【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。

村松砂音(抹茶砂糖)

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29 おまえのここに ※

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 浴室の扉がノックされたのは、リュカが泣きごとを口にしたときだった。
 アレックスが帰ってきたのだとわかって、とっさに両手で口を塞ぎ、息を飲む。必死で声を漏らさないよう我慢したが、乱れる息はなかなか整ってくれなかった。

「おい、中にいるんだろう。返事をしろ」
「は、はい」
「悲鳴のような声が聞こえたが、なにかあったのか?」
「いえ、なんでもありません」
「なんでもないように聞こえなかったから訊いてるんだがな」
「本当に、なんでもないんです」
「開けるぞ」
「だめ、ですっ!」

 こんな醜態をアレックスに見せたくなかった。浴室のドアに鍵はなく、ドアに駆け寄ってドアノブを抑えようとしたが、腰が抜けて立ち上がることさえできなかった。

「……これは」

 浴室のドアを開けた途端、アレックスが顔を顰め、自分の口を手のひらで覆う。浴室内に足を踏み入れると、しゃがみ込んで床に置いてあった香油の瓶を持ち上げた。

「これはなんだ? なにをしていた?」

 こうなってしまったら、もうごまかせない。

「……香油で……後ろの準備をしていたんですが……身体が熱くなってしまって」

 自分で慰めていたことは省いたが、おそらく匂いで気づかれているだろう。浴室は香油とリュカの出した精液の匂いが充満している。
 精液と香油で濡れそぼり、擦り過ぎて赤くなった性器をアレックスにじっと見つめられ、とっさに手で覆い隠した。

「これはふつうの香油ではないな?」
「はい、洗浄効果があると聞きました」

 リュカの返事を聞いて、アレックスが舌打ちをする。

「……洗浄効果だけではない。催淫効果もあるようだな」
「えっ」

 そんなことは、父に聞いていない。

「これをどこで手に入れた?」
「家から持ってきました」
「催淫効果がある香油を、か?」
「本当です。父にもらいました」

 父がそんな効果のある香油を持っていてもおかしくはなかった。催淫効果はどうだか知らないが、父の店の男娼たちも洗浄効果のある香油を使っていると聞いていた。

「まったく、おまえは……次から次へと」
「すみません、そんな効果があるとは知らなくて……」
「ひとまず説教はあとだ。まずは香油を洗い流し、オレの魔力で中和する」

 そう言って、アレックスが浴槽の中に手を入れ、魔法で一瞬にしてお湯を溜める。お湯の量は浴槽の高さの半分にも達しておらず、入浴するにしては足りないように見えた。

「えっ、あの……っ」
「じっとしていろ」

 あろうことか、アレックスはリュカの身体を抱え上げ、そのまま浴槽に入ってしまった。靴は脱いでいるが、上等な布地で仕立てられた服はびしょ濡れになっている。ふたりが浴槽に入った分の水かさが増して胸の下あたりまで浸かったが、お湯はずいぶんと温かった。
 リュカが困惑しているうちに、アレックスが自分の脚のあいだにリュカを座らせ、リュカの脚を大きく広げる。

「ひあ……ッ!」
「洗うだけだ」

 身体の前に回ってきたアレックスの手が、リュカの性器を握り込んでくる。もう片方の手に顔の向きを変えられ、深くくちづけられた。流し込まれた唾液を飲み込めば、アレックスの心地よい魔力を感じて身体の力が抜けていく。

「んう……っ」

 洗うだけと言っていた通り、アレックスの手の動きは射精を促すときとはあきらかに異なっていた。べったりと性器に付着していた香油を、優しい手つきで洗い落としている。
 途中で呪文を口にしていたのは赤くなったリュカの性器を治していたようで、ひりひりとした痛みが引いていた。リュカの自業自得なのに、貴重な魔法の力をそんなことに使わせるなんて、いたたまれない。

 リュカが羞恥に身を縮めていると、さらに身体の奥へと指が滑ってきた。とんでもない場所を触れられて、とっさにアレックスの手をぎゅっとつかむ。

「やっ、だめです!」
「ここにも香油を塗ったんだろ?」

 くぼみをぐにぐにと指先で擦りながらアレックスが訊いてくる。顔から火が出そうなほどに恥ずかしかった。

「そう、ですけど、自分でやりますから」

 抵抗もむなしく、無言で唇を塞がれた。口内に舌が入り込んだのと同時に後孔へ指が入り込んでくる。

「ん、ン……ッ!」

 最初は、探るようにして浅い場所で指が蠢いていた。自分よりも太い指の感触がアレックスの指であることを生々しく伝えてきて、ますます羞恥が込み上げてくる。ふいに奥まで入ってきた指といっしょにお湯がなかへと入ってきて、とっさに身を捩った。

