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マーシャル沖海戦
第14話 ハルゼー提督
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「聞くと見るとでは大違いだな」
空母部隊の指揮を執るウィリアム・F・ハルゼー中将は、いかにも拍子抜けといった表情で攻撃隊指揮官からの報告を受けていた。
この日早朝、第八任務部隊の「エンタープライズ」と第一一任務部隊の「サラトガ」、それに第一二任務部隊の「レキシントン」から飛び立った艦上機群はマーシャル諸島に点在する日本軍の航空基地を攻撃した。
攻撃にあたった指揮官によれば、マーシャル諸島の日本軍の航空戦力は貧弱で、自分たちに立ち向かってきたのはわずかに数機の旧式戦闘機のみとのことだった。
そして、それら機体はF4FワイルドキャットやF2Aバファローによってあっという間に蹴散らされてしまったという。
一方、SBDドーントレスのほうは飛行場を爆撃。地上にわだかまっていた単発機や双発機のそのことごとくを爆砕し、さらに滑走路にも甚大なダメージを与えている。
フィリピンの陸軍航空隊を散々に撃ち破り、さらに同盟国の最新鋭戦艦をあっさりと沈めた日本軍が相手ということで、実のところハルゼー提督は今回の攻撃にあたっては少なくない損害を覚悟していた。
しかし、実際には二機のF4Fと三機のSBDドーントレスが被弾しただけで、未帰還となった機体は一機も無かった。
また、被弾損傷したうちの四機は、修理を施せば再使用が可能だった。
「事があまりにもうまく運びすぎている。ジャップの連中は我々が真珠湾から出撃したことを掴んでいたはずだ。それにもかかわらず、なぜ多くの機体が地上撃破されてしまうような無様を演じてしまったんだ」
報告を終えた攻撃隊指揮官を見送ってすぐ、ハルゼー提督は航空参謀に疑念
の表情を向ける。
「考えにくいことですが、ひょっとしたら日本軍はレーダーを持っていなかったのかもしれません。そのことで迎撃態勢への移行が遅れ、わずかな数の戦闘機しか上空に上げることができなかった」
航空参謀の推測は、一応は筋が通っている。
しかし、レーダー無しで現代戦を戦おうというような軍隊が地上に存在するとは思えない。
まして、ここマーシャル諸島は米日の戦いの最前線になることが分かりきっている地勢にある。
そのような重要な場所にレーダーが配備されていないというのは、どう考えても納得できなかった。
「あるいは、日本軍はレーダーを持っていた。しかし、そこに何らかの機械トラブルが発生したか、もしくは重大なヒューマンエラーが起きてしまったのかもしれません」
レーダーは最新の電子兵器であり、その構造は複雑精緻を極める。
科学技術先進国の米国でさえ安定稼働には程遠いのが実情だ。
まして、後進国の日本であればなおのことだろう。
「トラブルのほうがあり得そうだな。まあ、いずれにせよこのことは大きな問題ではない。この戦域で制空権を獲得した事実こそが重要だからな。それよりも、発見された敵艦隊の動きはどうなっている」
そう言ってハルゼー提督は情報参謀へとその視線を向ける。
「二〇隻前後の艦隊がこちらに向かってきていることが潜水艦からの報告で分かっています。ただ、敵の警戒が厳しく、正確な戦力構成を把握するまでには至っておりません」
戦争が始まって間もない現在、所定の哨戒ポイントにたどりつけた友軍潜水艦は数えるほどでしかなく、そのほとんどはいまだ移動中かあるいは補給中だった。
そのような中で、日本艦隊の存在だけでも探知し得たのは、それこそ僥倖と言ってもいいだろう。
下手をすれば、太平洋艦隊はその日本艦隊に側背を突かれていたかもしれない。
ツキは今のところ、太平洋艦隊側にある。
そう思う一方で、しかし胸中にわき上がった疑問にハルゼー提督は首をひねる。
「我々を相手に、たったの二〇隻で仕掛けてくるというジャップの意図が分からん」
