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第66話
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実家に戻ったレイチェルを、父が嘘くさい笑顔で出迎えた。
「レイチェル、よく帰ってきてくれた」
レイチェルはしばらくぶりに見た父がやけに小さく見えて驚いた。レイチェルがいなくなったせいで心労でやつれたのか、それとも、実家にいた頃のレイチェルが父を実物以上に大きいと思い込んでいたのか。
父の後ろに立つリネットと目が合った。彼女は何か言いたそうに口をもごもごさせていた。
「ゆっくりしていきなさい」
「いいえ、お母様にお会いしたら、すぐ帰らせていただきます」
レイチェルの素っ気ない物言いに、父は顔をしかめたが何も言わなかった。
「リネット。父様たちはレイチェルと話があるから、お前は向こうへ行っていなさい」
父がリネットにそう指示する。
リネットはぱちぱちと目を瞬かせてレイチェルを見ていたが、父に促されて渋々といった様子で引き下がった。
「お父様。私、あまり長居は――」
「まあまあ。ほら、母様が待っているぞ」
父に背を押されるようにして家の奥へ導かれた。しかし、母の寝室ではない部屋に通されて、レイチェルは眉をひそめた。
壁に先祖の肖像画が掛けられ、ソファとテーブルとはめ殺しの窓があるだけの狭くて薄暗い部屋だ。
「お父様、これは――」
レイチェルが口を開き掛けた瞬間、背中を強く押されて背後で扉が閉まった。前につんのめってたたらを踏んだレイチェルは、鍵のかかる音に顔を歪めて振り向いた。
「――お父様っ!?」
慌てて扉をどんどん叩くが、扉の向こうからは返事がない。
なんだこれは。どういうことだ。
レイチェルはぎりっと唇を噛んだ。
レイチェルを騙して連れてきて、閉じ込めたところで何になるというのだ。こんなことをしてもレイチェルは家に戻る気はないし、レイチェルが帰ってこなければヴェンディグは不審に思って探してくれるだろう。
レイチェルは扉を叩くのをやめ、自分を落ち着かせるためにふーっと息を吐いた。
何を企んでいるか知らないが、レイチェルは決して両親の言いなりにはならないと決意して拳を握りしめた。
リネットはひょこりと柱の陰から顔を出して様子を窺った。
父はレイチェルが乗ってきた馬車の御者を追い返そうとしている。レイチェルは家に泊まるから、とでも言っているのだろう。御者は怪訝そうにしながらも、公爵の命令には逆らえないのか、馬車を走らせて門に向かっていった。
「はあ、まったく。レイチェルのせいで、こんな苦労を」
父は忌々しそうに吐き捨てた。
「あなた、これで大丈夫よね」
「ああ。後は任せておけばいい」
両親が何かをやり遂げたような顔をしているのを眺めて、リネットはふむっと口を尖らせた。
彼らはリネットが何かをするとは考えもしないようだ。
確かに、少し前のリネットなら不思議に思いながらも何もしなかっただろう。
でも、今のリネットはもう「お人形」じゃあないのだ。
自分がするべきことを考えて、リネットはそろそろと動き出した。
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