人工授精と女たち

紫夜(シヨ)

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心 ―くくる―

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「あなたのお名前は?」
「宮田 心です」
 妙に閉鎖的に感じる、施術室。想像より小さいと感じた施術台にバランスよく乗って、問いかけに答える。次は、なんだっけ? 麻酔の先生の挨拶だっけ?
 約一年ぶりの過程を思い出すように目を細める。
 いくつかの工程を挟んで投薬された麻酔に、ぷつりと、意識が途切れた。

***

 私は、宮田 心(くくる)。人工授精法で産まれ、政府に引き取られた最初の子。
 物心ついた時、周りには同じような境遇の子たちばかりで、みんな一緒だと思っていた。

 ――いた。

「宮田 心、C-〇〇Y25」
 みんな一緒に、は、しだいに、人数を減らし。私には、名前の後ろにアルファベットと数字が割り振られた。
 ――クラス分け。
 エリートはよりハイレベルな教育を受け、それ以下は定められた階段の段数で生かされる。それに気がついたのは、ずいぶんあとになってだった。

『それで、将来の夢は?』

 私の担任――(便宜上、担任と呼称する)は、高校卒業後の進路をそう聞いてきた。もしかしたら、この数値で定められた自分の価値を覆す機会だったのかもしれない。もう遅いけど。
『もし何もないのなら、国から斡旋がある。国家公務員だ。待遇は悪くないと思うね』
 私は、ただ――うなづいた。

 こんな役に立たないIQの低い女を、いったいどうして雇用するのだろうか?
 四月一日まで半信半疑で、その日、職場に向かうと、こう言われた。

『あなた方には代理母になってもらいます。何、女性なら誰でもしていることです。予定日は――』

 人生の選択肢なんて、こんなものかと、笑いがこみあげてきた。

 平たく言うと、一度幅を広げた結婚年齢は、今でも変わらず。晩婚の比率は数十年前と比べてもあまり変わらない。そして、そこから子どもを持ちたいと思う家庭も。のちの人工子宮ができれば、代理母自身の不調や、素行によって、産まれた子どもに障害をきたすとか、そういうことはなくなるのだろう。たぶん。

 代理母も三回目となれば、なんの感慨もわかない。――沸かせられない。十月十日育んだわが子はこの顔も見れないまま引き渡され、回復を待って退院後、五日の有給を与えられた。
 泣いた。

 周りには同じような境遇の先輩や動機もいたが、輪の中にうまく入れなかった私は一人だった。
 だいたいが、これは仕事だと割り切ったようだ。

***

「――さん、宮田さん」
 強制的な目覚めに、ハッとする。通常の眠りとは違い麻酔の間途切れた思考は時間の感覚を飛ばし、今の自分の立ち位置があやふやで認識が遅れる。
「い、ま、なん、時……?」
「―――」
 看護師の言葉が遠く、それを認識した頃――私は、与えられた部屋に戻っていた。

 妊娠がわかるまで、一ヶ月。妊娠していなければ、別の家族の代理母に当てられる。
 適齢期を過ぎれば、その後、今やっている事務がメインになるのだろう。何が国家公務員だ。
 皮肉なほど、人生は保証されて――いるとでも言うのだろうか。
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