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突き刺され、言葉の刃
しおりを挟む(……確かに! 私より太っているレディは滅多にいなかったけど! なんで忘れたい黒歴史を掘り返してくるのよ!)
エリシアにとって、あの荒れ放題の肌と重量級ボディの時代は忌まわしいものであった。
何もかもうまくいかなくて、やけ食いの果てにああなったのだ。婚約者探しをしていても、論外だと扱われ、顔や体形を嘲笑われる。
友人だと思っていた女子生徒は、ただ単に引き立て役としてエリシアと一緒に行動していたと知った時、とてもショックだった。
太っているだけで、こんなにも傷つけられる。それを褒められても、嬉しくない。あの男の称賛の裏には、欲望がある。嗜好は違うが、エリシアを鳥ガラと罵るあたり本質にあるルッキズムは同じだ。
改めて男を見れば、ろくに鍛えていなさそうなだらしない体。やたら派手でセンスのない服装。そして、エリシアの両親より絶対年上らしい、しわのある顔。
「よくもまぁ私がアンタなんかに靡くと思ったわね!? 馬鹿にしないで!」
壁にあった朽ちかけた額縁や、燭台を次々と手にして投げつけていく。エリシアにだってプライドがある。分かるのだ。この男は、最初からエリシアを見下している。
ちょっと甘いことを言えば落ちるだろうと考えているのが、入ってきたときのだらしない顔からして明らかだ。今だって、エリシアが反発しているのが分かっていい。
「おい! こんなに乱暴なんて聞いてないぞ! この小娘を止めろ! 私が誰だか分かっているのか! マラミュート公爵だぞ!」
「はい、ウーソー! アンタがマラミュート公爵家で永遠の生き恥とか呼ばれているのは知っているのよ! ロリコン! 変態! 生き恥ジジイ!」
「きいいいいい! その屈辱的な呼び名、まだ使っているのか! ちょっと金を拝借したり離婚したりしたくらいで、いつまで引きずる気だ!」
やらかしを本当の意味で反省しない限り、ずっと擦り続けられるだろう。
怒りで泡を吹きそうになりながら、地団駄を踏む男。ドスドスと地団駄を踏みながら暴れまくると、少し部屋が揺れた。古い建物だし、そのうち床が抜けそうである。
「そもそも私にはジャニスという名が……!」
「やっぱりご当主ではないのね」
エリシアの冷めた指摘に、ジャニスは口を抑える。そんなことをしても、出てしまった失言は戻らない。
顔は知らなくても、有名貴族の名前は把握している。ましてや、最近ご縁ができているのだ。皮肉なことに、この生き恥ジャニスの愚行がきっかけである。
「違う! 私が継ぐのだ! あの小生意気な姪は女だろう! 当主は男児が継ぐべきだ!」
比率的には、男性当主は確かに多い。でも、当主は男性でなくてはならないとなんて法律はない。女性の当主だっているのだ。
子供の駄々のようだ。ジャニスは顔を真っ赤にしてキィキィと喚いている。ジーニーが次のマラミュート公爵になることが許せないのだろう。
(なんておつむも往生際も悪い男かしら……素行も悪いし、スペアにもならなかったのね)
マラミュート公爵家は経済的にも豊かなはずだ。学ぼうと思えば、いくらでも良い教育が受けられたはず。
今の当主は長男、そしてジャニスはすぐ下の次男だ。長男に何かあった場合のため、近い弟妹にも高い教育を施すのは良くあること。そう考えると、ジャニスは普通よりずっといい環境にいたと考えられる。
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