66 / 98
第66話
しおりを挟む***
実家に戻ったレイチェルを、父が嘘くさい笑顔で出迎えた。
「レイチェル、よく帰ってきてくれた」
レイチェルはしばらくぶりに見た父がやけに小さく見えて驚いた。レイチェルがいなくなったせいで心労でやつれたのか、それとも、実家にいた頃のレイチェルが父を実物以上に大きいと思い込んでいたのか。
父の後ろに立つリネットと目が合った。彼女は何か言いたそうに口をもごもごさせていた。
「ゆっくりしていきなさい」
「いいえ、お母様にお会いしたら、すぐ帰らせていただきます」
レイチェルの素っ気ない物言いに、父は顔をしかめたが何も言わなかった。
「リネット。父様たちはレイチェルと話があるから、お前は向こうへ行っていなさい」
父がリネットにそう指示する。
リネットはぱちぱちと目を瞬かせてレイチェルを見ていたが、父に促されて渋々といった様子で引き下がった。
「お父様。私、あまり長居は――」
「まあまあ。ほら、母様が待っているぞ」
父に背を押されるようにして家の奥へ導かれた。しかし、母の寝室ではない部屋に通されて、レイチェルは眉をひそめた。
壁に先祖の肖像画が掛けられ、ソファとテーブルとはめ殺しの窓があるだけの狭くて薄暗い部屋だ。
「お父様、これは――」
レイチェルが口を開き掛けた瞬間、背中を強く押されて背後で扉が閉まった。前につんのめってたたらを踏んだレイチェルは、鍵のかかる音に顔を歪めて振り向いた。
「――お父様っ!?」
慌てて扉をどんどん叩くが、扉の向こうからは返事がない。
なんだこれは。どういうことだ。
レイチェルはぎりっと唇を噛んだ。
レイチェルを騙して連れてきて、閉じ込めたところで何になるというのだ。こんなことをしてもレイチェルは家に戻る気はないし、レイチェルが帰ってこなければヴェンディグは不審に思って探してくれるだろう。
レイチェルは扉を叩くのをやめ、自分を落ち着かせるためにふーっと息を吐いた。
何を企んでいるか知らないが、レイチェルは決して両親の言いなりにはならないと決意して拳を握りしめた。
リネットはひょこりと柱の陰から顔を出して様子を窺った。
父はレイチェルが乗ってきた馬車の御者を追い返そうとしている。レイチェルは家に泊まるから、とでも言っているのだろう。御者は怪訝そうにしながらも、公爵の命令には逆らえないのか、馬車を走らせて門に向かっていった。
「はあ、まったく。レイチェルのせいで、こんな苦労を」
父は忌々しそうに吐き捨てた。
「あなた、これで大丈夫よね」
「ああ。後は任せておけばいい」
両親が何かをやり遂げたような顔をしているのを眺めて、リネットはふむっと口を尖らせた。
彼らはリネットが何かをするとは考えもしないようだ。
確かに、少し前のリネットなら不思議に思いながらも何もしなかっただろう。
でも、今のリネットはもう「お人形」じゃあないのだ。
自分がするべきことを考えて、リネットはそろそろと動き出した。
2
あなたにおすすめの小説
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを
青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ
学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。
お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。
お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。
レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。
でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。
お相手は隣国の王女アレキサンドラ。
アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。
バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。
バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。
せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
女神様、もっと早く祝福が欲しかった。
しゃーりん
ファンタジー
アルーサル王国には、女神様からの祝福を授かる者がいる。…ごくたまに。
今回、授かったのは6歳の王女であり、血縁の判定ができる魔力だった。
女神様は国に役立つ魔力を授けてくれる。ということは、血縁が乱れてるってことか?
一人の倫理観が異常な男によって、国中の貴族が混乱するお話です。ご注意下さい。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる