余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ

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騎獣のためなら

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 学園に戻り、いつもの学生生活が始まった。
 恒例の温室で、いつものメンバーが揃っていた。部活用や調合に使う香草を収穫して、シンたちはのんびりと休憩中。そんな中、一人必死に動いているのはエリシアである。
 捕まえた白マンドレイクなら騎獣の餌にしていいとシンから許可を得たので、エリシアは先ほどから走り回っている。
 手を伸ばしてもあっちこっちへ走り出す。しかもぬるぬる動くので、謎にくねった動きで回避するのだ。その時のポーズが、絶妙に苛立つ。

「捕まえたー!」

 ようやく捕まえた一匹を掲げるエリシア。ロープでくくると吊るす。地面に置くと、動き回るので落とした時のためにも、きっちり縛っておかなくてはいけない。地面から距離が離れると、大人しくなるのが白マンドレイクの習性である。

「エリシア、あとどれくらい採るの?」

「あら、採り過ぎかしら? 一頭一つずつくらいは行き渡らせたいから、もっと必要ね」

「別にいくらでも取っていいけど、サイズにばらつきあるし、大きいのは切っちゃえば?」

 シンの言葉に、エリシアはぴたりと止まる。今まで捕まえたマンドレイクを見る。人参サイズもあれば、規格外の聖護院ボディのマンドレイクもいる。
 一頭に一つずつと思っても、あれでは差がありすぎて却って不公平だ。
「……今日はこれくらいにしておきましょう」

 足りると判断し、エリシアはうなずいて手を止めた。
 シンとしては雑草のようにいつの間にか増えるので間引いてくれるのは助かる。動く分、マンドレイクは他の雑草より面倒なのだ。
 多少ウロチョロする態度ならいいが、増えすぎると自分のテリトリーを広げようと他の畝を侵食するのだ。夏休みの直後なんかは、完全に占領されていた。

(あれは半分グレゴリオ先生が悪いけれど……)

 忘れがちだが、白マンドレイクは稀少な魔法植物。レア素材でレア食材なのだ。
 ちなみに以前、堆肥エリアにいた白マンドレイクから派生した亜種、黒マンドレイクもゆっくりだが数を増やしている。
 白マンドレイクより肥沃な土地を好むようで、堆肥の周辺ばかりに陣取っている。ちなみにプランター栽培は嫌いらしく、しょっちゅう脱走している。黒マンドレイクも動くのだ。近々、レア食材として冒険者ギルドに卸す予定である。
 エリシアもやりたいことがひと段落したようだし、そろそろ声をかけて良さそうだ。シンはミリアからもらった手紙を持って、エリシアに近づいた。

「そうだ。エリシア。実はお誘いがあるんだけど」

「お誘い?」

「ミリア様……僕の後見人のドーベルマン伯爵夫人が、来週お茶会を開くんだ。急な話だけれど、よかったら来ない? 伯爵家の馬車が来るし、安全だよ」

 シンが差し出したのは、ドーベルマン伯爵家の紋章を模した封蠟付き手紙。中身は当然招待状だ。
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