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マーシャル沖海戦
第26話 飽和雷撃
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第一艦隊には二つの撃滅すべき目標があった。
一つは米水上打撃部隊で、残る一つは米機動部隊の残存艦艇だった。
このうち、米機動部隊の残存艦艇については新たに乙二の呼称が与えられている。
第三次攻撃隊それに第四次攻撃隊の戦果報告が上がってきた時点で、第一艦隊を指揮する高須長官は迷うことなく乙二を攻撃することを決意する。
戦果報告を信じるのであれば、乙一と呼ばれる米水上打撃部隊のうちで五隻の戦艦は複数の、四隻ある巡洋艦のほうは最低でも一本の魚雷を被雷している。
さらに、一五隻の駆逐艦についてもそのすべてが二五番を被弾しているとのことだ。
新型戦艦ならばともかく、旧式戦艦が複数の魚雷を食らえば、よほど当たりどころに恵まれない限り大幅な戦力ダウンは避けられない。
巡洋艦のほうは、ただの一本の被雷でさえ極めて深刻なダメージをもたらすことだろう。
一方、二隻の戦艦と九隻の巡洋艦、それに一六隻の駆逐艦から成る乙二のほうだが、こちらで被雷しているのは二隻の戦艦のみにとどまる。
残る九隻の巡洋艦と一六隻の駆逐艦は、そのいずれもが二五番を食らっただけであり、被雷した艦に比べればその傷は浅い。
それと、乙二の九隻の巡洋艦については接触機の情報から、そのすべてが重巡であることが判明していた。
これらの中には主砲塔を損傷している艦もあるはずだが、それでも九隻もあれば八〇門近い二〇センチ砲が使える。
このことから、高須長官は乙二のほうが脅威度が高いと判断。
こちらを先に始末することにしたのだ。
相次いだ空襲によっていまだ混乱を極める乙一をスルーし、乙二をその視界に収めた第一艦隊はさらに増速。
乙二の斜め右前方の位置に遷移する。
そのときの彼我の距離は二〇〇〇〇メートル。
戦艦はもちろん、重巡の二〇センチ砲であっても十分に届く距離だ。
しかし、第一艦隊も乙二も砲撃を開始する様子はない。
乙二は下手に相手を刺激するよりも、今は逃げに徹するべきだという判断から。
第一艦隊のほうは砲撃以外の手段による先制攻撃を考えていたからだ。
「全艦魚雷発射始め!」
高須長官の命令一下、発射管を装備した艦から魚雷が放たれる。
第四水雷戦隊の「那珂」とそれに一二隻の「陽炎」型駆逐艦から一〇〇本。
第九戦隊の「北上」と「大井」から四〇本。
第七戦隊の「熊野」と「鈴谷」から一二本の合わせて一五二本の魚雷が乙二の未来位置に向けて駛走を開始する。
さらに「北上」と「大井」は回頭によって、他の艦は次発装填装置を使って同じく一五二本の第二波魚雷を発射する。
それらはそのすべてが九三式酸素魚雷であり、雷速を三六ノットに落とせば、その駛走距離は実に四〇〇〇〇メートルにまで及ぶ。
三〇四本の魚雷を無事に発射し終えた時点で、第一艦隊の将兵らは乙二のうち、少なくとも半数はこれを沈められるものだと考えていた。
仮に一割の命中率でも三〇本が直撃することになるからだ。
それに、敵は二七隻にしか過ぎないうえに、しかもそれらは低速でしかも定速直進で航行中だ。
これほど未来位置を予想しやすい的もそうそう無い。
飽和雷撃を実施するには最高の相手だ。
このことから、全滅を予想する声さえ上がっていた。
しかし、将兵らの期待とは裏腹に、命中したのは駆逐艦に五本、それに重巡に四本の合わせて九本にとどまった。
この不振極まる成績には、高須長官をはじめその誰もが困惑していた。
「どういうことだ。確かに長距離雷撃は命中率が低下するが、それでも三〇〇本を超える魚雷を放っておきながら、しかしその命中が九本にしか過ぎないというのは」
高須長官が理解しがたいとばかりに、水雷参謀にその視線を向ける。
三パーセントにも届かない命中率は、彼の想像の埒外だ。
「正直、分かりません。水雷科の将兵の腕が悪いので無ければ、魚雷照準装置かあるいは魚雷そのものに何らかの欠陥があったものと思われます」
水雷参謀の歯切れは悪い。
彼自身もまた、この惨憺たる現実を受け止めきれていないのだろう。
そんな水雷参謀に対して、高須長官は思うところが無いわけでもないが、しかし彼を責めるのもまた筋違いであることは理解していた。
それに、逆に考えれば、二七隻あったうちのその三分の一の戦力を刈り取ったとも言えなくもない。
そう思い直し、高須長官は指揮官の務めとして新たな指示を出す。
「一戦隊、目標敵戦艦。二戦隊ならびに七戦隊、目標敵巡洋艦。四水戦ならびに九戦隊、目標敵駆逐艦」
高須長官の皮算用としてこうだった。
「長門」と「陸奥」は二隻の米戦艦を叩く。
