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「ハロルは、王都を出ようと思ったことはありますか?」
「んー? いや、無いな。王都だと大抵の物は手に入るし、娯楽もたくさんある。職も見つかりやすいし」
「なるほど……」
本当に、王都はこの国の中心地なんだな。王都に行った後に少しだけ働かせてもらうこともできるかもしれない。
旅先でお金を落とすだけじゃ、大陸中を旅することは難しそうだし。
「でも騎士団にいる貴族の嫡男じゃない奴らは逆に王都の外に出たがってるな。自分の家の領地じゃなくて、他の地域で生活してみたいらしい」
「貴族は簡単に他の領地にいけないからですかね?」
「それもあると思うけど、少しでも誰も自分を知らない所に行きたいっていう思いが強いんだとさ。そう考えると、クレディア様が王都の騎士団の中でも遠征任務が多い第二騎士団に所属しているのは、あの方にもそういう思いがあるからかもしれないな」
だからクレディア様は、俺が旅に出るんだと言った時に少し寂しそうな顔をしていたのかな。
遠征と旅は違うもんね。
全員がそうとは限らないけれど、生まれながらに決まっている人生ってつまらないだろうなぁと思ってしまう。
「あ、そろそろ洗濯物を入れないと!」
ふと空を見上げたら、太陽が真上から少し傾いていた。今日は天気が良いから、洗濯物はほとんど乾いているだろう。
「手伝うよ。先輩達が帰ってくるのは夕方だろうし、馬達の世話も手伝ってもらったからな」
「本当はダメなんですけど……クレディア様に遠慮なく使えって言われているのでぜひお願いします」
「いい笑顔しやがって……。大家族の長男の力を見せてやる!」
「お~」
腕まくりして走り出したハロルの後を、馬達の鳴き声を背中に受けながら追いかける。なんだか呆れているように聞こえるのは気のせいだろうか。でもなんだかこういうのって、青春っぽくていいなぁと楽しくなった。
ハロルとどちらが早く取り込めるかを競争しながらも丁寧に取り込んで、大浴場の準備をして、夕食の準備を終わらせたところでクレディア様達が帰ってきた。
徒歩だったからか、全員昨日よりも疲れているように見えた。どことなく足取りも重い。何人かは溜め息を吐きながら大浴場に入って行った。
「ユウヒ」
「あ、クレディア様。おかえりなさいませ。お疲れ様です」
最後に中に入ってきたクレディア様の顔も、疲れているように思えた。でも服や靴はあまり汚れていない。何かあったのだろうか。
「少し、頼めるだろうか」
「なんでしょうか?」
「夕食時に、部下達に酒を振舞ってやってくれないか。私が注文したやつでいい」
「お酒、ですか。かしこまりました。クレディア様も飲まれますか?」
「私はいい。明日は全員休みにするから、出せるだけ出してやってくれ」
「分かりました」
クレディア様は一つ頷くと、俺達の後ろでお酒という言葉に目を輝かせていたハロルに「お前は一杯だけだぞ」と言って泣きつかれていた。
「ひどいです! 俺だってユウヒに扱き使われたのに!」
「その割にはユウヒと肩を組んでご機嫌だったようだが」
「うっ」
丁度彼らが帰ってくる直前までハロルとじゃれ合っていた俺は、クレディア様に話しかけられる直前までハロルに肩を組まれていた。俺が話しかけられた瞬間に驚くほどの速さで腕は引っ込められたけれど。
「あの、本当にハロルは色々と手伝ってくださったので、二杯まで許してあげてください……!」
「ユウヒ……!」
あまりにも悲痛な顔をしてクレディア様に縋り付いているものだから、思わず口を挟んでしまった。眉をほんの少し寄せたクレディア様とは反対に、ハロルはキラキラと目を輝かせている。
そのあまりにも正反対な表情に苦笑してしまえば、俺とハロルを交互に見やったクレディア様が溜め息を一つ吐いて「二杯までだ」とお許しをくれた。
「クレディア様~! ありがとうございます~!」
「お礼はユウヒに言え」
「ユウヒ~! ありがとな~!」
「うわっ!?」
よほどお酒を二杯飲めることが嬉しかったのか、今度は俺に縋り付いてきた。けれど対クレディア様とは違って遠慮がないから、抱き締められるようになっている。
ぎゅうぎゅうと強めの力で身体に巻き付かれた腕が少し痛いなぁと思っていると、ぐえっという呻き声をあげてハロルが急に離れていった。
急な解放感に思わず「ふはぁ!」と大げさに息を吸ってしまった。
「ハロル、調子に乗るな」
「す、すいません……」
静かながらも言葉に力を込めて叱っているクレディア様と、しょんぼりとした顔で反省しているハロルの様子が、いたずらをした猫を叱る飼い主とその猫のようで微笑ましい。そう思ったら、笑っていた。
「ふ、ふふっ」
「ユウヒ~、笑うことないだろぉ……」
「いや、微笑ましいなって思ってしまって……ふっ」
「……君が楽しいならいいが」
「よくないですよ!」
「っ……あははっ!」
鋭くクレディア様の言葉にツッコんだハロルが今度は怒った猫のように見えて、もう耐えきれなかった。
「あははっ! ハロル、猫ちゃんみたいです!」
「猫!? 人間なんだけど!?」
「私は犬だと思っていたが」
「だから人間ですってー!!」
俺の笑い声とハロルの悲痛な叫びに何事だとダッドさんが受付の奥から出てくるまで、俺は笑いが止まらなかったし、ハロルは「もう嫌だ……」と嘆いていた。
