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連載
知らぬが仏
しおりを挟むシンのような神様オールスターズの加護持ちは二人といないだろう。ティンパイン王国第三王子のティルレインも秋と芸を司る女神の加護があるが、それもレアだ。
多いのは精霊や妖精などからの加護。人ならざる者の加護であるのは確かだが、神々と比べれば小さな影響である。
「加護持ちは国でも保護対象でござる。あるだけでも、対応が変わるでござるよ。きっと軽い警告や叱責が関の山でござるな。力のある貴族に抱き込まれれば、うやむやになる可能性も」
憂慮すべき点を挙げるカミーユに、真も苦い顔になる。
彼ら自身に強烈なバックボーンができれば、周囲が口出しできなくなる。彼ら自身ではなく、彼らを庇護する相手を伺う必要が出てくるのだ。
学内に階級問題を持ち込んで欲しくないものだ。建前上は一応、生徒たちは平等である。
「うやむやくらいならいいですけど、偽神子として釣り餌にされなければいいですが」
もっと酷い未来を想定するレニに、シンたちは「うっ」と呻いてドン引きしてしまう。
「釣り餌って」
「シン君……いえ、この場合は本物の神子を探すために利用されている可能性もあるかもしれません。下級貴族と平民を利用して、国にも神殿にも干渉できる神子を見つけられるのであれば、成果としては十分です」
とても嫌なことを聞いてしまった。シンだって、レニの言うことは分かる。
神子の正体を突き止め、接点を持とうがっている者は貴賤問わず多い。
シンは自由な生活を望んでいるから、ティンパイン側の協力や労力があって、平民としての生活が成り立っているのだ。
本来なら、王宮に閉じ込められてもおかしくない。シンの影武者(人形)はずっと神子用の離宮で過ごしている。
(うーん、その点はありがたい。離宮で缶詰なんて柄じゃないからな)
引き続き、この生活を続けたい。第二の青春として、異世界の学園生活を謳歌させてもらう。
その時、温室の外で誰かが走っているのが見えた。ぼんやりとしたシルエットなので、誰かまでは見ただけでは分からないが、パタパタした足音で察しがついた。
この温室に現れそうな人物で、この足音はエリシアだ。多分、しばらく会話したら部活に行くのだろう。乗馬用のブーツの足音だ。
いいとこお嬢様のエリシアにしては、今日は随分と慌ただしい。
「ねえねえ! うちの学園に神子様がいるって噂、本当かしら!?」
タイムリーに話題を振ってきたエリシアに、皆は首を縦に振る。ちょうどその話題が上がっていたので、嘘ではない。噂になっている生徒は偽神子だが、本物も通っているのも事実である。
「それらしき二人がいるというのは耳にしました。エリシア、気になるんですか?」
レニがそれとなく探りを入れると「当然よ」と頷くエリシア。
「神子様は貴族の中でも話題の方よ。これをネタに、私の縁談からしばらく話を逸らせるわ。お父様が変な縁談を振ってこないように、上手く手紙を書かなきゃ」
父親が持ってくる縁談はどれも微妙なので、自分で相手を見つけたいエリシア。だが、奮闘むなしく、良い成果を得られていない。焦れた父親が変な縁談を持ってこないか気が気でないエリシアである。
「それよりエリシア、お米はどんなかんじ? 先払いがいいなら、持ってくるけど」
「お兄様が王都に来るついでに持ってくるそうよ。どうも、あまり本気にしてなさそうなのよね」
今年収穫した米があるから、備蓄は十分なはずなのに反応がイマイチだった。シンのためと、魔鳥の高速便を飛ばしたのに、がっかりである。
マルチーズ辺境伯家では、美味しい米の調理法を知らない。米は飼料と扱いだから、仕方ないのは理解できる。エリシアだって、シンにおにぎりをもらうまで半信半疑だった。
エリシアの同級生が取引相手というのも、乗り気じゃない理由だろう。
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