その米戦艦のうちの一隻はその砲塔配置それに門数から「オクラホマ」級だということが分かっている。
残る一隻については「ペンシルベニア」級なのかそれとも「テネシー」級なのか判然としない。
ただ、いずれにせよ格下の三六センチ砲搭載戦艦であることは間違いない。
それと、これら二隻の戦艦は九七艦攻の航空雷撃によってすでに深手を負っている。
このような状況で日本の誇りとまでうたわれた「長門」や「陸奥」が負けたら、それこそどうかしている。
第二戦隊の「伊勢」型戦艦と「扶桑」型戦艦、それに第七戦隊の「鈴谷」型重巡には残る五隻の敵重巡を相手取らせる。
「伊勢」と「日向」、それに「山城」と「扶桑」はそれぞれタイマンで、「熊野」と「鈴谷」は二隻がかりでそれぞれ敵の重巡に戦いを挑ませる。
こちらもまた、よほどの下手を打たない限り負ける心配は無かった。
残る第四水雷戦隊とそれに第九戦隊の合わせて三隻の軽巡と一二隻の駆逐艦は一一隻の米駆逐艦をその目標とする。
「那珂」以外の各艦はすでに魚雷を撃ち尽くしているが、それでも一五門の一四センチ砲とそれに七二門の一二・七センチ砲をもってすれば、脚に難を抱える敵駆逐艦を撃滅することはさほど難しくはないだろう。
一方、被雷した九隻については、これを無視しても大丈夫だった。
九三式酸素魚雷は九一式航空魚雷の三倍近くに達する重量を持つことから、その威力もまた破格だったからだ。
巡洋艦であれば一発で戦闘力を喪失、駆逐艦ならよほど当たりどころに恵まれない限り沈没は免れない。
高須長官の命令一下、合わせて二三隻の戦艦や巡洋艦、それに駆逐艦がそれぞれ指示された目標に向けて突撃を開始する。
一方、乙二の艦艇群は同時被雷の混乱から立ち直っていない。
あるいは、彼我に二〇〇〇〇メートルの距離があったことで、自分たちに魚雷攻撃を仕掛けたのは潜水艦だと勘違いしているのかもしれない。
この時代の魚雷の射程は一〇〇〇〇メートルがせいぜいだから、敵がそう考えてもおかしくはなかった。
いずれにせよ、乙二の陣形は乱れに乱れている。
そのことで、各艦の連携はまったくと言っていいほどにこれを取ることができていない。
混乱を極める満身創痍の敵に対し、しかし帝国海軍の艨艟たちは容赦しない。
六隻の戦艦が四一センチ砲や三六センチ砲をぶっ放し、「熊野」や「鈴谷」、それに「那珂」が在庫一掃とばかりに残りの魚雷を発射する。
一二隻の「陽炎」型駆逐艦も、対空射撃にはからっきしな一方で、対艦戦闘にはその強みを発揮する一二・七センチ砲を振りかざし、敵駆逐艦を穴だらけにしていく。
その血に塗れた狂乱の宴は、最後の一隻が沈むまで続けられた。
一つは米水上打撃部隊で、残る一つは米機動部隊の残存艦艇だった。
このうち、米機動部隊の残存艦艇については新たに乙二の呼称が与えられている。
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さらに、一五隻の駆逐艦についてもそのすべてが二五番を被弾しているとのことだ。
新型戦艦ならばともかく、旧式戦艦が複数の魚雷を食らえば、よほど当たりどころに恵まれない限り大幅な戦力ダウンは避けられない。
巡洋艦のほうは、ただの一本の被雷でさえ極めて深刻なダメージをもたらすことだろう。
一方、二隻の戦艦と九隻の巡洋艦、それに一六隻の駆逐艦から成る乙二のほうだが、こちらで被雷しているのは二隻の戦艦のみにとどまる。
残る九隻の巡洋艦と一六隻の駆逐艦は、そのいずれもが二五番を食らっただけであり、被雷した艦に比べればその傷は浅い。
それと、乙二の九隻の巡洋艦については接触機の情報から、そのすべてが重巡であることが判明していた。
これらの中には主砲塔を損傷している艦もあるはずだが、それでも九隻もあれば八〇門近い二〇センチ砲が使える。
このことから、高須長官は乙二のほうが脅威度が高いと判断。
こちらを先に始末することにしたのだ。
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乙二の斜め右前方の位置に遷移する。
そのときの彼我の距離は二〇〇〇〇メートル。
戦艦はもちろん、重巡の二〇センチ砲であっても十分に届く距離だ。
しかし、第一艦隊も乙二も砲撃を開始する様子はない。
乙二は下手に相手を刺激するよりも、今は逃げに徹するべきだという判断から。
第一艦隊のほうは砲撃以外の手段による先制攻撃を考えていたからだ。
「全艦魚雷発射始め!」
高須長官の命令一下、発射管を装備した艦から魚雷が放たれる。
第四水雷戦隊の「那珂」とそれに一二隻の「陽炎」型駆逐艦から一〇〇本。
第九戦隊の「北上」と「大井」から四〇本。
第七戦隊の「熊野」と「鈴谷」から一二本の合わせて一五二本の魚雷が乙二の未来位置に向けて駛走を開始する。
