征空決戦艦隊 ~多載空母打撃群 出撃!~

蒼 飛雲

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マーシャル沖海戦

第18話 迎撃網突破

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 零戦七二機、それに九九艦爆一〇八機からなる第一次攻撃隊は太平洋艦隊を視認する前から敵戦闘機の迎撃を受けた。
 つまり、米艦艇は電探を装備しているということだ。
 一〇機ほどの編隊が三つ、彼我の数の差を気にした様子も見せずに急迫してくる。

 「『瑞鶴』一中隊は左、『雲鶴』二中隊は右、『神鶴』一中隊は中央の敵を攻撃せよ」

 戦闘機隊の指揮を執る兼子正大尉の命令一下、それぞれ九機の零戦が加速を開始。
 指示された敵編隊に向かって突進していく。

 戦闘機隊はその任務によって大きく二つに分かれている。
 このうち「翔鶴」第二中隊と「瑞鶴」第一中隊、それに「雲鶴」第二中隊と「神鶴」第一中隊が敵戦闘機を積極排除する制空隊。
 一方、兼子大尉直率の「翔鶴」第一中隊と「瑞鶴」第二中隊、それに「雲鶴」第一中隊と「神鶴」第二中隊が九九艦爆を最後まで守護する直掩隊となっている。
 兼子大尉は制空隊のうちで、「翔鶴」第二中隊を除くすべての機体を敵戦闘機隊にぶつけたのだ。

 その兼子大尉は零戦の無線機が使い物になるようにと奔走した人間に感謝の念を抱いている。
 もし、零戦の無線機が使い物にならなければ、間違いなく制空隊の零戦はそのすべての機体が敵戦闘機に突っかかっていったことだろう。
 逆に、無線があったからこそ、適切な兵力配分による迎撃命令を下すことがかなったのだ。

 合わせて二七機の零戦が斬り込んでいった相手は「エンタープライズ」と「サラトガ」、それに「レキシントン」から発進した二一機のF4Fワイルドキャットとそれに一一機のF2Aバファローの戦闘機群だった。
 このうち、佐藤正夫大尉率いる「瑞鶴」第一中隊が相手取ったのは「サラトガ」戦闘機隊で、同隊は一〇機のF4Fを擁していた。

 先に仕掛けたのはF4Fのほうだった。
 低伸するブローニング機銃の高性能にものを言わせ、遠めから零戦めがけて一二・七ミリ弾のシャワーを浴びせにかかる。

 これに対し、被弾した零戦は皆無だった。
 零戦の搭乗員はそのいずれもが米戦闘機が極めて優秀な機銃を装備していることを承知していたからだ。
 フィリピン航空戦ではこの機銃によって少なくない零戦が討ち取られてしまったという。

 そして、そのことを知った生沢長官は零戦の搭乗員に対して米戦闘機との正面戦闘を禁止。
 さらに早めの回避機動を心がけるよう厳命していた。
 それが奏効し、零戦は敵の初撃を無傷で回避することに成功したのだ。

 零戦はそのまま前進、F4Fと交錯すると同時に機体を旋回させる。
 F4Fのほうもまた同様に零戦の背後を取る動きを見せる。
 互いに相手のバックを取りにかかる巴戦あるいはドッグファイト。
 それに勝利したのは零戦だった。

 今回、空戦に参加したF4Fの搭乗員らは在比米航空軍から寄せられたレポートに目を通していた。
 そこには、零戦に対しては決して旋回格闘戦の土俵に上がってならないということが記されていた。

 しかし、F4Fの搭乗員らはそのことを真に受けなかった。
 在比米航空軍の戦闘機隊が敗れたのは、単に彼らが技量未熟な植民地警備軍だったことによるものだと考えていたからだ。

 一方、自分たち母艦航空隊は狭い飛行甲板に離着艦できる米海軍のエースだ。
 在比米航空軍のヒヨコ共と一緒にしてもらっては困る。
 そう思っていた。

 しかし、その奢りは自らの命によって贖われることになった。
 異様とも言えるほどの小さな旋回によってF4Fの後ろを取った零戦は、軽量な機体による加速性能の高さから一気に距離を詰めにかかる。

