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「ユウヒちゃん! この果物すごく美味しいのよ、食べてみて!」
「ありがとうー! え、すっごい甘いんだけど!?」
「でしょ~? ムッチョって言うのよ。ここよりもっと北の地方の特産品でね、あまり入荷しないんだけど今日はたくさん入ったからおすそ分けよ!」
果物屋のおばちゃんがくれたのは、見た目は小さくて丸い小鳥が食べていそうな果物。口に放り込んで歯でぷちっと皮を破れば、甘い果汁が口一杯に広がった。
この世界は前世で見たことあるような果物もあれば、まったく見たことがない果物もある。俺は田舎から出てきたこともあって何にでも興味を惹かれて何にでも新鮮なリアクションをするせいか、果物屋のおばちゃんを始め市場の人達に可愛がってもらっている。
俺は貰ったムッチョが入った紙袋を手に持って朝市で賑わう市場を歩けば、色んなお店から声をかけてくれた。その全部に返事をして、時にはお裾分けをしてもらいながら市場の奥に進む。
何度来ても、ワクワクするのだから楽しくて仕方がない。
八百屋に乾物屋に紅茶の茶葉を売っているお茶屋。肉屋に魚屋に、変わった魔法道具を扱っている道具屋。
今日もミトバの市場は賑わっている。
「ティリムさん~!」
市場の最奥に佇む、ちょっと黒く汚れて年季が入っているお店がティリムさんの鍛冶屋だ。
俺は店の入り口はスルーして、裏手から声をかけた。この時間、まだティリムさんは店を開けていない。でも起きてはいる。日課の火起こしと祈りをしているのだ。
「ティリムさん~?」
「はいよー。っと、ユウヒか。相変わらず市場のみんなに可愛がられてんな」
俺が抱えている紙袋を見て、ティリムさんは呆れたように片方の眉を上げた。
最初はムッチョだけだから片手で持っていた紙袋は段々と大きくなって、ティリムさんの元に辿り着くころには片腕で支え持つほどの大きさになっている。
「うん。みんな優しいから申し訳ないくらいくれるんです。今度お礼しなきゃ」
「いいんだよ、そういうのは。みんなお前を好きで勝手にやってるんだ。お前はただありがたく受け取ればいい」
「そうかな?」
「そうさ」
ドヤ顔でうんうんと頷いているティリムさんの自信満々な態度に思わず笑ってしまった。ティリムさんの言葉には謎の説得力がある。彼がみんなから信頼されている理由の一つだ。
そして何事においても自信たっぷりなティリムさんは、その自信に見合う鍛冶屋としての腕を持っているとミトバの誰もが口を揃えて言う。ミトバの街一番の鍛冶屋、ティリムさん。またの名を、ミトバの街一番の自信家。
「それで、今日はどうしたんだ?」
「お使いです。ダッドさんがティリムさんに依頼した物を受け取りに来たんだけど」
「あぁ。なるほど。アイツも照れ屋だなぁ」
ダッドさんが照れてるところなんて見たことないんだけど?
