征空決戦艦隊 ~多載空母打撃群 出撃!~

蒼 飛雲

文字の大きさ
19 / 108
マーシャル沖海戦

第19話 輪形陣破壊

しおりを挟む
 第一次攻撃隊指揮官兼「翔鶴」艦爆隊長の高橋赫一少佐はほんの少し前まで焦慮の念に囚われていた。
 七二機の零戦が相次ぐ敵迎撃機の出現によって次々に本隊から引き剥がされていったからだ。
 そして現在、自分たちの周囲にある零戦は一〇機足らずにしか過ぎない。

 しかし、ぎりぎりだったとはいえそれでも艦戦隊は完璧に仕事をこなしてくれた。
 このことで、一〇八機の九九艦爆はただの一機も損なわれることなく、太平洋艦隊にとりつくことができた。

 艦戦隊に感謝を捧げつつ、高橋少佐はさてどうしたものかと思案する。
 機動部隊である甲一と甲二、それに甲三についてはこれを「瑞鶴」隊と「雲鶴」隊、それに「神鶴」隊に任せることを決めている。

 残る問題は自分たち「翔鶴」隊の身の振りだ。
 他の三空母の艦爆隊とともに機動部隊を攻撃するか、あるいは乙一と呼称される水上打撃部隊を叩くか。

 (空母を狙うなという上からの命令に不満を抱く搭乗員も少なくなかったが、しかし眼下の光景を見れば、そのような考えも吹き飛んだことだろう)

 第一次攻撃隊の使命は敵空母を守る護衛艦艇の排除だ。
 索敵機の報告によれば、米機動部隊は一隻の空母を中心に、その周囲を一〇隻近い巡洋艦や駆逐艦が取り囲んでいるのだという。
 典型的な輪形陣だ。
 もし、外郭を固める護衛艦艇を無視し、いきなり本丸である空母を攻めようものなら、それこそ十字砲火に身をさらすことになる。
 だからこそ、生沢長官は空母という羊を平らげるまえに、護衛艦艇という牧羊犬を駆逐せよと命じたのだろう。

 「『瑞鶴』隊は甲一、『雲鶴』隊は甲二、『神鶴』隊は甲三を攻撃せよ。攻撃方法ならびに目標の選定については、各隊指揮官にこれを任せる。『翔鶴』隊については追って指示を出す」

 「翔鶴」隊をどうするかについては結論は出なかった。
 ただ、敵を前にして長々と考え込んでいるわけにもいかない。
 今のところ、敵の迎撃機については零戦がこれを完封しているが、しかしその状態がいつまでも続くという保証は無い。
 いつ、敵機が現れてもおかしくはないのだ。

 真っ先に攻撃を開始したのは坂本明大尉率いる「瑞鶴」隊だった。
 その「瑞鶴」隊が狙う甲一は、空母を中心にその周囲を三隻の中型艦とそれに六隻の小型艦が取り囲んでいる。
 中型艦のほうはそのボリュームから重巡もしくは「ブルックリン」級軽巡、小型艦のほうは駆逐艦とみて間違いなかった。

 一方、「瑞鶴」隊のほうは中隊ごとに分かれ、三隻の中型艦を狙う動きを見せる。
 駆逐艦に比べて火力が大きいからか、あるいは単に大物食いをしたかっただけなのかは分からない。

 その「瑞鶴」隊に向けて撃ち上げられてくる対空砲火は凄まじかった。
 それこそ大げさではなく、あっという間に空が黒く染め上げられていく。
 特に駆逐艦から放たれる弾幕は意外なほどに濃密だった。
 あるいは、米軍の駆逐艦の主砲は高角砲かもしくは両用砲なのかもしれない。

 一方、九九艦爆のほうは平然とした様子で鉄と火薬の槍衾にその身を投じていく。
 巡洋艦の上空五〇〇メートルにまで肉薄して二五番を投下、そのまま海面を這うようにして離脱していく。

 対空砲火が激しい割に、撃墜される機体はさほど多くはなかった。
 僚艦の援護が受けにくい輪形陣の外郭に位置する艦を狙ったからだろう。
 逆に、中心に位置する空母を攻撃していれば、被害はこんなものでは済まなかったはずだ。

 「瑞鶴」隊が攻撃した甲一というのは、米軍で言うところの第八任務部隊だった。
 空母「エンタープライズ」を主力とする同部隊には「ノーザンプトン」と「チェスター」それに「ソルトレイクシティ」の三隻の重巡と、他に六隻の駆逐艦が配備されていた。
 このうち、三隻の重巡についてはそのいずれもが軍縮条約による排水量制限を受けており、そのことで防御力に難があった。
 当然、重巡の主砲弾の二倍の重量を持つ二五番を弾き返すことはできない。
 命中した二五番は薄い水平装甲を食い破り、艦内部で爆発した。

 「ノーザンプトン」と「ソルトレイクシティ」はそれぞれ三発、「チェスター」に至っては四発の直撃弾を食らっていた。
 そして、いずれの艦も機関室に最低でも一発の二五番を被弾したことで、速力を著しく低下させていた。

 その頃には甲二を目標とした「雲鶴」隊、それに甲三を狙った「神鶴」隊の攻撃も終了している。
 両隊ともに護衛艦艇の中で唯一の大物の巡洋艦を攻撃。
 こちらもまた、それぞれ三隻の重巡を撃破している。