 一方、速度性能それに旋回性能に劣るF4Fは零戦を振り切ることが出来ない。
 悠々とF4Fに肉薄した零戦は機首の七・七ミリ機銃、それに両翼に装備された二〇ミリ機銃を撃ちかける。

 一号機銃に比べて高初速の二号機銃。
 その銃口からから吐き出される二〇ミリ弾の威力は破格だ。
 しかるべき数を撃ち込めば、四発重爆すらも撃墜できる二〇ミリ弾に、単発艦上戦闘機が耐えられる道理も無い。
 二〇ミリ弾をしたたかに浴びたF4Fは煙を吐き出しながらマーシャルの海へと叩き込まれていく。

 最初の一太刀で「瑞鶴」第一中隊は三機のF4Fを撃墜した。
 そのことで、最初は九対一〇だった戦力比が九対七となる。
 そのうえ、F4Fは零戦を振り切るための回避機動によって編隊がバラけていた。
 それを見逃す「瑞鶴」第一中隊ではない。
 早々に残敵掃討に移行した「瑞鶴」第一中隊は一機、また一機とF4Fをついばんでいく。
 その頃には「雲鶴」第二中隊それに「神鶴」第一中隊もまた勝勢を確実なものにしていた。

 一方、敵戦闘機の迎撃をかいくぐった本隊には、さらに二〇機前後とみられる二つの編隊が迫っていた。
 実のところ、これら機体はそのすべてがSBDドーントレスなのだが、しかしそのようなことは第一次攻撃隊の搭乗員には分からない。

 「『翔鶴』二中隊と『瑞鶴』二中隊は右、『雲鶴』一中隊と『神鶴』二中隊は左の編隊を攻撃せよ」

 手元に残していた最後の制空隊の「翔鶴」第二中隊、それに直掩隊の「瑞鶴」第二中隊と「雲鶴」第一中隊、それに「神鶴」第二中隊に対して兼子大尉は新たに出現した敵編隊の阻止を命じる。

 その兼子大尉は命令を下す一方で、自身の背中に嫌な汗が流れていることを自覚する。
 もともと兼子大尉は、三隻の米空母を攻撃するのに七二機の零戦が護衛につくというのは、少しばかり戦力が過剰ではないかと考えていた。
 しかし、実際にはぎりぎりの数だった。
 すでに九九艦爆の側にいる零戦は兼子大尉が率いる「翔鶴」第一中隊しか残っていない。
 他の戦闘機隊は敵の迎撃機によって引き剥がされてしまったのだ。

 この現実に、兼子大尉は突如として胸中にわき上がった想定にさらに冷や汗を流す。
 もし、太平洋艦隊の空母があと一隻多ければ、あるいは零戦の防衛網は破綻していたかもしれない。
 そうなれば、敵戦闘機によって少なくない九九艦爆が失われていたことだろう。

 (司令長官の判断は正しかったな)

 人伝に聞いた話だが、もともと「翔鶴」型空母は艦爆と艦攻がそれぞれ四五機搭載される予定だったのに対し、艦戦のほうはわずかに二七機にしか過ぎなかったらしい。
 しかし、二航艦を指揮する生沢長官は艦戦の増勢を訴え、そのことで「翔鶴」型空母の艦戦は二七機から四五機へと大幅増となった。
 一方で九九艦爆それに九七艦攻のほうはそれぞれ三六機にその数を減らしている。

 もし、「翔鶴」型空母に搭載される艦戦の定数が二七機のままであれば、第一次攻撃隊に参加する零戦は現在の半分になっていたはずだ。
 そうであれば、敵の迎撃機をすべて捌ききることはできず、艦爆隊に被害が出たことは疑いようがない。

 そのようなことを思いつつ、兼子大尉は周囲を警戒する。
 九機に減った零戦で一〇八機の九九艦爆を護衛するのは、いささかばかり心許ないものがあった。
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