首を傾げている俺を置いて店の中に入っていったティリムさんは、布に巻かれた剣を持って戻ってきた。
「ほら。これが依頼の剣だ。ロングソードだが、できるだけ軽量にしてある。軽くした分、強度を上げるのに苦労したんだぞ」
巻いていた布をティリムさんが外すと、その中から革の鞘ホルダーに入れられた剣が現れた。
鞘はシンプルな茶色だが両端には綺麗な銀の装飾が付いている。
「へぇ……これが剣なんだ。俺、初めて触ったかも」
「お前の故郷はメジコ村だったか。あそこは魔獣の被害が少ないのんびりした所だからなぁ。昔、あそこのじいさんが鍬でイノシシを追っ払ってるのを見た時は驚いたもんだが」
多分そのじいさんは、村の伝説になっている人だ。俺の幼馴染の祖父でもあるドーリーじいさんは、メジコ村の守護神のような人で、鍬一本で獣や時々現れる魔獣を追い払っていたという。
ドーリーじいさんのお陰で村は魔獣の被害がめっきり減って、のんびりとした村になったのだと聞いている。ドーリーじいさんの強さにあやかろうと、村では剣ではなく鍬がすごく丁寧に手入れされて使われていたりする。
だから俺も村を出るまでは実際に剣を見ることはなかったし、触るのも今日が初めてだ。
「この剣は両刃になっているから手入れの時は気をつけろよ」
そう言いながら鞘から剣を抜いたティリムさんに頷きつつも、俺はその剣身が放つ輝きに目を奪われていた。
軽くしたという言葉通り、この剣は騎士様の剣より細身だ。けれどその分切れ味が鋭そうで、鋼が放つ冷たい光に思わず唾を飲み込んだ。
「ほら。気を付けて持って行けよ」
「はい。けど、ダッドさんが使うなら軽くしなくてもよかったんじゃないですか? 騎士様が使うような剣くらいなら楽に扱えそうですけど」
再び布に巻かれた剣を手渡されてその想像以上の軽さに驚いた。
ダッドさんは昔、斧で熊を狩ったことがあるってフィルトさんから聞いた。ここまで軽くする必要があったのかと疑問に思ったのだけど、ティリムさんは首を横に振った。
「いや、その剣は軽くて扱いやすい物をって注文だったからな。確かにダッドなら普通のロングソードくらい簡単に扱えるだろうが、お前には無理だろ?」
「え? どういう意味?」
「だから、その剣はユウヒの剣なんだよ。お前にはロングソードは扱えないだろってダッドの配慮だよ」
「……俺の剣?」
ニヤニヤ笑うティリムさんを呆然と見上げる。そんな俺の眉間を人差し指でチョンと小突いてきた彼は、可愛がられてるねぇと本当に楽しそうに笑った。
「詳しいことはダッドに聞きな。俺は注文されて作っただけだからな。ただ、注文通り以上の出来は保証するってアイツに言っといてくれや」
「……っ、はいっ!!」
俺は片手で剣を胸に抱えるように持ちながら、もう片手には市場の人達がくれたお裾分けが詰め込まれた紙袋を持って、宿屋まで転ばないように気を付けながら走った。
俺の両腕はミトバの人達の優しさで満ちている……!
「ありがとうー! え、すっごい甘いんだけど!?」
「でしょ~? ムッチョって言うのよ。ここよりもっと北の地方の特産品でね、あまり入荷しないんだけど今日はたくさん入ったからおすそ分けよ!」
果物屋のおばちゃんがくれたのは、見た目は小さくて丸い小鳥が食べていそうな果物。口に放り込んで歯でぷちっと皮を破れば、甘い果汁が口一杯に広がった。
この世界は前世で見たことあるような果物もあれば、まったく見たことがない果物もある。俺は田舎から出てきたこともあって何にでも興味を惹かれて何にでも新鮮なリアクションをするせいか、果物屋のおばちゃんを始め市場の人達に可愛がってもらっている。
俺は貰ったムッチョが入った紙袋を手に持って朝市で賑わう市場を歩けば、色んなお店から声をかけてくれた。その全部に返事をして、時にはお裾分けをしてもらいながら市場の奥に進む。
何度来ても、ワクワクするのだから楽しくて仕方がない。
八百屋に乾物屋に紅茶の茶葉を売っているお茶屋。肉屋に魚屋に、変わった魔法道具を扱っている道具屋。
今日もミトバの市場は賑わっている。
「ティリムさん~!」
市場の最奥に佇む、ちょっと黒く汚れて年季が入っているお店がティリムさんの鍛冶屋だ。
俺は店の入り口はスルーして、裏手から声をかけた。この時間、まだティリムさんは店を開けていない。でも起きてはいる。日課の火起こしと祈りをしているのだ。
「ティリムさん~?」
「はいよー。っと、ユウヒか。相変わらず市場のみんなに可愛がられてんな」
俺が抱えている紙袋を見て、ティリムさんは呆れたように片方の眉を上げた。
最初はムッチョだけだから片手で持っていた紙袋は段々と大きくなって、ティリムさんの元に辿り着くころには片腕で支え持つほどの大きさになっている。
「うん。みんな優しいから申し訳ないくらいくれるんです。今度お礼しなきゃ」
「いいんだよ、そういうのは。みんなお前を好きで勝手にやってるんだ。お前はただありがたく受け取ればいい」
「そうかな?」
「そうさ」
ドヤ顔でうんうんと頷いているティリムさんの自信満々な態度に思わず笑ってしまった。ティリムさんの言葉には謎の説得力がある。彼がみんなから信頼されている理由の一つだ。
そして何事においても自信たっぷりなティリムさんは、その自信に見合う鍛冶屋としての腕を持っているとミトバの誰もが口を揃えて言う。ミトバの街一番の鍛冶屋、ティリムさん。またの名を、ミトバの街一番の自信家。
「それで、今日はどうしたんだ?」
「お使いです。ダッドさんがティリムさんに依頼した物を受け取りに来たんだけど」
「あぁ。なるほど。アイツも照れ屋だなぁ」
ダッドさんが照れてるところなんて見たことないんだけど?
