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理解しかねる婚約者(クロード視点)②
しおりを挟むダニエルは逃げたタチアナのことについて謝罪した。
恥知らずの伯爵婿でも流石にそこは謝罪してきた。
タチアナとケッテンベル公爵家の使用人と逃げたが、二人はそれぞれの家から金品を盗んでの逃避行だ。普通の駆け落ちよりも性質が悪い。
ダニエルにとって公爵家との破談は何としても避けたいらしい。
代わりにクロードと新しい婚約を結ぶ相手をといえば、ベアトリーゼを差し出すから好きにしてくれと、生贄のように差し出してきたのだから頭が痛い。
自分の爵位が、差し出した娘とセットだということも忘れているのだろう。
クロードは、ダニエルが自分を苦手ということを知っていた。
流石にセシリアとローゼスとの縁談をというほど厚顔無恥でもなかったようだ。
しかし、ベアトリーゼと漸く会えることに安堵した。
後日、へらへらとしたダニエルに連れられてやってきたのは亜麻色の髪に、若草色の瞳をした少女だった。
きつめの化粧を施した美貌や豊満なスタイルを見せつけるようなルビアナやタチアナとは違う、楚々とした愛らしさのある少女である。
そして、その少女を見るダニエルの目や態度やは判り易く、いい加減だった。タチアナやセシリアとは違うのが良く分かる。
(……あれはセシリアが半年前に着ていたドレス)
マルベリーの正統な後継者が、妹のお下がりのドレスを着てやってきた。
高級で人気のブランドドレスだし、今回の格としては十分だ。だが、ずっと前から決まっていた初の顔合わせに新しいドレスではないどころか、セシリアのお下がりとは。
普通は逆である。ダニエルにとって、ベアトリーゼは最大の切り札というべき存在だ。
マルベリーと自分を繋ぐ唯一の鎹に対して、実にぞんざいである。
セシリアは逆であり、寧ろ醜聞のもとになる愛人の娘だ。
クロードは記憶力がいい。ダニエルは、一見すればとびきり洒落た綺麗なドレスなのだから気づいていないと思っているだろう。
ダニエルのベアトリーゼへの扱いが良く分かり、自然と視線が厳しくなる。
始めて会うことのできたベアトリーゼは亡きエチェカリーナによく似ていたので、クロードにもわかった。
一度も同年代の茶会にも顔を出さなかった、否、出せなかった少女は少し気後れしているのか、オドオドしている。
それは緊張よりも、少し恐怖に近い不安げな様子だった。
時折、ドレスの裾やたっぷりとしたおさげに触れて落ち着きがない。
それでも勝手に大口と大声で不躾な言葉を吐いたり、歩き回ったりをしない。ちゃんと教育された『令嬢』であった。
ダニエルはクロードを見つけると、目が会うなり適当な挨拶だけしてさっさと帰っていった。あとからやってきたフリードも冷めた目でその背を見送っていた。
父親に置き去りにされた少女はびっくりしている。それも仕方がない。
碌に家の外には出たことのない少女に、残酷過ぎる仕打ちだった。
ローゼスは大してベアトリーゼに興味がないのか、テーブルの茶請けを摘まんでいた。
クロードは自分がやるしかないか、と怖がらせない様にベアトリーゼにどう近づくべきかと悩んだ。
せめて、号泣はされたくない。
背が高く強面。それだけで十歳とはいえ気弱な少女にとっては恐怖対象になりうるのを、クロード知っている。
ベアトリーゼはぽかんとクロードを見上げていた。
大きな目をさらに真ん丸にさせていると、春先から初夏にかけて芽吹く緑と同じ色の瞳が良く見えた。不思議な光を宿し、きらきらと瞬いている。
次の瞬間、ベアトリーゼはガッとスカートを握り締めたと思うと、一瞬にしてクロードの目の前まで距離を詰めていた。
そして、五体投地のような勢いでお辞儀をする。
「は、はじめまちちぇ! マルベリー伯爵家じょじょ、ベアトリージェです!」
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