太平洋艦隊は此度のマーシャル攻略作戦に対して八隻の戦艦とそれに三隻の空母を投入している。
さらに、一三隻の巡洋艦と三四隻の駆逐艦がこれらに同道している。
わずかに、二〇隻程度にしか過ぎない艦隊が太平洋艦隊と渡り合うなど、それこそ自殺行為だ。
「あるいは、日本艦隊はもう一隊存在するのかもしれません。情報部によれば、太平洋正面で作戦行動が可能な日本の戦艦は『長門』型と『伊勢』型、それに『扶桑』型の合わせて六隻とのことです。ただ、マル三計画で建造された戦艦がすでに戦力化されていた場合はこれが八隻になります。また、空母についても同計画のそれが参陣していれば、こちらは最大で二隻となります。もし、仮に六隻の旧式戦艦と、それにそれぞれ二隻の新型戦艦と新型空母のすべてをこちらに差し向けてきたとすれば、トータルで一〇隻となります。そして、それだけの数の主力艦を一個艦隊にまとめておくということについては、艦隊運動の面からもさすがに無理があります」
合わせて一〇隻の戦艦と空母を一つの艦隊にまとめて配備するというのは、常識的に考えればまず有り得ない。
通常航行時はともかく、戦闘時には艦隊運動が極めて複雑かつ窮屈なものになってしまう。
それに、二〇隻の艦隊のうちの半数が戦艦や空母というのも、いささかばかりバランスに欠ける。
「情報参謀の言う通りかもしれんな。我々が発見したのは紛れもないジャップの艦隊だが、しかしそれが連中が送り込んできた戦力のすべてだとは限らん。むしろ、そうでない可能性のほうが高い」
そう考えたハルゼー提督は二つの命令を下す。
「まず、上陸船団を後方に下がらせるようパイ提督に具申する。ジャップの機動部隊がこちらを無視して船団を狙う可能性が有るからな。それと、索敵を充実させる。重巡の水偵だけでなく、『エンタープライズ』の偵察爆撃隊もまた索敵に充てる。このことで攻撃力は低下するが、しかしまずは相手を見つけることが先決だ」
ハルゼー提督の考えに異を唱える幕僚はいなかった。
その誰もが情報の重要性を理解していたからだ。
空母部隊の指揮を執るウィリアム・F・ハルゼー中将は、いかにも拍子抜けといった表情で攻撃隊指揮官からの報告を受けていた。
この日早朝、第八任務部隊の「エンタープライズ」と第一一任務部隊の「サラトガ」、それに第一二任務部隊の「レキシントン」から飛び立った艦上機群はマーシャル諸島に点在する日本軍の航空基地を攻撃した。
攻撃にあたった指揮官によれば、マーシャル諸島の日本軍の航空戦力は貧弱で、自分たちに立ち向かってきたのはわずかに数機の旧式戦闘機のみとのことだった。
そして、それら機体はF4FワイルドキャットやF2Aバファローによってあっという間に蹴散らされてしまったという。
一方、SBDドーントレスのほうは飛行場を爆撃。地上にわだかまっていた単発機や双発機のそのことごとくを爆砕し、さらに滑走路にも甚大なダメージを与えている。
フィリピンの陸軍航空隊を散々に撃ち破り、さらに同盟国の最新鋭戦艦をあっさりと沈めた日本軍が相手ということで、実のところハルゼー提督は今回の攻撃にあたっては少なくない損害を覚悟していた。
しかし、実際には二機のF4Fと三機のSBDドーントレスが被弾しただけで、未帰還となった機体は一機も無かった。
また、被弾損傷したうちの四機は、修理を施せば再使用が可能だった。
「事があまりにもうまく運びすぎている。ジャップの連中は我々が真珠湾から出撃したことを掴んでいたはずだ。それにもかかわらず、なぜ多くの機体が地上撃破されてしまうような無様を演じてしまったんだ」
報告を終えた攻撃隊指揮官を見送ってすぐ、ハルゼー提督は航空参謀に疑念
の表情を向ける。
「考えにくいことですが、ひょっとしたら日本軍はレーダーを持っていなかったのかもしれません。そのことで迎撃態勢への移行が遅れ、わずかな数の戦闘機しか上空に上げることができなかった」
航空参謀の推測は、一応は筋が通っている。
