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宿屋からティリムさんのお店まで徒歩十五分。行きはのんびり寄り道しつつ歩いたその道のりを走って戻ること五分とちょっと。
久しぶりに全力疾走して少々、いやかなり重くなった足を引きずって宿屋に飛び込んだ。が、硬くてでもちょっと弾力のある何かに直撃して宿屋の外に跳ね返されてしまった。
「うわぁっ!?」
両手が塞がっていたため上手くバランスが取れず、硬い地面にお尻を打ちつけそうになった俺が痛みを覚悟した直後、腕と腰が力強い手に掴まれた。
「大丈夫か」
「え……あっ! はいっ!」
クレディア様が俺の両手を見て「凄い荷物だな」と呟いた。
どうやら俺がぶつかってしまったのはクレディア様で、勢いよくぶつかりにいって跳ね返された俺を支えてくれたのもクレディア様のようだ。
「も、申し訳ございません……!! 痛かったでしょう?」
「いや、まったく痛みはないから気にするな。そんな軟な鍛え方はしていない」
「でも……お客様にぶつかってしまうなんて……」
「……では、今日の任務の後にでも昨夜のことを聞かせてもらえるか?」
……そういえば俺、クレディア様から逃げるために朝早くからティリムさんのお店に行ったんだった。
見上げたクレディア様は微笑んでいるけれど、その目は逃がさないと雄弁に語っていた。
俺は観念して縮こまりながら「はい……」と小さく呟くことしかできなかった。
「ユウヒ? もうティリムの所に行ってきたのか?」
「あ、ダッドさん!」
扉を開いて顔を出したダッドさんを見て、どうして俺が全力疾走して戻ってきたのかを思い出した俺は、クレディア様にぺこりとお辞儀をしてダッドさんの前に向かった。
ダッドさんは俺の抱えた紙袋を見て「市場の連中は甘やかしすぎだ」と呆れたように目を細めた。
俺はその視線を無視して大事に抱えてきた剣を突き出した。
「これっ! ダッドさんがティリムさんにお願いしたって! 俺のために!」
「あいつ……顧客情報を喋りやがって……」
「ねっ! ダッドさん! これっ!」
「あー、わかったから落ち着け」
欲しかったおもちゃを買ってもらって興奮する子供のようにダッドさんに剣を見せる俺を見かねて、ダッドさんが俺の手から剣を取った。
巻かれた布を取って、その鞘から少し抜いて刀身を見ると一つ頷いた。
ティリムさんの剣はダッドさんのお眼鏡にも適ったようだ。
「お前、旅に出るんだろ。なら剣は必須装備なのにお前は持ってなかったからな。俺からの餞別のつもりでティリムに作ってもらった」
良い剣はすぐには手に入らないからなと言って、ダッドさんは照れ臭そうに俺から眼を反らした。
「ただ、まだお前に渡すつもりはなかった。旅立つ日に渡そうと思ってたのに、ティリムの野郎がバラしやがって……」
「でもっ!! 本当に嬉しいです! ありがとうございます、ダッドさん……!」
「……おう」
変に振り回して怪我するなよと言って、俺の手にまた剣を握らせるとさっと受付の奥の部屋に行ってしまった。照れ屋さんなんだから。
「……旅に出るのか?」
いつの間にかクレディア様が横に立っていた。その目は俺の手にある剣を見ている。
どうしてかその声が沈んでいるように思えた。
「あと半年か、一年したら旅に出ようと思ってます。元々、俺はこの街の住人じゃなくて。故郷の村から出たばかりの俺を、ダッドさんが旅の資金が貯まるまで雇ってくれているんです」
「そうか……目的地は決まっているのか?」
「いえ。俺の故郷が田舎すぎて他の地域のことをまったく知らないので、とりあえず王都に行ってから決めようかなと。昔からの夢だったんです、旅をするの。できれば大陸中を旅したいなと思ってます!」
「大陸中か。……それは大変そうだな」
でも楽しそうだ。
