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開戦前
第6話 長官の懸念
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生沢長官は日米の戦争は不可避だと言った。
そのうえ、開戦時期まで明言している。
その話の流れで、志津頼航空甲参謀は先ほど耳にした「我々は正面から太平洋艦隊と対峙しなければならなくなった」の真意を尋ねた。
長官室には現在、自分と生沢長官の二人しかいない。
生臭い話を聞くには絶好のタイミングだった。
「太平洋艦隊に勝てるのが我々しかいないからだ。まあ、厳密に言えば一航艦もまたその力を持っている。しかし、彼らは南方作戦に投入されることになるだろう。そうなれば、太平洋艦隊との戦の矢面に立つのは我々しかいない。まあ、簡単な消去法だ」
そう言って生沢長官は意外そうな顔をする。
航空主兵主義者のお前が今さら何を言っているんだ、といった表情だ。
「一航艦が南方作戦に投入されるのは、フィリピンに展開する米航空戦力を叩くためでしょうか」
わずかに顔を曇らせつつ、志津頼航空甲参謀が尋ねる。
彼の質問は軍機に抵触しているのだが、しかし相手が志津頼航空甲参謀であれば、生沢長官は頓着しない。
「その通りだ。台湾には零戦とそれに九六陸攻ならびに一式陸攻が展開している。しかし、これらの中で零戦の脚が不足している。同機体はフィリピンに行って帰るだけなら十分に可能だが、しかし空中戦を実施すれば帰路の燃料が心もとない。そうであれば、零戦を母艦から発進させる以外に他に手は無い」
零戦は当初、その軽量な機体の特性を十全に生かし、そのことで長大な航続距離と優れた速度性能を誇っていた。
ただ、その一方で防御力は皆無と言ってよく、被弾には滅法弱かった。
そのことを危惧した当時の搭乗員や志津頼少佐らは、零戦に防弾装備を付与することを主張した。
その頃は、中国戦線において九六陸攻がその防御力の脆弱さから被害が続出していた。
そういったこともあって、その提言は一部だが受け入れられた。
もちろん、本来であれば少佐の言うことなど顧みられることはほとんど無い。
しかし、そこは当時の生沢少将が後押ししてくれた。
さすがに帝国海軍も佐官であればともかく、将官の言うことについてはこれを軽んじることはできない。
そのことで、零戦には搭乗員の背後に防弾鋼板と、さらに自動消化装置が装備されることになった。
ただ、志津頼少佐が強く主張していた防弾ガラスと防漏タンクのほうは、重量増が過大になり過ぎることもあって、その装備が見送られている。
また、志津頼少佐は生沢少将の後ろ盾を力に、武装についても注文をつけていた。
まず、翼内の二〇ミリ機銃だが、これを銃身が短い一号機銃から、長銃身の二号機銃へと改めるよう求めた。
一号機銃は初速が低いために弾道が俗に言うションベン弾になってしまう。
当然のこととして、命中率もまた低いものとなる。
一方、二号機銃のほうは初速が高く、その分だけ弾道が低伸するから命中率も良好で、そのうえ威力も大きい。
ただ、こちらは重量増を嫌う航空技師や、製造ラインの変更を余儀なくされる銃器メーカー、それに作戦立案の柔軟性の確保のために航続性能を低下させたくない海軍上層部の意向もあって、話はなかなかまとまらなかった。
それでも、実際に零戦で戦いを強いられる現場のほうは志津頼少佐の意見を支持しており、さらに度重なる生沢少将の介入もあって、二号機銃は採用されることになった。
さらに、志津頼少佐は機首機銃の強化についても、これを訴えていた。
零戦の機首機銃はその口径が七・七ミリであり、明らかに威力不足だった。
このことで、志津頼少佐は一三ミリクラスの機銃の採用を提唱していた。
