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MO作戦
第44話 不足! 不足! 不足!
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「MO作戦には五航戦の『翔鶴』と『瑞鶴』以外に、三航戦の『瑞鳳』と『祥鳳』が参加。ただし、『祥鳳』のほうは機動部隊には配備されず、MO主隊もしくはMO攻略部隊に組み込まれて船団護衛の任に着くということですか」
第二航空艦隊の陣容は、「雲鶴」と「神鶴」が抜け、代わりに「瑞鳳」が臨時に加わったこと以外は特に変更は無かった。
そのことを生沢長官から聞いた志津頼航空甲参謀の表情には、わずかばかり安堵の色が浮かんでいた。
転入組が「瑞鳳」一隻だけであれば、回転整合をはじめとした事前調整は、これを最小限で済ますことができる。
「『瑞鳳』ついでに言えば、同艦は戦闘機二個中隊とそれに攻撃一個中隊を搭載して作戦に臨む。それら機材と搭乗員はそのすべてが一航戦の搭乗員で固められている」
少し笑みを浮かべて生沢長官が話す。
思いもかけない言葉に、志津頼航空甲参謀は両手を挙げて喜ぶ。
ベテラン揃いの一航戦であれば、戦力としてこれを十分に計算できる。
「さすがは長官! 人材の引っこ抜きはお手のものですね」
失礼な褒め言葉を吐き出しつつ、志津頼航空甲参謀はこの件では生沢長官がなにかにつけて暗躍したと思っている。
たぶん、MO作戦を引き受ける条件の一つに一航艦の機体と搭乗員を所望したのではないか。
そして、それは認められた。
おそらくこれは、生沢長官の政治的手腕によるものだろう。
自身の想像を根拠に、志津頼航空甲参謀はそのことを尋ねる。
「そんな大げさなものではない。『赤城』と『加賀』は半年近く修理にかかるだろう? ごく短期間であればともかく、長期ともなればさすがに搭乗員を遊ばせておくわけにはいかん。そこで、MO作戦の成功率を上げるためにも一航艦の搭乗員を同作戦に参加する『瑞鳳』とそれに『祥鳳』に回してくれと頼んだのだ。ただし、受け入れてもらったのは『瑞鳳』だけで、残念ながら『祥鳳』のほうはだめだった。このことで現在の『祥鳳』は零戦だけでは戦闘機隊の定数を埋められず、少なくない九六艦戦がこれに含まれている」
種明かしをした生沢長官は、別に何ということは無いといった態度だ。
「一航戦の搭乗員は二航戦とは違い、戦死した二人の戦闘機搭乗員以外は全員が無事にインド洋から本土に戻っています。で、『瑞鳳』に転属する者がいたとしても、それでも相当な数の搭乗員が余ります。そういった連中はどうなるんです」
「赤城」と「加賀」は、「瑞鳳」に比べて搭載機数が非常に多い。
「瑞鳳」に人材を提供しても、なお八割前後の搭乗員が余るはずだ。
「貴官の言葉にあった二航戦の補充要員となる者がかなりの数にのぼったはずだ。あと、残りのほとんどは来月以降に続々と竣工する改造空母の基幹要員になる予定だが、それ以外だと練習航空隊の教官か教員として配属されると記憶している」
五月以降、帝国海軍ではちょっとした空母の竣工ラッシュが始まる。
大型客船の「橿原丸」と「出雲丸」をベースにそれを改造した空母はそれぞれ「隼鷹」それに「飛鷹」と名を変えて帝国海軍の戦列に加わる。
これら二隻は改造空母の中でも特に大きく、その搭載機数は常用機だけで四八機というから、これはなかなかの戦力だと言えた。
さらに潜水母艦「大鯨」を改造した空母もその工事は大詰めを迎えており、こちらは「龍鳳」と命名されるはずだった。
「それじゃあ、『赤城』と『加賀』は格納庫がスッカラカンになるわけですか。ただ、皮肉なものですね。『赤城』と『加賀』が使えなくなったおかげで他の空母が格納庫を満たすことが出来るのですから」
しみじみと話す志津頼航空甲参謀だが、しかしこれは洒落になっていない。
それだけ、帝国海軍の搭乗員の層が薄いということだからだ。
もちろん、志津頼航空甲参謀もそのことは承知のうえで皮肉を言っただけだ。
「そういうことになるな。帝国海軍も空母の整備にはそれなりに注力しているようだが、しかしそれに搭載する艦上機とその搭乗員の準備が追いついておらん。さらに肝心の爆弾や魚雷、それに銃弾といったものの備蓄も極めて心許ない」