さらに「北上」と「大井」は回頭によって、他の艦は次発装填装置を使って同じく一五二本の第二波魚雷を発射する。
それらはそのすべてが九三式酸素魚雷であり、雷速を三六ノットに落とせば、その駛走距離は実に四〇〇〇〇メートルにまで及ぶ。
三〇四本の魚雷を無事に発射し終えた時点で、第一艦隊の将兵らは乙二のうち、少なくとも半数はこれを沈められるものだと考えていた。
仮に一割の命中率でも三〇本が直撃することになるからだ。
それに、敵は二七隻にしか過ぎないうえに、しかもそれらは低速でしかも定速直進で航行中だ。
これほど未来位置を予想しやすい的もそうそう無い。
飽和雷撃を実施するには最高の相手だ。
このことから、全滅を予想する声さえ上がっていた。
しかし、将兵らの期待とは裏腹に、命中したのは駆逐艦に五本、それに重巡に四本の合わせて九本にとどまった。
この不振極まる成績には、高須長官をはじめその誰もが困惑していた。
「どういうことだ。確かに長距離雷撃は命中率が低下するが、それでも三〇〇本を超える魚雷を放っておきながら、しかしその命中が九本にしか過ぎないというのは」
高須長官が理解しがたいとばかりに、水雷参謀にその視線を向ける。
三パーセントにも届かない命中率は、彼の想像の埒外だ。
「正直、分かりません。水雷科の将兵の腕が悪いので無ければ、魚雷照準装置かあるいは魚雷そのものに何らかの欠陥があったものと思われます」
水雷参謀の歯切れは悪い。
彼自身もまた、この惨憺たる現実を受け止めきれていないのだろう。
そんな水雷参謀に対して、高須長官は思うところが無いわけでもないが、しかし彼を責めるのもまた筋違いであることは理解していた。
それに、逆に考えれば、二七隻あったうちのその三分の一の戦力を刈り取ったとも言えなくもない。
そう思い直し、高須長官は指揮官の務めとして新たな指示を出す。
「一戦隊、目標敵戦艦。二戦隊ならびに七戦隊、目標敵巡洋艦。四水戦ならびに九戦隊、目標敵駆逐艦」
高須長官の皮算用としてこうだった。
「長門」と「陸奥」は二隻の米戦艦を叩く。
その米戦艦のうちの一隻はその砲塔配置それに門数から「オクラホマ」級だということが分かっている。
残る一隻については「ペンシルベニア」級なのかそれとも「テネシー」級なのか判然としない。
ただ、いずれにせよ格下の三六センチ砲搭載戦艦であることは間違いない。
それと、これら二隻の戦艦は九七艦攻の航空雷撃によってすでに深手を負っている。
このような状況で日本の誇りとまでうたわれた「長門」や「陸奥」が負けたら、それこそどうかしている。
第二戦隊の「伊勢」型戦艦と「扶桑」型戦艦、それに第七戦隊の「鈴谷」型重巡には残る五隻の敵重巡を相手取らせる。
「伊勢」と「日向」、それに「山城」と「扶桑」はそれぞれタイマンで、「熊野」と「鈴谷」は二隻がかりでそれぞれ敵の重巡に戦いを挑ませる。
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「那珂」以外の各艦はすでに魚雷を撃ち尽くしているが、それでも一五門の一四センチ砲とそれに七二門の一二・七センチ砲をもってすれば、脚に難を抱える敵駆逐艦を撃滅することはさほど難しくはないだろう。
一方、被雷した九隻については、これを無視しても大丈夫だった。
九三式酸素魚雷は九一式航空魚雷の三倍近くに達する重量を持つことから、その威力もまた破格だったからだ。
巡洋艦であれば一発で戦闘力を喪失、駆逐艦ならよほど当たりどころに恵まれない限り沈没は免れない。
高須長官の命令一下、合わせて二三隻の戦艦や巡洋艦、それに駆逐艦がそれぞれ指示された目標に向けて突撃を開始する。
一方、乙二の艦艇群は同時被雷の混乱から立ち直っていない。
あるいは、彼我に二〇〇〇〇メートルの距離があったことで、自分たちに魚雷攻撃を仕掛けたのは潜水艦だと勘違いしているのかもしれない。
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いずれにせよ、乙二の陣形は乱れに乱れている。
そのことで、各艦の連携はまったくと言っていいほどにこれを取ることができていない。
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六隻の戦艦が四一センチ砲や三六センチ砲をぶっ放し、「熊野」や「鈴谷」、それに「那珂」が在庫一掃とばかりに残りの魚雷を発射する。
一二隻の「陽炎」型駆逐艦も、対空射撃にはからっきしな一方で、対艦戦闘にはその強みを発揮する一二・七センチ砲を振りかざし、敵駆逐艦を穴だらけにしていく。
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