余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ

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三大欲求に従え

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 お米が食べたい。
 その一心で、シンは聞き込み調査を開始した。
 シンが加入している部活は錬金術部。多種多様の立場の人間がおり、食に飽くなき探究心を持つ変人が揃っている。
 全学年、全学科を網羅し、平民から貴族まで身分もすべてカバーしているので、ちょうどよい。
 まずは一番情報を網羅していそうな人物に声をかけることにした。その先輩の名は、ジーニー・マラミュート。アホ毛が印象的な平凡な女子生徒だが、れっきとした公爵令嬢であり、次期当主というハイスペックな肩書を持っている。噂によれば、輝くような美貌の婚約者がいるそうだ。
 彼女はチャレンジ精神旺盛で、どんなゲテモノでも一度は食べてみる気概の持ち主だ。たまに当たりどころが悪くて、失神している。

「お米ぇ? あんまり人気じゃないからなー。小麦なら結構品種があるけど、米は二種類くらいしかないよ。一つが学食でも出てるあれね。もう一つは飼料用だよ。量は取れるけど、美味しくないから人間向きじゃないかな」

 一番期待していた情報源が、あっさり断たれた。
 どうやらティンパインでは米は麦の劣化穀物のようなポジションにあり、不人気なようだ。需要が低く、大半が飼料として扱われている。
 錬金術部は食に貪欲な面々が揃っているので、米が人間の食糧だと認知されていた。なので、シンは一般的な主食の一つだと思っていた。完全に盲点である。

(盲点! そうだ……この部員たちは、いつも食欲に忠実な連中ばっかりだった)

 シンは今更になって思い出した。
 部活で普通に食べていた米料理――チャーハンやオムライス、カレーライスに珍しいメニューということだ。歴代OBが米のレシピを残していたので、後輩たちにも米=食料と刷り込み済みだったのだ。
 中には食料調達のために個人輸入や留学をし、食に関する進学や就職をする猛者もいる。
 
「ちなみに錬金術部のOBの中には、食堂で働いているシェフもいるよ。ほら、学食にもカレーとかがメニューにあったじゃん?」

 学園は多くの階級が集うので、様々なメニューを布教する目的に就職したそうだ。あわよくば、珍味を輸入するルートを開拓したいらしく、潔いほど己の欲望に満ちている。

 一応その飼料米をもらってみたが、控えめに評しても二口目はご遠慮したい味だった。煮ても焼いても炊いても無理である。
 錬金術部は実質、料理部である。部活の時間で、色々試行錯誤してみたがやはり水分量や炊き方を変えた程度では、米の性質はカバーできない。

(はあ……美味しいお米が食べたい)

 ない物ねだりなんてしても仕方がないが、舌が故郷の味を求めている。
 
 

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