「んー? いや、無いな。王都だと大抵の物は手に入るし、娯楽もたくさんある。職も見つかりやすいし」
「なるほど……」
本当に、王都はこの国の中心地なんだな。王都に行った後に少しだけ働かせてもらうこともできるかもしれない。
旅先でお金を落とすだけじゃ、大陸中を旅することは難しそうだし。
「でも騎士団にいる貴族の嫡男じゃない奴らは逆に王都の外に出たがってるな。自分の家の領地じゃなくて、他の地域で生活してみたいらしい」
「貴族は簡単に他の領地にいけないからですかね?」
「それもあると思うけど、少しでも誰も自分を知らない所に行きたいっていう思いが強いんだとさ。そう考えると、クレディア様が王都の騎士団の中でも遠征任務が多い第二騎士団に所属しているのは、あの方にもそういう思いがあるからかもしれないな」
だからクレディア様は、俺が旅に出るんだと言った時に少し寂しそうな顔をしていたのかな。
遠征と旅は違うもんね。
全員がそうとは限らないけれど、生まれながらに決まっている人生ってつまらないだろうなぁと思ってしまう。
「あ、そろそろ洗濯物を入れないと!」
ふと空を見上げたら、太陽が真上から少し傾いていた。今日は天気が良いから、洗濯物はほとんど乾いているだろう。
「手伝うよ。先輩達が帰ってくるのは夕方だろうし、馬達の世話も手伝ってもらったからな」
「本当はダメなんですけど……クレディア様に遠慮なく使えって言われているのでぜひお願いします」
「いい笑顔しやがって……。大家族の長男の力を見せてやる!」
「お~」
腕まくりして走り出したハロルの後を、馬達の鳴き声を背中に受けながら追いかける。なんだか呆れているように聞こえるのは気のせいだろうか。でもなんだかこういうのって、青春っぽくていいなぁと楽しくなった。
ハロルとどちらが早く取り込めるかを競争しながらも丁寧に取り込んで、大浴場の準備をして、夕食の準備を終わらせたところでクレディア様達が帰ってきた。
徒歩だったからか、全員昨日よりも疲れているように見えた。どことなく足取りも重い。何人かは溜め息を吐きながら大浴場に入って行った。
「ユウヒ」
「あ、クレディア様。おかえりなさいませ。お疲れ様です」
最後に中に入ってきたクレディア様の顔も、疲れているように思えた。でも服や靴はあまり汚れていない。何かあったのだろうか。
「少し、頼めるだろうか」
「なんでしょうか?」
「夕食時に、部下達に酒を振舞ってやってくれないか。私が注文したやつでいい」
「お酒、ですか。かしこまりました。クレディア様も飲まれますか?」
「私はいい。明日は全員休みにするから、出せるだけ出してやってくれ」
「分かりました」
クレディア様は一つ頷くと、俺達の後ろでお酒という言葉に目を輝かせていたハロルに「お前は一杯だけだぞ」と言って泣きつかれていた。
「ひどいです! 俺だってユウヒに扱き使われたのに!」
「その割にはユウヒと肩を組んでご機嫌だったようだが」
「うっ」
丁度彼らが帰ってくる直前までハロルとじゃれ合っていた俺は、クレディア様に話しかけられる直前までハロルに肩を組まれていた。俺が話しかけられた瞬間に驚くほどの速さで腕は引っ込められたけれど。
「あの、本当にハロルは色々と手伝ってくださったので、二杯まで許してあげてください……!」
「ユウヒ……!」
あまりにも悲痛な顔をしてクレディア様に縋り付いているものだから、思わず口を挟んでしまった。眉をほんの少し寄せたクレディア様とは反対に、ハロルはキラキラと目を輝かせている。
そのあまりにも正反対な表情に苦笑してしまえば、俺とハロルを交互に見やったクレディア様が溜め息を一つ吐いて「二杯までだ」とお許しをくれた。
「クレディア様~! ありがとうございます~!」
「お礼はユウヒに言え」
「ユウヒ~! ありがとな~!」
「うわっ!?」
よほどお酒を二杯飲めることが嬉しかったのか、今度は俺に縋り付いてきた。けれど対クレディア様とは違って遠慮がないから、抱き締められるようになっている。
ぎゅうぎゅうと強めの力で身体に巻き付かれた腕が少し痛いなぁと思っていると、ぐえっという呻き声をあげてハロルが急に離れていった。
急な解放感に思わず「ふはぁ!」と大げさに息を吸ってしまった。
「ハロル、調子に乗るな」
「す、すいません……」
静かながらも言葉に力を込めて叱っているクレディア様と、しょんぼりとした顔で反省しているハロルの様子が、いたずらをした猫を叱る飼い主とその猫のようで微笑ましい。そう思ったら、笑っていた。
「ふ、ふふっ」
「ユウヒ~、笑うことないだろぉ……」
「いや、微笑ましいなって思ってしまって……ふっ」
「……君が楽しいならいいが」
「よくないですよ!」
「っ……あははっ!」
鋭くクレディア様の言葉にツッコんだハロルが今度は怒った猫のように見えて、もう耐えきれなかった。
「あははっ! ハロル、猫ちゃんみたいです!」
「猫!? 人間なんだけど!?」
「私は犬だと思っていたが」
「だから人間ですってー!!」
俺の笑い声とハロルの悲痛な叫びに何事だとダッドさんが受付の奥から出てくるまで、俺は笑いが止まらなかったし、ハロルは「もう嫌だ……」と嘆いていた。
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