四隻の「翔鶴」型空母はもともと艦攻の定数が四五機だったことで、航空魚雷は七二本まで搭載することができた。
しかし、それが三六機に減ったことで、マーシャル沖海戦のときには各空母ともに六〇本以下にまで減らされていた。
また、八〇番や五〇番といった大型爆弾についても同様だった。
この措置に対し、しかし当時の生沢長官は一切の抗議をしなかった。
不思議に思った志津頼航空甲参謀が彼に尋ねたところ、返ってきた答えは予想外のものだった。
「航空魚雷も、それに大型爆弾も在庫が払底しているんだ。まあ、上がアホだからこういう有り様になってしまうんだがな。それでも母艦航空隊は恵まれているほうだ。基地航空隊の中には魚雷の充足率が五割を切っているところがゴロゴロある。もし我々が必要以上に魚雷をガメるようなことがあれば、その分だけ基地航空隊にしわ寄せがいってしまう」
生沢長官の言葉に、最初は半信半疑だった志津頼航空甲参謀だったが、しかしマレー沖海戦の戦闘詳報に目を通したときにそれが事実だということを悪い意味で思い知らされた。
同海戦でサイゴンに展開する基地航空隊は洋上を動き回る戦艦と巡洋戦艦をまとめて撃沈するという、世界の海軍史上初となる快挙を成し遂げた。
しかし、それら機体は戦艦の攻撃に威力を発揮する航空魚雷を装備したものばかりではなかった。
五〇番を装備できた部隊はマシなほうで、中には戦艦相手には効果が薄いとされる二五番を抱えて攻撃に参加せざるを得ない部隊もあった。
もし、逆に生沢長官が配下の母艦航空隊を優先して航空魚雷や大型爆弾をガメていれば、あるいはサイゴンの基地航空隊に配備されたそれらはもっと少なかったかもしれない。
そうであれば、あるいはマレー沖海戦の展開は大きく様変わりしていた可能性もある。
「艦戦は銃弾を、艦爆や艦攻は爆弾や魚雷を相手にぶつけるための運搬手段にしか過ぎないという当たり前のことを、お偉いさんたちが理解していればこんなことにはならなかったんでしょうに」
弾薬不足を憂慮する生沢長官の言葉を受け、志津頼航空甲参謀がしみじみといった風情で上層部批判を交えながらボヤく。
「まあ、そうだな。だが、ボヤいていても何も始まらん。それよりも肝心な話はここからだ」
そう言って生沢長官は話を本筋に戻す。
MO作戦が開始されるまでに残された時間はあとわずかだった。
第二航空艦隊の陣容は、「雲鶴」と「神鶴」が抜け、代わりに「瑞鳳」が臨時に加わったこと以外は特に変更は無かった。
そのことを生沢長官から聞いた志津頼航空甲参謀の表情には、わずかばかり安堵の色が浮かんでいた。
転入組が「瑞鳳」一隻だけであれば、回転整合をはじめとした事前調整は、これを最小限で済ますことができる。
「『瑞鳳』ついでに言えば、同艦は戦闘機二個中隊とそれに攻撃一個中隊を搭載して作戦に臨む。それら機材と搭乗員はそのすべてが一航戦の搭乗員で固められている」
少し笑みを浮かべて生沢長官が話す。
思いもかけない言葉に、志津頼航空甲参謀は両手を挙げて喜ぶ。
ベテラン揃いの一航戦であれば、戦力としてこれを十分に計算できる。
「さすがは長官! 人材の引っこ抜きはお手のものですね」
失礼な褒め言葉を吐き出しつつ、志津頼航空甲参謀はこの件では生沢長官がなにかにつけて暗躍したと思っている。
たぶん、MO作戦を引き受ける条件の一つに一航艦の機体と搭乗員を所望したのではないか。
そして、それは認められた。
おそらくこれは、生沢長官の政治的手腕によるものだろう。
自身の想像を根拠に、志津頼航空甲参謀はそのことを尋ねる。
「そんな大げさなものではない。『赤城』と『加賀』は半年近く修理にかかるだろう? ごく短期間であればともかく、長期ともなればさすがに搭乗員を遊ばせておくわけにはいかん。そこで、MO作戦の成功率を上げるためにも一航艦の搭乗員を同作戦に参加する『瑞鳳』とそれに『祥鳳』に回してくれと頼んだのだ。ただし、受け入れてもらったのは『瑞鳳』だけで、残念ながら『祥鳳』のほうはだめだった。このことで現在の『祥鳳』は零戦だけでは戦闘機隊の定数を埋められず、少なくない九六艦戦がこれに含まれている」
種明かしをした生沢長官は、別に何ということは無いといった態度だ。
