征空決戦艦隊 ~多載空母打撃群 出撃!~

蒼 飛雲

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MO作戦

第42話 人事の話

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 日本と英国の有力艦隊同士がインド洋で激突。
 この戦いで第二艦隊とそれに第一航空艦隊は東洋艦隊に配備されていた三隻の空母を撃沈し、さらに二隻の駆逐艦を撃破した。
 しかも、三隻撃沈した空母のうちの実に二隻が英国の誇る最新鋭の装甲空母だった。

 一方で、日本側は「赤城」と「加賀」が少なくない損害を被ったものの、しかしただの一隻も沈没艦を出していない。
 そのインド洋海戦の結果を受けた大本営は、ほぼ正確に戦果と損害を発表した。
 その報道に国民は欣喜雀躍、大いにわき上がっていた。

 「これのどこが勝利ですか。どう考えても日本側の負け、もっと言えば大失敗じゃないですか」

 第二航空艦隊の長官室で、志津頼航空甲参謀が新聞片手に悪態をつく。
 一方の生沢長官のほうはそんな彼の態度に苦笑するだけで、無礼を咎めるようなことはしない。
 むしろ、当人の本音を聞けるから、人前でなければこれを歓迎しているくらいだった。

 「まあ、確かに三隻の英空母を撃沈したことは大戦果だ。しかし、インド洋の制海権の奪取はおろか、コロンボやトリンコマリーといった要衝に一切手を出すこともなく引き揚げざるを得なかったことも事実だ。そういったことを鑑みれば、戦略的勝利を挙げたのはインド洋の制海権を守りきった英側だと言っていいな」

 生沢長官もまた志津頼航空甲参謀の見解については、これに概ね同意するところだった。

 「こうなってくると、責任を明確にするための論功行賞といったようなものはあるんでしょうね」

 雲の上の中将に対してそのような生臭いネタを持ちかけてくる佐官はお前くらいのものだろうな。
 無遠慮な志津頼航空甲参謀の言葉に呆れながらも、生沢長官は人事局に勤務するかつての部下から得た情報を思い出す。

 インド洋海戦では一航艦司令部と二航戦司令部で明暗が分かれた。
 少なくとも人事局ではそう評価していた。
 もちろん、敵の夜間雷撃に手も足も出ずに撤退を余儀なくされた一航艦司令部への風当たりは強く、南雲中将をはじめとした同司令部の幕僚らについては当然ながらその評価は急落している。
 逆に不利な状況を覆し、三隻の英空母を撃沈した二航戦司令官の山口少将とその彼を支えた参謀や、それに「蒼龍」艦長をはじめとする関係者らについての評価は、それこそうなぎのぼりといったところだ。

 このことで、南雲中将は一航艦司令長官から鎮守府長官への転任がすでに決まっているとのことだった。
 一方、山口司令官のほうは今年秋の定期人事で中将への昇任が確実視されているが、それをもっと早めようという動きもあるのだという。
 生沢長官はそういった内容をかいつまんで志津頼航空甲参謀に説明する。

 「やっぱりそういった評価になりますか。でも、山口さんの指揮はどうなんですかね。確かに、英空母を三杯も沈めた手腕はすごいと思います。しかし、空母が四隻から二隻になるという、つまりは航空戦力がガタ落ちの状態で敵を叩きにいけば、艦上機隊の損害が甚大なものになることは目に見えています。実際、空母が半減したことに伴って数が減った零戦は、九九艦爆を完全に守り切ることが出来なかったそうじゃないですか」

 四隻あったはずの空母が半分の二隻になるという状況に陥ってなお、当時の山口司令官は三次にわたって攻撃隊を繰り出した。
 恐るべき執念、攻撃精神だ。
 ただ、そのことで戦果は挙がったものの、しかしその一方で二航戦は数十人にも及ぶ搭乗員を一時に失ってしまった。
 志津頼航空甲参謀が妙なこだわりを見せているのも、そういったあたりが原因なのだろう。

 「確かにあの状況での指揮についてはかなり判断に迷うところだな。夜間雷撃をくぐり抜けてなお健在の空母が三隻あれば悩むこと無く東洋艦隊を攻撃する。だが、逆に一隻しかなければまず間違いなく戦いを避けるだろう。なにより、少数機で攻撃を仕掛けても戦果は僅少で、逆に被害が大きくなるのは目に見えているからな。しかし、二隻だと難しい。ただ、二航戦搭乗員の術力を考えれば、攻撃を選択したくなる気持ちも理解できる」

 生沢長官にしては珍しく歯切れが悪いが、それだけ難しいシチュエーションなのだろう。

 「長官のお考えはともかくとして、しかし山口さんの性格なら一隻になったとしても東洋艦隊にそのまま殴りかかっていきそうですね」

 志津頼航空甲参謀がぼそっと本音を漏らす。

 「それは無いだろう。一対三のような戦力差が隔絶したなかで戦闘を継続するなど、それこそ搭乗員を無為にすり潰す行為だ。仮に戦果が挙がったとしても犠牲が凄まじいものになることは目に見えている。もし、そうなった場合は、一も二もなく逃げの一手だ」

 そう言いながらも、生沢長官は山口司令官の人となりを考えればあり得るのではないかとも思う。
 さらに、猛将で鳴らす四航戦司令官であれば、絶対に攻撃を選択すると生沢長官は確信している。
 なにせ空母で突撃、その装備する高角砲で監視艇を沈めてしまうような御仁なのだから。
 そうであれば、一対三の不利な状況であったとしても決してビビることはないだろう。
 ただ、それはそれで困ったことなのだが。

 「まあ、なんにせよインド洋での戦いで帝国海軍の空母戦力はかなりまずい状況に陥ってしまった。ここからの立て直しは決して容易ではない」

 司令長官と航空参謀が雁首揃えて他人の話をしても時間の無駄、不毛なだけだ。
 だから、生沢長官は話題の転換を図る。

 「確かにそうですね。一航戦の『赤城』と『加賀』はともに修理に半年近くかかるし、二航戦の『蒼龍』と『飛龍』は失われた搭乗員の補充とそれに伴う錬成が必要でしょう。そうなってくると、戦力としてカウントできる空母は五航戦の『翔鶴』と『瑞鶴』、それに六航戦の『雲鶴』と『神鶴』の四隻しか残っていないことになります。まあ、戦力の立て直し途上にある今の太平洋艦隊であれば、これら四隻があれば何とかなるんでしょうけど」

 八隻あったはずの正規空母が、しかしインド洋海戦のあおりを受けて使えるそれがいきなり半分になってしまった。
 そのことをボヤく志津頼航空甲参謀だったが、しかし状況はさらに深刻なことを生沢長官は知る立場にあった。

 今のところそれは司令長官とそれに参謀長の胸にしまっておくべき機密情報だ。
 しかし、生沢長官はあっさりと志津頼航空甲参謀にそのことを打ち明ける。
 これを話せば彼はきっと怒り出すだろうなと思いつつ。
 そうしたところ、予想通り志津頼航空甲参謀はキレた。
 それも、かなりの勢いだった。
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