しかし、レーダー無しで現代戦を戦おうというような軍隊が地上に存在するとは思えない。
まして、ここマーシャル諸島は米日の戦いの最前線になることが分かりきっている地勢にある。
そのような重要な場所にレーダーが配備されていないというのは、どう考えても納得できなかった。
「あるいは、日本軍はレーダーを持っていた。しかし、そこに何らかの機械トラブルが発生したか、もしくは重大なヒューマンエラーが起きてしまったのかもしれません」
レーダーは最新の電子兵器であり、その構造は複雑精緻を極める。
科学技術先進国の米国でさえ安定稼働には程遠いのが実情だ。
まして、後進国の日本であればなおのことだろう。
「トラブルのほうがあり得そうだな。まあ、いずれにせよこのことは大きな問題ではない。この戦域で制空権を獲得した事実こそが重要だからな。それよりも、発見された敵艦隊の動きはどうなっている」
そう言ってハルゼー提督は情報参謀へとその視線を向ける。
「二〇隻前後の艦隊がこちらに向かってきていることが潜水艦からの報告で分かっています。ただ、敵の警戒が厳しく、正確な戦力構成を把握するまでには至っておりません」
戦争が始まって間もない現在、所定の哨戒ポイントにたどりつけた友軍潜水艦は数えるほどでしかなく、そのほとんどはいまだ移動中かあるいは補給中だった。
そのような中で、日本艦隊の存在だけでも探知し得たのは、それこそ僥倖と言ってもいいだろう。
下手をすれば、太平洋艦隊はその日本艦隊に側背を突かれていたかもしれない。
ツキは今のところ、太平洋艦隊側にある。
そう思う一方で、しかし胸中にわき上がった疑問にハルゼー提督は首をひねる。
「我々を相手に、たったの二〇隻で仕掛けてくるというジャップの意図が分からん」
太平洋艦隊は此度のマーシャル攻略作戦に対して八隻の戦艦とそれに三隻の空母を投入している。
さらに、一三隻の巡洋艦と三四隻の駆逐艦がこれらに同道している。
わずかに、二〇隻程度にしか過ぎない艦隊が太平洋艦隊と渡り合うなど、それこそ自殺行為だ。
「あるいは、日本艦隊はもう一隊存在するのかもしれません。情報部によれば、太平洋正面で作戦行動が可能な日本の戦艦は『長門』型と『伊勢』型、それに『扶桑』型の合わせて六隻とのことです。ただ、マル三計画で建造された戦艦がすでに戦力化されていた場合はこれが八隻になります。また、空母についても同計画のそれが参陣していれば、こちらは最大で二隻となります。もし、仮に六隻の旧式戦艦と、それにそれぞれ二隻の新型戦艦と新型空母のすべてをこちらに差し向けてきたとすれば、トータルで一〇隻となります。そして、それだけの数の主力艦を一個艦隊にまとめておくということについては、艦隊運動の面からもさすがに無理があります」
合わせて一〇隻の戦艦と空母を一つの艦隊にまとめて配備するというのは、常識的に考えればまず有り得ない。
通常航行時はともかく、戦闘時には艦隊運動が極めて複雑かつ窮屈なものになってしまう。
それに、二〇隻の艦隊のうちの半数が戦艦や空母というのも、いささかばかりバランスに欠ける。
「情報参謀の言う通りかもしれんな。我々が発見したのは紛れもないジャップの艦隊だが、しかしそれが連中が送り込んできた戦力のすべてだとは限らん。むしろ、そうでない可能性のほうが高い」
そう考えたハルゼー提督は二つの命令を下す。
「まず、上陸船団を後方に下がらせるようパイ提督に具申する。ジャップの機動部隊がこちらを無視して船団を狙う可能性が有るからな。それと、索敵を充実させる。重巡の水偵だけでなく、『エンタープライズ』の偵察爆撃隊もまた索敵に充てる。このことで攻撃力は低下するが、しかしまずは相手を見つけることが先決だ」
ハルゼー提督の考えに異を唱える幕僚はいなかった。
その誰もが情報の重要性を理解していたからだ。
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