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第65話
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だいぶ痛みが治まってきたようで、顔色の良くなったヴェンディグにレイチェルは安堵の息を漏らした。
(良かった……)
痛みに苦しむ姿に、何度自分が変われればいいと思ったことか。
これ以上の苦しみをこの人に負わせないでほしいと、レイチェルは神に祈った。
「レイチェル様、ヴェンディグ様の包帯を取り替えますので」
ライリーが薬箱を手にやってきたので、レイチェルはヴェンディグに断って自分の部屋に戻った。
(閣下は回復しているけれど、ナドガは大丈夫なのかしら)
あの夜から姿を見ていない蛇の王のことを思い、レイチェルは窓辺に立ち寄り空を見上げた。
ひどい怪我をしていたが、治ったらまた夜空を飛んでシャリージャーラを捜しにいくのだろうか。ヴェンディグと共に。
もうあんな怪我はしてほしくないとレイチェルは思った。
けれど、彼らが行くと言うなら、レイチェルには止めることは出来ない。
レイチェルは不安に騒ぐ胸を押さえて小さく溜め息を吐いた。
そこへ、メイドがレイチェル宛の手紙を持ってきた。差出人を見て、レイチェルは眉をしかめた。
「……お父様?」
父が自分に宛てて手紙を書くなんて、とレイチェルは驚いた。
恨み言でも書いてあるのかと疑ってしまったが、無視するわけにもいかず、レイチェルは複雑な気分で封を切った。
母が倒れたという報せだった。
レイチェルのことを心配しているので、顔を見せて安心させてやってほしいということだった。
心配しているという部分については半信半疑だったが、放っておく訳にもいかない。レイチェルはヴェンディグとライリーに事情を説明した。
「一度、様子を見て来ようかと……」
縁を切る覚悟で家を出た以上、戻るべきではないという気はするが、これを無視するのも寝覚めが悪い。もしも本当に母の具合が悪いのなら、リネットも不安だろうしと、レイチェルは迷いながら打ち明けた。
「ええ。それがよろしいと思います」
ライリーが頷いた。
「レイチェル様もその方が安心でしょう」
「しかし、大丈夫か? あの両親に会いに行って」
ヴェンディグは少し心配そうにしていたが、「様子を見に行くだけなのだから」とライリーが説得してくれて、レイチェルは午後に一度侯爵家を訪ねることにした。
ライリーが手配してくれて、王宮から御者がやってきた。
「ごめんなさい。忙しかったのではなくて?」
王宮の方に荷馬車が何台も停まって荷下ろししている様子なのを眺めて、レイチェルは御者に尋ねた。
直前まで荷下ろしを手伝っていたらしい御者は、恐縮するレイチェルに頭を掻いた。
「いえいえ、手が空いていたから使われていただけですよ。何の荷だか知りませんが、後で離宮に運び入れろって言ってましたかね」
「離宮に?」
レイチェルは首を傾げた。
中身が何か知らないが、馬車数台分の荷をすべて離宮に運び込む訳ではないだろう。帰ったらライリーを手伝おうと決め、レイチェルは馬車に乗り込んだ。
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