世話焼き転生者が完璧騎士を甘やかした結果

こざかな

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大浴場から出てきた、さっぱりした顔をした騎士様達にクレディア様からの労いのお酒ですと伝えてお酒の瓶を掲げれば、大歓声が上がった。宿の外にまで聞こえていそうなほどだ。
テンションが上がっているのか「ユウヒくん、お酌してくれー!」という声まで聞こえてきて、俺は瓶を抱えながら思わずおろおろとしてしまう。
体育会系的なノリには前世から縁が無いおれは、その勢いに気圧されてしまっていた。

「はーい! 皆さんの可愛い後輩の俺が今からお酌していきますよー!」

怖気づいてしまったおれの手から瓶が消えたと思ったら、ハロルがブーイングしながらも楽しそうにお酒用のグラスを掲げる騎士様達の中に飛び込んでいた。
な、なんて頼もしい……
久しぶりのお酒ということもあってか騒がしいほどの盛り上がりを見せていた騎士様達だったが、クレディア様が食堂に入ってきたことで少し落ち着きを取り戻してくれた。流石は上下関係がはっきりしている騎士団。
テンションが上がっている人達はハロルのところに集まっているし、他の人達もだいぶ落ち着いてくれたこともあり、俺は気を取り直して新しいお酒の瓶を抱えてお酌しに向かった。

「どうやら困らせてしまった者がいたようだな。すまない」
「いえ。俺のノリが良くなかっただけなので……」

騎士様達の酒盛りは、最初の盛り上がり以外は存外お行儀良く行われた。
仲間内でこういう時の役割が決まっているのか、ある程度お酒を飲んで上機嫌になった騎士様をハロルが手際よく食堂から追い出して同室の人が引きずって部屋に戻っていく。手慣れた様子のその連携プレーに目を丸くしていると、クレディア様に声をかけられた。
少し部屋まで来てほしいと告げられて、思わず頷いてしまうとクレディア様はどこかホッとしたような表情をして先にお部屋に戻られてしまった。

「先輩達のお世話は俺に任せて、クレディア様のとこに行ってこいよ」

どうして呼ばれたんだろうと考えていると、肩をポンと叩いてきたハロルに訳知り顔でサムズアップされてしまった。そのサインはどういう意味!?

「で、でも」
「大丈夫だって。これも後輩の役目だ。クレディア様もその為に俺にあんまり酒飲むなって仰ったんだと思うし」
「そうそ。それに、もう羽目を外しそうな奴らは部屋に押し込んできたし、ユウヒくんはクレディア様の所に行っておいでよ」
「お、重い……」

ぬっとハロルの後ろから現れてその肩に腕を回して体重をかけているその騎士様は、頬を少し赤く染めているものの理性的なしゃべり方をしている。他の残っている騎士様達も、お酒が強い人達ばかりなのか穏やかに飲んでいる。
一応ダッドさんにも伝えておけば、少しなら大丈夫かな。
そう判断して、先輩騎士様に頬を人差し指でぐりぐりとされているハロルに向き直った。

「では少しだけ席を外します。緊急で何かあれば、ダッドさんに伝えてください」
「おう……ここは任せろ……いててっ!」
「ふはは! ハロルのほっぺた柔らかーい!」

……本当に大丈夫かな?
遠慮が無さそうな力でほっぺたを引っ張られているハロルを振り返りながらも、俺はクレディア様の部屋に向かった。

「……だいぶ早いな」

扉をノックすれば、驚いた表情のクレディア様が顔を出した。
そうですよね。多分もっと後に来ると思ってましたよね……

「皆さんが、こっちは大丈夫だからと……」

遠慮がちに言えば、「まったく……いらん気を回して……」と階下から聞こえてくる楽しそうな声に呆れた表情を見せた。

「あの、もし早すぎたのであれば出直します」
「いや、構わない。予定が少し早まるだけだ」

こんな遅い時間から予定が? 団長職ってそんなに大変なんだ……
じゃあ早くお暇できるように、ここは素直にお邪魔しよう。

「じゃあ、失礼します」
「ああ。連日呼び出してすまないな」
「いえ。お客様に快適に過ごしていただくことが俺の仕事ですから、お気になさらず!」
「……そうか」

ユウヒは真面目で仕事熱心だなと褒められて嬉しくなったが、褒めてくださった本人が何故か浮かない顔をしていることが気にかかった。お疲れなのだろうか。
そういえば、騎士様達も今日はいつもとは違った疲れ方をされていたような……何かあったのだろうか。

「あの、今日の任務で何かあったのですか? いつもとは違う疲れ方をされていた気がするのですが……」

それに、お酒も振舞って皆さんのことをいつも以上に気遣っていたと思う。

「ああ……少し予想外のことが起きたんだ。そのせいで皆、気疲れしてしまってな」
「気疲れ、ですか?」
「……街を出た直後に、ビズリー家と遭遇したんだ。町長として現状を知っておきたいから調査に同行させてくれと言われた。それ自体はよくあることだ。だから許可したのだが、実際ついてきたのが町長の息子二人でな……」
「あぁ……」

彼が言いたいことを察して、俺は思わず哀れみの目を向けてしまった。
ビズリーの息子たちは、ビズリー家のぼんくら息子として有名なのだ。
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