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連載
高嶺の花
しおりを挟む「しかも、お相手も最悪よ。ホワイトテリア公爵令嬢よ? 確かにとびきりお綺麗な方だけど、婚約者のいらっしゃる方に横恋慕なんて」
気が重そうに吐露するエリシア。もたらされた情報に、シンは変な声が出かけた。開きかけた口を、身を乗り出したレニが塞ぐ。レニの片手は、彼女自身の口を塞いでいた。その後ろで、カミーユとビャクヤが互いの口を塞いでいる。
エリシアは投げやりに遠くを見ていて、シンたちの奇行に気付いていない。
「幸いなのはホワイトテリア公爵令嬢に全く相手にされていないことね。そりゃそうよね、婚約者は第三王子よ? ティルレイン殿下は芸術に堪能な美男子だもの。うちの兄なんて、ジャガイモよ」
シンは色々言いたいことがあったが、ぐっと飲みこんだ。事態がややこしくなるだけだ。
そのお美しい殿下とやらが頭の中でお花畑を栽培している駄犬なのを知っている。悪気も悪意もないが、王族としてはかなりアレなお方だ。よく言えば、政には向かない天真爛漫芸術肌である。
(うん、物は言いようとはいってもポジティブにとらえ過ぎか)
シンは不敬な考えをそっと胸にしまい、何事もなかったようにエリシアの愚痴に付き合う。
何でも、セブランはかなり面食いで都会の美女に胸をときめかせているそうだ。つい先日まで、変な男に妹を差し出さねばならないと苦心していた姿が崩れていく気がした。
「それも腐ったジャガイモよ。ジャガイモならジャガイモらしく、さっさと田舎に戻ればいいのに。魔鳥の速達を使って両親と義姉にチクってやったわ」
「おお、やるでござるな。エリシア」
「いらない火の粉は即消火。災いの芽は叩き潰すに限るもの」
何故だろうか。以前のエリシアはもっと繊細で、しおらしさがあった気がする。
女傑の気配を感じる。まだ片鱗であるが年頃の少女らしい言動の中に、チラチラとミリアやマリアベルに似たしたたかさが見えた気がした。気のせいであってほしい。
だが、彼女の平穏と、兄の不貞(ぎりぎりアウト?)を留めるために最善の選択をしたのだ。悪いのはセブランである。
「ねえ、シン。その……食材探しが終わったら時間ある?」
「うん」
うなずくシンに、心の中で喜ぶエリシア。だが、怪しまれてはいけないと素っ気なく振る舞う。
「じゃあ、その後でいいの。日を改めて、ピコを貸してくれないかしら。一緒に遠乗りに行かない?」
「いいよ。ちょうどグラスゴーとピコにも運動させたかったし」
最近かまってやれなかったのだ。走るのをメインで、しっかり機嫌を取っておく必要がある。
こまめにガス抜きとして外に連れ出しているが、足りていない気配がするのだ。
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