「一航戦の搭乗員は二航戦とは違い、戦死した二人の戦闘機搭乗員以外は全員が無事にインド洋から本土に戻っています。で、『瑞鳳』に転属する者がいたとしても、それでも相当な数の搭乗員が余ります。そういった連中はどうなるんです」
「赤城」と「加賀」は、「瑞鳳」に比べて搭載機数が非常に多い。
「瑞鳳」に人材を提供しても、なお八割前後の搭乗員が余るはずだ。
「貴官の言葉にあった二航戦の補充要員となる者がかなりの数にのぼったはずだ。あと、残りのほとんどは来月以降に続々と竣工する改造空母の基幹要員になる予定だが、それ以外だと練習航空隊の教官か教員として配属されると記憶している」
五月以降、帝国海軍ではちょっとした空母の竣工ラッシュが始まる。
大型客船の「橿原丸」と「出雲丸」をベースにそれを改造した空母はそれぞれ「隼鷹」それに「飛鷹」と名を変えて帝国海軍の戦列に加わる。
これら二隻は改造空母の中でも特に大きく、その搭載機数は常用機だけで四八機というから、これはなかなかの戦力だと言えた。
さらに潜水母艦「大鯨」を改造した空母もその工事は大詰めを迎えており、こちらは「龍鳳」と命名されるはずだった。
「それじゃあ、『赤城』と『加賀』は格納庫がスッカラカンになるわけですか。ただ、皮肉なものですね。『赤城』と『加賀』が使えなくなったおかげで他の空母が格納庫を満たすことが出来るのですから」
しみじみと話す志津頼航空甲参謀だが、しかしこれは洒落になっていない。
それだけ、帝国海軍の搭乗員の層が薄いということだからだ。
もちろん、志津頼航空甲参謀もそのことは承知のうえで皮肉を言っただけだ。
「そういうことになるな。帝国海軍も空母の整備にはそれなりに注力しているようだが、しかしそれに搭載する艦上機とその搭乗員の準備が追いついておらん。さらに肝心の爆弾や魚雷、それに銃弾といったものの備蓄も極めて心許ない」
四隻の「翔鶴」型空母はもともと艦攻の定数が四五機だったことで、航空魚雷は七二本まで搭載することができた。
しかし、それが三六機に減ったことで、マーシャル沖海戦のときには各空母ともに六〇本以下にまで減らされていた。
また、八〇番や五〇番といった大型爆弾についても同様だった。
この措置に対し、しかし当時の生沢長官は一切の抗議をしなかった。
不思議に思った志津頼航空甲参謀が彼に尋ねたところ、返ってきた答えは予想外のものだった。
「航空魚雷も、それに大型爆弾も在庫が払底しているんだ。まあ、上がアホだからこういう有り様になってしまうんだがな。それでも母艦航空隊は恵まれているほうだ。基地航空隊の中には魚雷の充足率が五割を切っているところがゴロゴロある。もし我々が必要以上に魚雷をガメるようなことがあれば、その分だけ基地航空隊にしわ寄せがいってしまう」
生沢長官の言葉に、最初は半信半疑だった志津頼航空甲参謀だったが、しかしマレー沖海戦の戦闘詳報に目を通したときにそれが事実だということを悪い意味で思い知らされた。
同海戦でサイゴンに展開する基地航空隊は洋上を動き回る戦艦と巡洋戦艦をまとめて撃沈するという、世界の海軍史上初となる快挙を成し遂げた。
しかし、それら機体は戦艦の攻撃に威力を発揮する航空魚雷を装備したものばかりではなかった。
五〇番を装備できた部隊はマシなほうで、中には戦艦相手には効果が薄いとされる二五番を抱えて攻撃に参加せざるを得ない部隊もあった。
もし、逆に生沢長官が配下の母艦航空隊を優先して航空魚雷や大型爆弾をガメていれば、あるいはサイゴンの基地航空隊に配備されたそれらはもっと少なかったかもしれない。
そうであれば、あるいはマレー沖海戦の展開は大きく様変わりしていた可能性もある。
「艦戦は銃弾を、艦爆や艦攻は爆弾や魚雷を相手にぶつけるための運搬手段にしか過ぎないという当たり前のことを、お偉いさんたちが理解していればこんなことにはならなかったんでしょうに」
弾薬不足を憂慮する生沢長官の言葉を受け、志津頼航空甲参謀がしみじみといった風情で上層部批判を交えながらボヤく。
「まあ、そうだな。だが、ボヤいていても何も始まらん。それよりも肝心な話はここからだ」
そう言って生沢長官は話を本筋に戻す。
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