 (艦爆乗りはどいつもこいつも大物狙いが好きな連中ばかりだ)

 胸中で苦笑しつつ、高橋少佐は最後まで残っていた「翔鶴」隊に対して命令を下す。

 「『翔鶴』一中隊は甲一、二中隊は甲二、三中隊は甲三を攻撃せよ。攻撃は小隊単位とし、目標は駆逐艦とする」

 この戦いで米駆逐艦の対空能力が思いのほか高いことが分かった。
 もし、これを放置しておけば、空母を狙う第二次攻撃隊に少なからぬ被害が生じるはずだ。

 攻撃は一隻の駆逐艦に対して三機の九九艦爆で実施するが、しかしこれらに対しては必ずしも直撃弾である必要は無い。
 二五番であれば、船殻の薄い駆逐艦に対しては至近弾であっても水線下に亀裂や破孔を生じさせることができる。
 そうなれば、駆逐艦は浸水を抑えなければならないことから高速発揮が不可能になる。
 脚を奪われれば、当然のこととして空母の護衛任務を全うすることはできない。

 「いくぞ!」

 後席の小泉精三中尉に一声かけ、高橋少佐は最後尾を行く駆逐艦に向けて降下を開始する。
 二番機の篠原一男一飛曹と小板橋博司一飛曹のペア、それに三番機の福原淳二飛曹と元俊二郎二飛曹のペアも遅れることなくその機動に追随している。

 前を行く艦が混乱の極みにあることで、最後尾の駆逐艦もまた減速を伴う回避運動を余儀なくされている。
 的が小さくとも、しかし相手が速度を出せない状態の駆逐艦であれば、たとえ三機しかなくとも一発は直撃あるいは有効至近弾を食らわせることが出来るはずだ。

 高橋少佐の予想は完全に正しかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

改造空母機動艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。  そして、昭和一六年一二月。  日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。  「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。

札束艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 生まれついての勝負師。  あるいは、根っからのギャンブラー。  札田場敏太(さつたば・びんた)はそんな自身の本能に引きずられるようにして魑魅魍魎が跋扈する、世界のマーケットにその身を投じる。  時は流れ、世界はその混沌の度を増していく。  そのような中、敏太は将来の日米関係に危惧を抱くようになる。  亡国を回避すべく、彼は金の力で帝国海軍の強化に乗り出す。  戦艦の高速化、ついでに出来の悪い四姉妹は四一センチ砲搭載戦艦に改装。  マル三計画で「翔鶴」型空母三番艦それに四番艦の追加建造。  マル四計画では戦時急造型空母を三隻新造。  高オクタン価ガソリン製造プラントもまるごと買い取り。  科学技術の低さもそれに工業力の貧弱さも、金さえあればどうにか出来る!

大和型重装甲空母

ypaaaaaaa
歴史・時代
1937年10月にアメリカ海軍は日本海軍が”60000トンを超す巨大戦艦”を”4隻”建造しているという情報を掴んだ。海軍はすぐに対抗策を講じてサウスダコタ級戦艦に続いてアイオワ級戦艦を4隻建造することとした。そして1941年12月。日米は戦端を開いたが戦列に加わっていたのは巨大戦艦ではなく、”巨大空母”であった。

電子の帝国

Flight_kj
歴史・時代
少しだけ電子技術が早く技術が進歩した帝国はどのように戦うか 明治期の工業化が少し早く進展したおかげで、日本の電子技術や精密機械工業は順調に進歩した。世界規模の戦争に巻き込まれた日本は、そんな技術をもとにしてどんな戦いを繰り広げるのか? わずかに早くレーダーやコンピューターなどの電子機器が登場することにより、戦場の様相は大きく変わってゆく。

超克の艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
「合衆国海軍ハ 六〇〇〇〇トン級戦艦ノ建造ヲ計画セリ」 米国駐在武官からもたらされた一報は帝国海軍に激震をもたらす。 新型戦艦の質的アドバンテージを失ったと判断した帝国海軍上層部はその設計を大幅に変更することを決意。 六四〇〇〇トンで建造されるはずだった「大和」は、しかしさらなる巨艦として誕生する。 だがしかし、米海軍の六〇〇〇〇トン級戦艦は誤報だったことが後に判明。 情報におけるミスが組織に致命的な結果をもたらすことを悟った帝国海軍はこれまでの態度を一変、貪欲に情報を収集・分析するようになる。 そして、その情報重視への転換は、帝国海軍の戦備ならびに戦術に大いなる変化をもたらす。

If太平洋戦争        日本が懸命な判断をしていたら

みにみ
歴史・時代
もし、あの戦争で日本が異なる選択をしていたら? 国力の差を直視し、無謀な拡大を避け、戦略と外交で活路を開く。 真珠湾、ミッドウェー、ガダルカナル…分水嶺で下された「if」の決断。 破滅回避し、国家存続をかけたもう一つの終戦を描く架空戦記。 現在1945年夏まで執筆

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

小日本帝国

ypaaaaaaa
歴史・時代
日露戦争で判定勝ちを得た日本は韓国などを併合することなく独立させ経済的な植民地とした。これは直接的な併合を主張した大日本主義の対局であるから小日本主義と呼称された。 大日本帝国ならぬ小日本帝国はこうして経済を盤石としてさらなる高みを目指していく… 戦線拡大が甚だしいですが、何卒!

処理中です...