世話焼き転生者が完璧騎士を甘やかした結果

こざかな

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「……そんなに緊張しないで欲しいのだが」
「無理です」

既に二回もクレディア様を寝落ちさせているのだ。昨夜はよく寝れたようだから、頼まれても絶対に頭を撫でないぞとよく分からない気合まで入れて部屋に来た勇気だけでも褒めてほしい。……いや、やっぱいいです。

「それで、昨日もその前も君に頭を撫でられている間に私は寝てしまったということか」
「はい……撫でるというよりは、髪を拭いている時にですけれど……」
「特別変わった力を感じることはなかったのだが……。任務が終わって王都に戻ったら、私の体質のことを知っている研究者に、君のことを話してもいいだろうか。魔力と魔法の研究をしている魔術師で、少し変わっているが信頼できるやつだ」
「あ、はい。クレディア様が信頼されていらっしゃる方なのであれば、俺は大丈夫です」
「そうか。ありがとう」

そもそも、クレディア様を撫でたら眠らせることができるだけの謎現象だから、俺に害は無いしなぁ。クレディア様の体質を治す役に立てるのなら、断る理由もない。

「しかし、君には迷惑をかけてしまったな。寝てしまった私を移動させるのは大変だっただろう」
「えっと……あはは」

正直に「ハイ」と言うのは、流石に気が引けた。

「クレディア様ってやっぱり騎士様らしく筋肉がしっかりついていらっしゃるんですね。俺も鍛えようかなぁ」
「宿屋の仕事も力仕事が多いんだ。君もまったく無いというわけではないだろう?」
「そうですけど、冒険者になるにはやっぱりまだ貧相だなぁと思いまして。剣も上手く振れなかったですし」

今日の昼休憩の時に、ダッドさんに貰った剣を振ってみた。けれど剣先はブレブレで十回素振りをしただけで疲れてしまった。剣を振るうのは想像以上に難しかった。
ダッドさんとフィルトの言った通り剣を扱える人に指導を頼むしかなさそうだと実感した俺ができることは、筋トレしかない。せめて剣を振り回せるくらいの持久力は必要だ。

「剣を扱ったことはないのか?」
「はい。実は触るのも今日が初めてでして……。試しに素振りしてみたんですけど、難しいですね」
「そうだな……まったくの初心者が剣を扱うのは難しいだろう。剣の持ち方、力の入れ方、振り方、すべてにコツがいる」
「ですよね。……はぁ。やっぱり冒険者のお客さんに教えてもらうしかないかぁ」
「客? この街の住人に頼めばいいのではないか?」
「残念ながら、今この街に素人に剣を教えられる人はいないらしいです。ティリムさんの息子さんが王都の騎士養成所に通っているのですが、一度も帰ってきたことがないとか。町長のところの私兵は主人に似て性格が悪いやつばかりですし……」 

ビズリーは傭兵ギルドに依頼して私兵を屋敷に置いている。いったいどこのギルドに頼んでいるのか知らないが柄が悪いやつばかりが雇われるため、ビズリー一家共々白い目で見られている。

「なので、俺にできるのは筋肉をつけることと宿泊に来た冒険者の人に教えてもらうことだけなんです」

けれど、その計画も今は少し時期が悪いのが難点だった。今の時期は冒険者の宿泊は少ない。ほとんどの冒険者は南部の魔獣退治に行ってしまうからだ。
春と夏の間、南部では魔獣が大量発生する現象が起きる。その魔獣が武器や防具などの素材として重宝されるらしく、冒険者は旅の資金を稼ぐために魔獣狩りをしに南部に行ってしまうのだ。
だからこの時期、このあたりには冒険者が少ない。ケチなビズリーが冒険者ギルドよりも派遣にお金がかかる騎士団に魔獣退治を依頼したのも、冒険者不足が理由だった。

「私が教えよう」
「…………え?」

聞き間違いかと思って反応が遅れてしまった。
考えるように少し目を伏せていたクレディア様が、戸惑う俺をまっすぐに見てもう一度同じ言葉を言った。

「剣の扱い方を、私が君に教える」

何故、決定事項のように断言されるのだろうか……
間抜けにもぽかんと口を開けて呆けてしまっていると、今度はシュン……と不安そうに眉を下げてしまった。

「私が嫌ならハロルでも……いや、この話は断ってもらっても構わない……」
「あ、いえ、嫌ということはありません! 絶対!! むしろ光栄です!! でも、俺ではクレディア様の教えを受けるには分不相応と言いますか……」

ハロルが言っていた。クレディア様は王都の騎士様達にも大人気だと。訓練の時は彼に指導してもらうことが一種のステータスになっているくらいらしい。そんな人に俺なんかが剣の持ち方から教えてもらっただなんて彼らにバレでもしたら、俺は王都で平穏に過ごせる気がしない。

「私はそこまで立派な人間ではないぞ。君に撫でられて寝てしまうような男だ」
「いや、それは体質のせいで仕方がないことでしょう……」
「では、その体質のせいで君に迷惑をかけた謝罪ということでどうだろう」

どうだろうと言われましても……
けれど、凄く魅力的な提案ではある。だからもし教えてもらえるのだとしたらハロルがいいのだけれど、さっきハロルと言いかけて提案自体無かったことにしようとしたから、彼では何か不都合があるのかもしれない。
あ、業務外労働を気にしていらっしゃる? なんて部下思いの上司なんだ……

「あの、いつ王都にお戻りに?」
「三日後にもう一度魔獣の巣を見に行って様子を確かめてから帰還の日程を決めようと考えているが、今の予定では五日後の朝にはこの街を発とうと思っている」
「五日後……ではその間にもし、クレディア様にお時間の余裕があれば、お願いしてもよろしいでしょうか」
「もちろん。だが、私の予定よりも君の都合を優先してほしい。君の仕事を邪魔したいわけではない」
「俺の仕事のほとんどは午前中に終わりますのでお構いなく」
「そうはいかない。君と宿の主人が丁寧に心を込めて仕事をしてくれているおかげで俺達は居心地よく休むことができている。その君達の邪魔になりたくはない」
「そんな……でもお気遣いいただきありがとうございます」

頑張っている日頃の仕事を褒められるのは、素直に嬉しい。
胸にポカポカと優しい温かさが溢れて、なんだか落ち着かない気分になった。ちょうどいい温泉に入ったような気持ちよさに、頬が緩んだ。そのまま顔全体が溶けてしまいそうな気分になって、俺は顔を伏せた。
こんな、絶対だらしなくなっている顔なんて見せられない。褒められてニヤけるほど喜んでしまうなんて、あまりにも子供っぽくて恥ずかしい。

「……ふふ」

思わず零れたというような小さな笑い声に、ちらっと目線を上げると優しい目でクレディア様が俺を見ていた。うっとり見とれてしまうような色気のあるその表情に目を奪われていると、ふと持ち上がった彼の手が俺の頭に乗っていた。そのままゆっくりと頭の形を確かめるように撫でられる。

「へ……」
「ユウヒは、照れ屋なんだな」

耳まで赤くなっているぞ、とセクシーな声で囁かれるように言われて、俺は耳の先どころか脳まで茹だったかと思うほど全身を赤くしてしまった。
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