余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ

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消えた先人

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「はい、正直……僕の感覚では素人の作った化粧水です。そこまで重宝していただくのは……レシピでいただいているお金もかなり大きいですし。簡単な製法なので、すでにほかで商品化してると思っていました」

「それはないわね。永遠の命や美貌を謳った毒薬まがいの品はよくあるけれど」
 
「今までの異世界人たちすらも作っていないと?」

「ここ数百年の異世界人は、テイランが戦争のために呼んだ存在よ。テイランの都合の良いことを吹き込まれて、戦場へ送り出されるのが大半。武器や兵器を作る者はいたけれど、女性の身だしなみを整える物を作るなんて皆無だったわ」

 大半に含まれない、戦力として期待できない異世界人は小金を持たされて追い出される。この世界の常識さえ教えず、元の世界にも戻さず捨てるのだ。
 国に残った異世界人も、だんだんと真実を知りテイランへの違和感に気づいてくる。そこで反抗すれば始末され、聖女カリンのように異国まで逃げ切れた者のほうが稀だ。

「まだ公表はされていないけれど、テイランが異世界召喚の秘術を失ったと噂になっているの。それが事実ならば異世界人は増えることはないだろうし、シン君がこういった素敵な品を世に送り出してくれるのは嬉しいわ。人を殺す道具より、喜ばせる道具のほうが幸せじゃない」

 にこにこと笑うミリア。けして嘘は言っていない。
 シンのような特別な力を持った異世界人が、勝手に連れてこられた世界を呪っていたら最悪だ。加護の力が悪夢のような毒薬を作りかねない。
 異世界人の中には、人知を超えた能力を持ち魔王と呼ばれた存在すらいる。
 穏健派の魔王で獣人の嫁といちゃつくことしか考えていない、常春の脳みそ持ちだったそうだ。そんな魔王だから、彼の在位した時代は平和だったと聞く。

「そうですね。テイラン連中に城から追い出された時は腹が立ちましたが、今にして思えば人殺しに加担させられなくてよかったです」

 ふと、そこでこの場にはテイラン出身者がいると気づき、シンは口を抑えた。
 ちらりとカミーユとビャクヤのほうを見ると、妙にキラキラした目をしていた。その目は「そうだよな? そうだよね?」と言っているようだ。
 シンの予想していた反応とは違う。

「何やろう……故郷をボロクソ言われとるんやけど、妙に清々するわ」

「某らはシン君より長い間あの国にいたから、愛着より嫌悪が勝るでござるからな」

 テイランで獣人差別を受けてきたビャクヤと、貴族子息で後継のスペアにもならない扱いだったカミーユ。
共感を得られない鬱屈した感情が、仄暗い愉悦を生んでいた。
 自分以外にもあの国で嫌な目に遭った者を見ると、仲間を見つけたと嬉しくなってしまう。最悪なテイランを理解してくれるのが嬉しい。とても歪んだ喜びである。
 少なくはあるが、学園にも同郷はいた。だが、伝手でこのティンパインまで来れたのは、それなりに良い暮らしをしていた令息や令嬢ばかり。テイランで恩恵を受けてきた側のほうが多いのだ。二人のどす黒い感情を理解できない。信じたくないのだろう。

(この二人、普段は軽いノリで喋ったり、流したりしているけど結構苦労しているもんなぁ……)

 ブラック企業ならぬ、ブラック国家とブラック実家出身である。この二人のテイラン嫌いは、シンより根深い。
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