そう言って彼が浮かべた微笑みは、何故か少し寂しそうに見えた。
久しぶりに全力疾走して少々、いやかなり重くなった足を引きずって宿屋に飛び込んだ。が、硬くてでもちょっと弾力のある何かに直撃して宿屋の外に跳ね返されてしまった。
「うわぁっ!?」
両手が塞がっていたため上手くバランスが取れず、硬い地面にお尻を打ちつけそうになった俺が痛みを覚悟した直後、腕と腰が力強い手に掴まれた。
「大丈夫か」
「え……あっ! はいっ!」
クレディア様が俺の両手を見て「凄い荷物だな」と呟いた。
どうやら俺がぶつかってしまったのはクレディア様で、勢いよくぶつかりにいって跳ね返された俺を支えてくれたのもクレディア様のようだ。
「も、申し訳ございません……!! 痛かったでしょう?」
「いや、まったく痛みはないから気にするな。そんな軟な鍛え方はしていない」
「でも……お客様にぶつかってしまうなんて……」
「……では、今日の任務の後にでも昨夜のことを聞かせてもらえるか?」
……そういえば俺、クレディア様から逃げるために朝早くからティリムさんのお店に行ったんだった。
見上げたクレディア様は微笑んでいるけれど、その目は逃がさないと雄弁に語っていた。
俺は観念して縮こまりながら「はい……」と小さく呟くことしかできなかった。
「ユウヒ? もうティリムの所に行ってきたのか?」
「あ、ダッドさん!」
扉を開いて顔を出したダッドさんを見て、どうして俺が全力疾走して戻ってきたのかを思い出した俺は、クレディア様にぺこりとお辞儀をしてダッドさんの前に向かった。
ダッドさんは俺の抱えた紙袋を見て「市場の連中は甘やかしすぎだ」と呆れたように目を細めた。
俺はその視線を無視して大事に抱えてきた剣を突き出した。
「これっ! ダッドさんがティリムさんにお願いしたって! 俺のために!」
「あいつ……顧客情報を喋りやがって……」
「ねっ! ダッドさん! これっ!」
「あー、わかったから落ち着け」
欲しかったおもちゃを買ってもらって興奮する子供のようにダッドさんに剣を見せる俺を見かねて、ダッドさんが俺の手から剣を取った。
巻かれた布を取って、その鞘から少し抜いて刀身を見ると一つ頷いた。
ティリムさんの剣はダッドさんのお眼鏡にも適ったようだ。
「お前、旅に出るんだろ。なら剣は必須装備なのにお前は持ってなかったからな。俺からの餞別のつもりでティリムに作ってもらった」
良い剣はすぐには手に入らないからなと言って、ダッドさんは照れ臭そうに俺から眼を反らした。
「ただ、まだお前に渡すつもりはなかった。旅立つ日に渡そうと思ってたのに、ティリムの野郎がバラしやがって……」
「でもっ!! 本当に嬉しいです! ありがとうございます、ダッドさん……!」
「……おう」
変に振り回して怪我するなよと言って、俺の手にまた剣を握らせるとさっと受付の奥の部屋に行ってしまった。照れ屋さんなんだから。
「……旅に出るのか?」
いつの間にかクレディア様が横に立っていた。その目は俺の手にある剣を見ている。
どうしてかその声が沈んでいるように思えた。
「あと半年か、一年したら旅に出ようと思ってます。元々、俺はこの街の住人じゃなくて。故郷の村から出たばかりの俺を、ダッドさんが旅の資金が貯まるまで雇ってくれているんです」
「そうか……目的地は決まっているのか?」
「いえ。俺の故郷が田舎すぎて他の地域のことをまったく知らないので、とりあえず王都に行ってから決めようかなと。昔からの夢だったんです、旅をするの。できれば大陸中を旅したいなと思ってます!」
「大陸中か。……それは大変そうだな」
でも楽しそうだ。
そう言って彼が浮かべた微笑みは、何故か少し寂しそうに見えた。
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