そして、これもまた志津頼少佐から相談を受けた生沢少将が航空本部に掛け合い、同銃についてはその開発ペースの加速を確約させている。
いずれにせよ、防弾装備の付与と、それに武装の強化によって零戦の総重量は増した。
このことで零戦はその最高速度が低下し、また航続距離も相応に短くなっている。
そして、その結果としてフィリピンでの戦いには空母が必要となってしまった。
「零戦の防弾、それに武装の強化が裏目に出てしまいましたかね」
その表情に憂いの色を浮かべ、志津頼航空甲参謀が悔悟混じりの言葉を吐く。
もし、自分がよけいなことをしなければ、フィリピンの戦いは台湾の基地航空隊の零戦に任せることができた。
そして、それは一航艦のフリーハンドを意味する。
もし、そうであれば二航艦は一航艦とともに太平洋艦隊を迎え撃つことがかなった。
その二つの航空艦隊には七〇〇機を大きく超える艦上機が搭載されている。
そして、これらを十全に活用すれば、太平洋艦隊の撃退のみならず殲滅もまた可能なはずだった。
「貴官が気にすることはない。零戦の防弾とそれに武装強化は絶対に必要なものだった。それに決定を下したのは海軍上層部の連中だ。責任はそういった高い俸給をもらっている彼らにある。もちろん、私を含めてな」
そう言って、少しばかり落ち込んだ様子の志津頼航空甲参謀に笑みを向けつつ、生沢長官は話を続ける。
「それに、一航艦が南方作戦に投入されるということは、逆に太平洋艦隊との戦いに関しては二航艦に自由裁量が与えられるということだ。私としては、一航艦との共同戦線が張れないことよりも、むしろ二航艦が洋上航空戦において、何の掣肘も無しに戦えることのほうがよほどありがたい」
南雲長官をはじめとした一航艦司令部の連中が聞いたら激怒しそうなことを、生沢長官はなんの臆面もなく口にする。
確かに、一航艦と二航艦が手を携えて作戦にあたるとすれば、生沢長官は先任である南雲長官の指示に従って戦うことになる。
だが、それを生沢長官は歓迎していない。
そのことに苦笑しつつ、志津頼航空甲参謀は曇りがちだった気分が晴れていくことを自覚していた。
そのうえ、開戦時期まで明言している。
その話の流れで、志津頼航空甲参謀は先ほど耳にした「我々は正面から太平洋艦隊と対峙しなければならなくなった」の真意を尋ねた。
長官室には現在、自分と生沢長官の二人しかいない。
生臭い話を聞くには絶好のタイミングだった。
「太平洋艦隊に勝てるのが我々しかいないからだ。まあ、厳密に言えば一航艦もまたその力を持っている。しかし、彼らは南方作戦に投入されることになるだろう。そうなれば、太平洋艦隊との戦の矢面に立つのは我々しかいない。まあ、簡単な消去法だ」
そう言って生沢長官は意外そうな顔をする。
航空主兵主義者のお前が今さら何を言っているんだ、といった表情だ。
「一航艦が南方作戦に投入されるのは、フィリピンに展開する米航空戦力を叩くためでしょうか」
わずかに顔を曇らせつつ、志津頼航空甲参謀が尋ねる。
彼の質問は軍機に抵触しているのだが、しかし相手が志津頼航空甲参謀であれば、生沢長官は頓着しない。
「その通りだ。台湾には零戦とそれに九六陸攻ならびに一式陸攻が展開している。しかし、これらの中で零戦の脚が不足している。同機体はフィリピンに行って帰るだけなら十分に可能だが、しかし空中戦を実施すれば帰路の燃料が心もとない。そうであれば、零戦を母艦から発進させる以外に他に手は無い」
零戦は当初、その軽量な機体の特性を十全に生かし、そのことで長大な航続距離と優れた速度性能を誇っていた。
ただ、その一方で防御力は皆無と言ってよく、被弾には滅法弱かった。
そのことを危惧した当時の搭乗員や志津頼少佐らは、零戦に防弾装備を付与することを主張した。
その頃は、中国戦線において九六陸攻がその防御力の脆弱さから被害が続出していた。
