余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ

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エリシア、全力抵抗

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 怒るエリシアからダイエットをしたと聞いた瞬間、男は膝をついた。そして力なく床に突っ伏す。

「何故だあああ! どうして痩せた! あの完璧なラードボディが失われただと!?」

「死ね」

 乙女の体をラードボディなどと抜かしやがった。心の底からの蔑みを込めて、エリシアは吐き捨てる。それ以上の言葉が出てこなかった。
 相手が公爵家だとか、誘拐犯だと言うこともすべて忘れてしまうくらいムカついていたのである。
 ここまで聞けば、エリシアも何となく状況が分かってきた。おそらくであるが、この男の女性への嗜好はかなりマイノリティタイプ。太った異性が好き。いわゆるデブ専である。
 人の好みはそれぞれ。デブ専自体を悪く言うつもりはないが、この中年男は間違いなく気持ち悪い部類だ。相手に自分の嗜好を押し付けてくるタイプだし、誉め方も不愉快である。

「そ、そうだ。今からでも太らせれば……! あの体格を維持するには、相当強靭な胃袋を持つ太るためのポテンシャルが必要! エリシアちゃんほどの逸材を諦めるわけにはいかない! おい、今すぐ肉と菓子を用意しろ! 茶にはミルク代わりに練乳、そして角砂糖を十個入れるんだぞ!」

 この男は諦めるつもりはないらしい。高カロリーメニューを用意するように指示されたごろつきは、嫌そうな顔をして中年男を見ている。
 太るポテンシャルが高いと言われても、エリシアは全く嬉しくない。それどころか、この男に椅子やソファを投げつけたい衝動を抑えるのに必死だった。

「さあ、エリシアちゃん! 我慢しないで好きなだけ食べていいよ! そんな可哀想な鳥ガラ体型から卒業しよう!」

「お断りよー!」

 我慢できなかった。むしろ、良くここまで暴言を受けて耐えることができたと自分をほめてやりたいくらいだ。エリシアは怒りの衝動のままに、近くにあった椅子を投げつけた。
 火事場の馬鹿力か、それともただ単に椅子が脆かったか分からない。投げた椅子は、ぎりぎり当たらなかった。しかし、床に叩きつけられて背もたれの部分が壊れた。

「な、なんて乱暴なんだ! 鳥ガラの分際で!」

「標準体型よ! 私より細い子はもっといるわよ!」

「最近のレディは痩せすぎなんだ! こう、思わず抱きしめたくなるようなぽっちゃり真ん丸な感じがいいと言うのに……揃いも揃って骨と皮ばかりじゃないか!」

 吠え猛るエリシアに、反論するぽっちゃり好き誘拐犯。
 どうやら、この男は以前のエリシアの体格がお好みのご様子。それに目を付けて、セブランを陥れたのかもしれない。
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