余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ

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暴露のカウントダウン

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 シンはおめかし面倒だなと、美味しいご飯一杯食べれるといいなという気持ちが半分くらいだ。
 裏方でも良かったが、ミリアは屋敷のメイドたちとタッグを組んで着飾る気である。屋敷中をひっくり返す勢いで
息子たちのお古をタンスから引っ張り出している。あれを着せたい、これを着せたいと楽しみにしているのだ。
 若干玩具にされている気がするが、色々とフォローをしてくれる人なので断れない。ここまで期待されていると、シンは黙るしかなかった。これがティルレインなら、即答拒否をしていただろう。

「それにしても、あれは何とかならないのかしら?」

 温室の外を目で追っていたエリシアが呟く。温室越しなので姿はぼんやりしているが、僅かに諍いの声が聞こえてくる。不穏さは察せられた。

「あれ?」

 シンもつられて同じ方向を見た。
 全容は聞き取れないが、単語は少しだけ拾い上げることができた。内容からして問題になっている、偽神子派閥だ。
 最近は会うたびに激しく牽制し合っている。もう引くに引けない状況なのだろう。

「神子騒動よ。貴族科にも影響が出ているの。ぼんやりしていると勧誘されちゃうから教室でも気が抜けないのよね」

 ため息をつくエリシア。
 彼女の家の爵位はそこそこ高くても、経済状況で微妙なラインに立っている。

「そろそろ収まるんじゃない?」

「どんどん悪化しているじゃない」

「噂だけど、近々先生たちが動くみたい。生徒会の警告も無視されているようだから、学園側も重い腰を上げたんじゃないかな?」

 噂ではなく確定である。
 マイルズとラミィがどんなに巧妙に嘘をついても、真実を暴く能力を持った神官が来るのだ。二人はその場で神子ではないことが知れ渡ってしまう。
 その後の二人の学生生活を考えると、ドンマイとしか言いようがない。針の筵でしかないだろう。
 ミリアの調査によれば、二人の裏で暗躍しているような人間はいない。
 あの二人が嘘をついたのか、周囲が勘違いしたのか詳細は分からない。だが、子供たちで完結する問題。学園の中では大きな騒動だが、外にまで影響は出ていない。
 偽神子騒動には関わってはならない。ミリアの圧の強い笑顔を思い出す。
 彼らは偽神子でも、それで本物の神子があぶり出せるかもしれない。
 そんな好機を狙っている連中が一番危険で、面倒くさい。脅しではなく、純然たる事実として警告をしているのだ。
 シンがそんなことを思い出していると、横から視線を感じる。

「シン……貴方どうしてそんなことを知っているの? 何か確証でもあるような口ぶりに聞こえたのだけれど」

 エリシアが鋭い視線で、こちらを見ている。油断していたシンの口角がひくりと歪んだ。
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