そういったこともあって、その提言は一部だが受け入れられた。
もちろん、本来であれば少佐の言うことなど顧みられることはほとんど無い。
しかし、そこは当時の生沢少将が後押ししてくれた。
さすがに帝国海軍も佐官であればともかく、将官の言うことについてはこれを軽んじることはできない。
そのことで、零戦には搭乗員の背後に防弾鋼板と、さらに自動消化装置が装備されることになった。
ただ、志津頼少佐が強く主張していた防弾ガラスと防漏タンクのほうは、重量増が過大になり過ぎることもあって、その装備が見送られている。
また、志津頼少佐は生沢少将の後ろ盾を力に、武装についても注文をつけていた。
まず、翼内の二〇ミリ機銃だが、これを銃身が短い一号機銃から、長銃身の二号機銃へと改めるよう求めた。
一号機銃は初速が低いために弾道が俗に言うションベン弾になってしまう。
当然のこととして、命中率もまた低いものとなる。
一方、二号機銃のほうは初速が高く、その分だけ弾道が低伸するから命中率も良好で、そのうえ威力も大きい。
ただ、こちらは重量増を嫌う航空技師や、製造ラインの変更を余儀なくされる銃器メーカー、それに作戦立案の柔軟性の確保のために航続性能を低下させたくない海軍上層部の意向もあって、話はなかなかまとまらなかった。
それでも、実際に零戦で戦いを強いられる現場のほうは志津頼少佐の意見を支持しており、さらに度重なる生沢少将の介入もあって、二号機銃は採用されることになった。
さらに、志津頼少佐は機首機銃の強化についても、これを訴えていた。
零戦の機首機銃はその口径が七・七ミリであり、明らかに威力不足だった。
このことで、志津頼少佐は一三ミリクラスの機銃の採用を提唱していた。
そして、これもまた志津頼少佐から相談を受けた生沢少将が航空本部に掛け合い、同銃についてはその開発ペースの加速を確約させている。
いずれにせよ、防弾装備の付与と、それに武装の強化によって零戦の総重量は増した。
このことで零戦はその最高速度が低下し、また航続距離も相応に短くなっている。
そして、その結果としてフィリピンでの戦いには空母が必要となってしまった。
「零戦の防弾、それに武装の強化が裏目に出てしまいましたかね」
その表情に憂いの色を浮かべ、志津頼航空甲参謀が悔悟混じりの言葉を吐く。
もし、自分がよけいなことをしなければ、フィリピンの戦いは台湾の基地航空隊の零戦に任せることができた。
そして、それは一航艦のフリーハンドを意味する。
もし、そうであれば二航艦は一航艦とともに太平洋艦隊を迎え撃つことがかなった。
その二つの航空艦隊には七〇〇機を大きく超える艦上機が搭載されている。
そして、これらを十全に活用すれば、太平洋艦隊の撃退のみならず殲滅もまた可能なはずだった。
「貴官が気にすることはない。零戦の防弾とそれに武装強化は絶対に必要なものだった。それに決定を下したのは海軍上層部の連中だ。責任はそういった高い俸給をもらっている彼らにある。もちろん、私を含めてな」
そう言って、少しばかり落ち込んだ様子の志津頼航空甲参謀に笑みを向けつつ、生沢長官は話を続ける。
「それに、一航艦が南方作戦に投入されるということは、逆に太平洋艦隊との戦いに関しては二航艦に自由裁量が与えられるということだ。私としては、一航艦との共同戦線が張れないことよりも、むしろ二航艦が洋上航空戦において、何の掣肘も無しに戦えることのほうがよほどありがたい」
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確かに、一航艦と二航艦が手を携えて作戦にあたるとすれば、生沢長官は先任である南雲長官の指示に従って戦うことになる。
だが、それを生沢長官は歓迎していない。
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