征空決戦艦隊 ~多載空母打撃群 出撃!~

蒼 飛雲

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MO作戦

第43話 MO作戦

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 「アホなんですか? 軍令部も連合艦隊司令部も! まあ、知ってましたけど!」

 NGワードを交えて上層部批判を繰り返す志津頼航空甲参謀。
 それをオブラートに包めば、上記のような言葉になる。
 そんな彼を生沢長官は生温かく見守っている。
 むしろここで怒らないようでは、逆にこいつは問題意識を持っていないのではないかと不安にさえなる。
 そういう意味において、今の志津頼航空甲参謀の態度には合格点を与えることができる。
 あと、もう少し紳士的な振る舞いができていれば、満点とはいかずとも九〇点くらいは与えてもいいほどだ。

 その志津頼航空甲参謀が腹に据えかねているのは、第二段作戦についてのそれだ。
 帝国海軍上層部は、三隻の英空母撃沈に浮かれる国民とは違い、インド洋作戦についてはそれなりの問題意識をもっていた。
 第二艦隊それに第一航空艦隊を本土に呼び戻すとともに、第一艦隊とそれに新たに編組した機動部隊をそれらに代わる戦力としてインド洋に送り込むことを決定したのだ。

 第一艦隊の投入については志津頼航空甲参謀も納得ができた。
 東洋艦隊には五隻の戦艦があり、帝国海軍でこれに対抗できるのは第一艦隊を置いて他には無いからだ。

 問題なのは機動部隊のほうだった。
 同部隊にはその基幹戦力として第六航空戦隊の「雲鶴」と「神鶴」が臨時に配備されるというのだ。
 そのことを知らされては、志津頼航空甲参謀としても黙ってはいられない。
 なにせ、この措置で第二航空艦隊は戦力が半減してしまうのだから。

 「インド洋作戦だが、帝国海軍は同作戦については絶対に引くつもりは無いとのことだ。それと、これは噂レベルの話だが、ドイツや帝国陸軍に対してインド洋作戦は絶対に成功すると、つまりは大風呂敷を広げていた粗忽者が海軍上層部にいたらしいのだ。それで組織としても引っ込みがつかなくなってしまったのだろう。まあ、簡単に言えば面子の話だ」

 生沢長官の話だけでは、件の粗忽者が誰なのかは分からない。
 しかし、迷惑な人間もいたものだと志津頼航空甲参謀は呆れる。

 「それでも、インド洋作戦については是非ともこれを完遂してもらわなければ困る。この作戦の成否次第で日欧連絡線が開通できるかどうかが決まるのだからな」

 日本と欧州、特にドイツとの連絡線の開通は、米国との戦争で日本が負けないための必要条件。
 それが、生沢長官の信念だということを志津頼航空甲参謀は知っている。
 しかし、だからと言って生沢長官がドイツ贔屓だというわけでもない。
 むしろ、ドイツを毛嫌いしているような態度さえ、時折ではあるが見せている。

 「それで、『雲鶴』と『神鶴』をインド洋にまで出張らせるわけですね。しかも『龍驤』のおまけ付きで」

 新たなるインド洋作戦で機動部隊に配備される空母については「雲鶴」と「神鶴」以外に「龍驤」もこれに含まれていた。

 「その通りだ。前回の作戦に比べて空母は一隻減っているが、しかし肝心の艦上機の数は今回のほうが多い。空母戦力がガタ落ちの英海軍を相手取るには十分な陣容だと言っていいだろう」

 先日のインド洋海戦で英海軍は「インドミタブル」と「フォーミダブル」、それに「ハーミーズ」を失った。
 残る空母でめぼしいものと言えば、あとは「イラストリアス」と「ビクトリアス」の二隻の装甲空母、それに「フューリアス」と「イーグル」くらいのものだろう。

 ただ、これら四隻を合わせても、その艦上機の数はせいぜい百数十機といったところだ。
 これは、「翔鶴」型空母一隻分をわずかに上回る程度でしかない。
 だから、生沢長官の言う通り、次期インド洋作戦における洋上航空戦力については何の問題もない。
 そのことは志津頼航空甲参謀も理解できた。
 解せないのは、もう一つの作戦だ。

 「第二次インド洋作戦はそれとして、しかしなんでまた同じ時期にポートモレスビーを攻略しようなんて思ったんですかね。先の海戦の影響で一航戦と二航戦が使えない。そのうえ六航戦までがインド洋に出払ってしまう。つまり今まともに戦えるのは五航戦しか残っていない。そのような状況で南方に仕掛けようなんて考える人間の気持ちが分かりません」

 志津頼航空甲参謀の疑問の形をとった憤懣は、生沢長官も同感だった。
 生沢長官にしても、連合艦隊司令長官の山本大将からMO作戦と呼ばれるポートモレスビー攻略の話を聞いたときには、それこそ唖然としたものだ。

 「どうやら、裏で連合艦隊司令部と軍令部との間で取引があったらしい。連合艦隊司令部がMO作戦に賛成すれば、ハワイはともかくとしてミッドウェー攻略のほうは軍令部もまたこれを認めるとな」

 生沢長官のネタバラシに、志津頼航空甲参謀が顔をしかめる。

 「この国家の重大事に何をやっているんですか、上層部のアホ共は! 戦争終結のためのはっきりしたビジョンすらも持ち合わせていない連中が、我意を通すためにつまらない取引をしている? そんな暇があるんだったら、もう少しマシな作戦を立てる努力でもしろってんですよ」

 吐く言葉に遠慮が無くなってきた志津頼航空甲参謀に対し、そろそろ注意したほうが良いかなと思う一方で、生沢長官もまた連合艦隊司令部と軍令部の連中には思うところがあった。
 ポートモレスビー攻略も、ミッドウェーに攻め込むのも決して良策とはいえない。
 むしろ、国家の力量を超えた悪手だと言ってもいい。
 これについては、志津頼航空甲参謀も同じ考えを持っている。

 そのうえ、MO作戦のほうは一航戦と二航戦が使えないという、空母戦力が最も弱体化したタイミングで行われるのだ。
 しかも、「翔鶴」型空母をインド洋作戦とMO作戦に割り振るという戦力分散のおまけまで付いている。
 これでは、志津頼航空甲参謀でなくとも、ブチ切れるのは当然だとも言えた。

 ただ、それでも作戦の実施はすでに決定事項だ。
 これについては、生沢長官がいくら反対しようとも決して覆ることは無い。
 ならば、少しでもマシな結果になるよう、二航艦司令部としても知恵を絞らなければならない。
 そのために、フライングを承知で生沢長官は近日中に実施される一連の作戦についてこれを志津頼航空甲参謀にチクった。

 一方の志津頼航空甲参謀は、悪態をつくことで少しは気が晴れたのか、何やら考えるそぶりを見せている。
 だから、生沢長官は自身が知りうるMO作戦の詳細について、これを志津頼航空甲参謀と共有することにした。
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