「や……っ、お湯が……っ」
「なかを洗っているんだ。気持ち悪いだろうが、少し我慢していろ」
「……っ、ん……あ」

 お湯が身体のなかに入ってくる感覚は確かに気持ち悪かったが、リュカが翻弄されていたのはどちらかといえばアレックスの指があたえてくる刺激のほうだった。
 香油を掻きだすようにしてなかで指が曲がり、内壁を指で擦ってくる。自分でなかを拡げていたときは違和感しかなかったのに、どうしてこんなに違うのか。
 身体の震えが舌先から伝わったのか、アレックスがにやりと笑った。

「どうやら心配はいらないようだ」
「アレックス隊長の、ゆび……っ、きもちいいから……っ」

 どこをさわられても気持ちよくなってしまうから、困る。
 ぴたりと指の動きが止まり、見開かれた水色の瞳と間近で視線を合わせた。遅まきながら失礼なことを言ってしまったと気づき、慌てて謝った。

「す、すみません、アレックス隊長は介抱してくださっているのに、俺……っ」

 介抱してもらっている身で快楽に浸ってしまうなんて、最低で最悪だ。案の定、アレックスは怒りに顔を歪ませている。

「本当に、おまえはオレを煽るのが上手いな」

 褒められているわけではなく、嫌味を言われていることくらいわかる。そしてアレックスが嫌味を言いたくなるのもしかたがないことだ。この数日で、リュカは何度もアレックスを怒らせてきた。アレックスが機嫌のいいときのほうがめずらしいくらいに。

「自制するのがばからしくなってくる」

 そう言って、アレックスが指を引き抜き、リュカを浴槽の中に残して立ち上がる。リュカが何度失態を重ねてもアレックスはいままで大目に見てくれたが、今回は完全に怒らせてしまった。

「あ……アレックス隊長……」

 許してはもらえないだろうが、もう一度謝ろう。そう思って口を開くと、アレックスは濡れた服をすべて脱ぎ捨て、浴槽の中で座り込んだままのリュカを抱え上げた。洗面所にあったバスタオルをリュカの身体へ被せると、そのままリュカを寝室のベッドまで運んでいく。

 そのあと、アレックスがリュカへ背を向け、服を身に着けて部屋を出ていくのを想像していたリュカは、目の前で起こったできごとに茫然としてしまった。
 リュカの脚を大きく開かせたアレックスが、脚の付け根に顔を伏せる。我に返ったリュカが止める間もなく熱い口内に性器が飲み込まれた。

「――あッ、ああ……ッ!」

 痺れるほどの甘い感覚に、腰がわなないた。大きな舌が飴玉でも舐めるかのようにリュカの先端を舐め回し、じゅっと吸い上げる。
 アレックスに性器を舐められている。そう思うだけで、込み上げてくるものをこらえられなくなった。

「ひ、あッ! や、やめっ、はな……っ、あああッ!」

 あっという間に登り詰めて、リュカはアレックスの口内に精を放った。達した瞬間、自分の性器からなにも出ないことを祈ったが、わずかに薄い粘液が飛び出したのがわかった。

「ずいぶん少ないな」
「……っ、なん、で……怒ったんじゃ……?」

 茫然とつぶやくリュカに、アレックスが自分の唇を舐めながら笑いかける。

「怒っているさ。おまえのおかげで、計画が台無しになったからな」
「計画?」
「ああ。はじめは、共鳴反応が出ないよう、少しずつおまえに魔力を供給するはずだった。そう簡単におまえを抱くつもりはなかった。……だが、おまえはオレの自制心を試すかのように煽ってくる。もう、限界だ」

 リュカに嫌気が差したから抱くのをやめる。そう言っているように聞こえたのに、アレックスの行動と発言は矛盾している。

 精液を出し尽くし、くたりと項垂れるリュカの性器の横。薄い腹を指で押し、アレックスは艶然と笑みを浮かべた。

「――ずっと、おまえのここに魔力を注ぎたくてたまらなかった」
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