首を傾げている俺を置いて店の中に入っていったティリムさんは、布に巻かれた剣を持って戻ってきた。
「ほら。これが依頼の剣だ。ロングソードだが、できるだけ軽量にしてある。軽くした分、強度を上げるのに苦労したんだぞ」
巻いていた布をティリムさんが外すと、その中から革の鞘ホルダーに入れられた剣が現れた。
鞘はシンプルな茶色だが両端には綺麗な銀の装飾が付いている。
「へぇ……これが剣なんだ。俺、初めて触ったかも」
「お前の故郷はメジコ村だったか。あそこは魔獣の被害が少ないのんびりした所だからなぁ。昔、あそこのじいさんが鍬でイノシシを追っ払ってるのを見た時は驚いたもんだが」
多分そのじいさんは、村の伝説になっている人だ。俺の幼馴染の祖父でもあるドーリーじいさんは、メジコ村の守護神のような人で、鍬一本で獣や時々現れる魔獣を追い払っていたという。
ドーリーじいさんのお陰で村は魔獣の被害がめっきり減って、のんびりとした村になったのだと聞いている。ドーリーじいさんの強さにあやかろうと、村では剣ではなく鍬がすごく丁寧に手入れされて使われていたりする。
だから俺も村を出るまでは実際に剣を見ることはなかったし、触るのも今日が初めてだ。
「この剣は両刃になっているから手入れの時は気をつけろよ」
そう言いながら鞘から剣を抜いたティリムさんに頷きつつも、俺はその剣身が放つ輝きに目を奪われていた。
軽くしたという言葉通り、この剣は騎士様の剣より細身だ。けれどその分切れ味が鋭そうで、鋼が放つ冷たい光に思わず唾を飲み込んだ。
「ほら。気を付けて持って行けよ」
「はい。けど、ダッドさんが使うなら軽くしなくてもよかったんじゃないですか? 騎士様が使うような剣くらいなら楽に扱えそうですけど」
再び布に巻かれた剣を手渡されてその想像以上の軽さに驚いた。
ダッドさんは昔、斧で熊を狩ったことがあるってフィルトさんから聞いた。ここまで軽くする必要があったのかと疑問に思ったのだけど、ティリムさんは首を横に振った。
「いや、その剣は軽くて扱いやすい物をって注文だったからな。確かにダッドなら普通のロングソードくらい簡単に扱えるだろうが、お前には無理だろ?」
「え? どういう意味?」
「だから、その剣はユウヒの剣なんだよ。お前にはロングソードは扱えないだろってダッドの配慮だよ」
「……俺の剣?」
ニヤニヤ笑うティリムさんを呆然と見上げる。そんな俺の眉間を人差し指でチョンと小突いてきた彼は、可愛がられてるねぇと本当に楽しそうに笑った。
「詳しいことはダッドに聞きな。俺は注文されて作っただけだからな。ただ、注文通り以上の出来は保証するってアイツに言っといてくれや」
「……っ、はいっ!!」
俺は片手で剣を胸に抱えるように持ちながら、もう片手には市場の人達がくれたお裾分けが詰め込まれた紙袋を持って、宿屋まで転ばないように気を付けながら走った。
俺の両腕はミトバの人達の優しさで満ちている……!
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