世話焼き転生者が完璧騎士を甘やかした結果

こざかな

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「クレディア様って、色気の化身だと思う」
「分かる~」

今日、クレディア様を始めとする騎士様達は徒歩で森まで調査に行った。
昨日までは森の入り口まで馬に乗って行っていたのだけれど、魔獣が森の外まで頻繁に出て来ていたことから、街から森までの道も調査の対象にすることになったらしい。
そのため、お留守番することになった馬達のケアをするために宿に残ったというハロルと一緒に、馬達にブラッシングをしたり街の外周を回って散歩させたりしていた。
最後の一頭の散歩を終えて厩舎に戻ってきた俺達は、世間話に興じていた。その中での俺の呟きに、ハロルは何度も深く頷いてくれた。

「顔良し。性格良し。知力体力共に良し。加えて血筋も良し」
「声も良いですよね」
「確かに。時々クレディア様の号令だけでも聞きたいっていうご令嬢が訓練場に来たりしてるぞ」

そのご令嬢達の気持ちがよく分かってしまう自分に頭を抱えてしまいたくなる。
正直、昨日の夜はどうやって自分の部屋に戻ってきたのかも覚えていない。気が付いたらベッドの上で朝を迎えていた。夢は見ていないけれど快眠だったようで寝不足という感じはしない。
でも時折、あの甘い声で囁かれた時のことがふいに頭の中に蘇ってきて思考停止してしまいそうになった。その度に顔が赤くなってしまっているようで、何度かハロルに体調を心配されてしまう始末だ。
それくらい、クレディア様の無意識の色気は半端なかったということ。つまりクレディア様は色気という言葉の化身と言っても過言ではないと思います。

「クレディア様って、婚約者はいらっしゃらないんですか?」
「いないらしい。いてもおかしくない地位と年齢なんだけど、なんか理由があるって聞いたことがある。だから適齢期のご令嬢方が諦めきれないんだろうけどな」

その理由って、あの体質のことだろうか。その辛さを身をもって知っているクレディア様だ。もし子供に遺伝したらと思うと、なんの改善策も無く結婚するわけにはいかないと考えているのかもしれない。

「クレディア様のご両親から結婚を急かされているという話は聞かないから、まだしばらくは身軽な身でいらっしゃるおつもりかもしれないって噂だ」
「そうなんですか。でも、あの方の隣に並び立つには凄い重圧がありそうですね……」
「そりゃそうだ。でも高位貴族のご令嬢ってのは肝が据わっている方がほとんどなんだよ。相当幼い頃からそういう教育を受けているんだろうな。そう考えたら、やっぱり俺は平民に生まれてよかったって思っちまう。自由に身軽に育ってこれたんだからな」

お金と生活の心配はあるけどな! と笑いながら言ったハロルにつられて、俺も笑みを浮かべていた。身軽で気軽。それが平民の良いところ。だけどお金と偉い人に振り回されてしまうのも平民だ。
これまで生きてきた環境も境遇も、俺とクレディア様ではまったく違う。そしてそれはこれから先の人生も、まったく違うものになる。
クレディア様は体質を治して、良いお家のお嬢さんと結婚して子供をつくり血と家を繋げていかなければならない。それが貴族の義務だから。
対して俺は、大陸中を自由きままに旅して、お金と偉い人に振り回されながらも故郷でのんびり生きるのだろう。
もう人生が交わることはないだろう。それが普通だ。
そもそも俺は、この健康な身体で健康的な生活ができることがなにより幸福なことだと知っている。旅をするという夢も叶えられる環境にいる。これ以上、望むものはない。
そう思っていたはずなのに……どうして少し物足りない気持ちになってしまうのだろう。
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