様子を見せなかった。

「もう、本当にハイネお兄ちゃんは鈍感なんだから。まあ、そこも含めていいんだけど」

このままでは、絶対に良くない結末を迎えると予感したリアは、いてもたってもいられなくなり自室を飛び出す。

向かった先は、屋敷に住む者の中で一番仲の良い相手の部屋。

「はいるわよ」

ノックもせずに扉を開けると、そこには風呂上りで髪がまだ濡れているセレンがいた。窓から差す月明りがセレンのライトブラウンの綺麗な髪を照らす。

リアとおそろいのパジャマを着ているセレンは瞼を広げて、突然訪問してきたリアに驚く。

「リア、ノックくらいしなさいと、いつも言ってるでしょう?」

「だってぇ~」

セレンの小言を無視して、リアがいじけた様子でセレンに抱き着く。

自分より遥かに発育の良いセレンの胸に顔をうずめて、リアは駄々っ子が甘えるような声をだす。

「聞いてよセレン~」

「もう、仕方ないわね」

セレンが優しくの頭をなでてあげると、リアは嬉しそうに頬を緩ませる。

セレンは、リアより二歳年上の十七歳だ。
二人はメイドと貴族で主従関係にあるが、ルドルフがセレンを家族同然に育てた結果、身分の壁を越えて、二人は本物の姉妹のような、もしくは親友のように仲が良かった。

なにかあれば、リアがセレンにこうして甘えるのはいつものことだった。

「うちに泥棒猫が紛れ込んだの、それも特大のが。セレンも知ってるでしょう?」

「え、そんな話聞いてないけど。というか、あなた大きい猫好きでしょう。別に問題ないじゃない」

「ち~が~う! ミラのことだよ!」

リアは自分が感じている危機感について、必死に説明した。すると、話を聞いたセレンはクスっと笑う。

「ああ、そのことね。でも心配ないわよ。ミラ様が好きなのはハイネ様じゃなくで、領主様だもの」

「ええ!? どういうこと!?」

セレンは、ミラについて本人から聞いた話をリアに伝えた。

「あれは、相当惚れているわね。だから気にしなくてもいいと思うよ?」

「あんな若くて綺麗な人が、お父さん狙いだったなんて……驚きだわ」

「そう? ルドルフ様は新しい相手を求めないだけで、昔から人気者だよ。最近はちょっと太ってきたけど、元がいいから格好いいよね」

「そ、そうかな?」

「ふふん、リアだって本当はそう思ってるくせに。この恥ずかしがり屋の隠れパパっ子はいつ自分に正直になるのやら」

「う、うるさい! いまはそんなことどうでもいいでしょ!」

痛いところをつつかれて、リアが恥ずかしさを誤魔化すように赤面しながら大きな声をだす。

「問題はミラよッ! お互いに気がないとはいえ、あれだけ近くにいれば、どちらかの気持ちが心変わりしてもおかしくはないわ」

「それは……あるかも。ミラ様はとても綺麗だから、ハイネ様が好きになる可能性はあるね」

「でしょう!? そうなったらセレンもショックだよね?」

「わ、私は別に……」

「ふっふっふ、リアの目は誤魔化せないわ。セレンもハイネお兄ちゃんが好きなのはバレバレなんだから」

「え、えーと」

リアが至近距離でセレンを見つめる。
セレンの瞳が左右に泳ぐ。

「ハイネ様と私では身分が違うから、どちらにせよ関係ない話よ」

「いいえ、もしリアがハイネお兄ちゃんと結婚したらセレンが第二婦人になればいいじゃない!」

「わ、私が……第二婦人に?」

唐突に降って湧いた甘い蜜に、セレンはたじろぐ。

「だから、リアに協力してちょうだい」

「で、でも、なにをすればいいの」

リアはセレンの質問ににやりと笑顔を見せる。純真な笑顔とは真逆な、小悪魔が悪だくみをしているような怪しい笑顔だった。

「簡単よ、ハイネお兄ちゃんとミラの仲が進展する前に、お父さんとミラをくっつけてしまえばいいんだわ。だから、リアも明日から貴方達の行動に同行する! 隙を見つけて、ちゃっちゃと二人を付き合わせましょう」


こうして、またひとつルドルフのあずかり知らぬところで、ルドルフのしてもいない恋を応援する勢力が拡大していく。
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