余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ

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その後はどうなった?

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「……うう、どうしよう」

 幸いなことに、エリシアは足元の脅威に気づいていなかった。乙女の懊悩は続いているが、変態の災厄は阻止された。
 その時、馬車が少し揺れる。どうやら、止まろうとしているようだ。
 御者に確認したリヒターは、安心したように表情を緩ませる。シンたちに振り返り、明るい声で呼びかけた。

「まあまあまあ、とりあえず目的地に到着だ! ようこそ、ドーベルマン伯爵邸へ!」

 そう言って、リヒターは真っ先に外に降りる。
 綺麗に着地し、芝居がかった動きでくるりと回って一礼する。その周囲には、出迎えの執事や騎士、メイドなどが並んでいる。豪勢な出迎えだ。

「え? そっち?」

 今日の予定はキャンセルで、寮に戻ることになるのかと思っていた。
 思わず漏らしたシンの声を拾ったのか、リヒターがウィンクをして説明をする。

「もともと宿泊予定で組んでいたから、下手に寮に帰るよりいいだろう。学園には我が家から外出や外泊の届けを出しているし、変に予定を変えないほうがいい」

 当初の予定を思い出し、シンは納得した。
 学園では蜂の巣をつついたような大騒ぎになっているはずだ。校内で大きな派閥となっていた偽神子たちの真実が暴露され、その話題で持ちきりだろう。
 威を利かせていた勢力が瓦解し、噂合戦が始まる。 明日がちょっと怖い。








 結論として、今回のお誘いは流れた。誘拐事件で間に合わなかったので仕方ない。その代わりに、後日行われるミリア主催の淑女サロンに招待されることになった。
 晩餐も大事をとって、一晩安静にというのがミリアの出した条件だ。本人は、ミリアと少しでも一緒の時間を過ごしたいと熱意を見せていたが、部屋に入るとすぐに寝てしまったそうだ。気丈に振る舞っていても、やはり疲れは溜まっていたのだろう。翌日には熱も出してしまい、数日ドーベルマン伯爵邸にお世話になることになった。
 永遠の生き恥ロリコンジャニスは、マラミュート公爵家から絶縁され、平民として牢にぶち込まれたと後で聞いた。マラミュート公爵家側も、ジャニスの周囲に私兵を潜り込ませて、万一には備えていたそうだ。
 マラミュート公爵家から謝罪と共に、学園にも事情を説明してフォローを入れてくれた。
 空の上のような高貴な方々に、色々と取り成してもらったエリシア本人は恐縮していたが、彼女は圧倒的被害者である。
一方、家に若い少女を預かり、ミリアはとても楽しそうであった。

「女の子! うちは男児ばかりだから、着飾り甲斐があるわー! 基本アイテムからして、お洒落の充実度が違うもの~!」

 自分の若い頃の衣装棚を漁りまくっているそうだ。
 そのまま譲る者もあれば、現在の流行に合わせてアレンジを加えているものもある。

「素材がいいと楽しいわね! レニちゃんはなんだかんだで逃げちゃうから!」

 あのハイテンション状態のミリアから逃げたのか、レニは。
 シンは思わず驚愕の眼差しでレニを見るが、彼女はそっと視線をそらしていた。きっと、かなり苦労したのだろう。

「今回は残念なことになっちゃったけれど、また来てね!」

「はい!」

 レニとは違い、ミリアを崇拝する勢いで尊敬しているエリシアは苦になっていないようだ。何度も着せ替え人形のようにされても、元気いっぱいである。
 誘拐されたショックより、憧れの人との交流がエリシアの脳を焼いていた。豪快にフランベされ、ジャニスのことなど記憶の産廃処理場行きになっていそうである。

(まあ、本人が楽しそうならいいか? ……いいのか?)

 シンはもみくちゃにされながら、着せ替え人形にされることが苦手だ。だから、あんなに嬉しそうにニコニコしているエリシアの気持ちは分からない。
 ここ最近、時折思いつめた表情をしていたエリシア。その時間や回数が、増えていたようにも感じていた。あのように屈託なく楽しげにしているのは、良いことだろう。
 ただ気になるのは、ミリアの視線。どことなく面白がっているようだ。
 それを相部屋になったカミーユとビャクヤに相談したら、二人とも微妙な顔をしていた。カミーユはよく分からないという意味だが、ビャクヤは察しているようだ。
 この狐は、なんだかんだと広い範囲に鼻が利く。
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