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MO作戦
第47話 フレッチャー提督
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「空母三隻を含む機動部隊が南下中。そのうち二隻は大型か。事前情報通りだな。それになにより、発見位置がドンピシャだ」
夜が明けるよりもかなり早い時間に発進した空母「ヨークタウン」所属の索敵機。
そして、その彼らからもたらされた決定的ともいえる第一報。
その内容に、第一七任務部隊指揮官のフレッチャー少将は安堵の笑みを見せる。
そのフレッチャー提督は第一七任務部隊と第一八任務部隊、それに第一九任務部隊を率いている。
第一七任務部隊は「ヨークタウン」、第一八任務部隊は「ホーネット」、そして第一九任務部隊は「ワスプ」を基幹とする空母機動部隊だった。
本来、それら三個機動部隊を率いるのであれば、その総指揮官が少将というのは少しばかり貫目不足のきらいがあった。
しかし、開戦劈頭に生起したマーシャル沖海戦でパイ提督やハルゼー提督をはじめとした中将や、それに古参の少将がまとめて戦死あるいは捕虜になったものだから、フレッチャー提督が指揮を執ることになるのも、ある意味で仕方が無いことだと言えた。
そのフレッチャー提督は、日本艦隊と戦うにあたって太平洋艦隊司令長官のニミッツ大将からあまりありがたくない命令を受けていた。
「もはや、合衆国海軍には正規空母が四隻しか残っていない。しかも、そのうちで太平洋にあるのはわずかに三隻のみだ。だから、貴官には可能な限り空母を無傷で持ち帰ってもらいたい」
これまで、機動部隊同士の戦いは二度記録されている。
マーシャル沖海戦とそれにインド洋海戦だ。
このうち、マーシャル沖海戦では米空母が三隻撃沈され、日本のほうは一隻が撃破された。
インド洋海戦では英空母が三隻撃沈され、日本のほうは二隻が撃破されている。
被害の程度に差はあれども、しかしこれまでの戦いで彼我ともに無傷であった試しは一度として無い。
要するに機動部隊同士の戦いというのは、基本は刺し違えなのだ。
もし、味方の空母の安全を図るのであれば、相手がこちらの存在に気づかないうちに艦上機隊を出撃させ、そして一方的に殴り続ける以外に他に手はない。
実際、インド洋海戦では戦闘の初期段階で英機動部隊がこの理想の戦いを成し遂げた。
夜間雷撃によって一方的に相手を攻撃することに成功した英機動部隊は当時の第一航空艦隊の主戦力であった「赤城」と「加賀」を撃破、同艦隊をあと一歩のところまで追いつめた。
ただ、残念だったのは「蒼龍」それに「飛龍」の二隻の空母を討ち漏らしたことだ。
そのことによって東洋艦隊は手痛い反撃に遭い、逆にすべての空母を撃沈されるという憂き目に遭っている。
(あの時は見通しの悪い夜間だったこと、それに攻撃隊の規模がわずかに四〇機にしか過ぎなかったことで二隻しか撃破できなかった。しかし今回は違う)
太陽はすでにその顔を出し、戦場の見通しは良好だ。
なにより、自分たちがこれから出撃させる攻撃隊は、インド洋海戦で東洋艦隊が夜間攻撃に繰り出した数の四倍近くに達する。
わずかに三隻しかない日本の機動部隊が、自分たちの乾坤一擲の攻撃隊を凌ぎきれる道理は無い。
「予定通りだ。すべての攻撃隊を発進させる。目標は空母だ。それ以外は目をくれるな」
フレッチャー提督の命令一下、「ヨークタウン」と「ホーネット」それに「ワスプ」の三隻が風上へとその艦首を向ける。
そして、合成風力が既定値に達すると同時に先頭にあったF4Fワイルドキャット戦闘機が滑走を開始する。
「ヨークタウン」からF4Fが九機にSBDドーントレス急降下爆撃機が二七機、それにTBDデバステーター雷撃機が一二機。
「ホーネット」からF4Fが九機にSBDが三六機、それにTBDが一二機。
「ワスプ」からF4Fが九機にSBDが三六機、それにTBDが六機。
「ヨークタウン」のSBDが少ないのは、同艦が本日の索敵担当艦だったからだ。
これまでの猛訓練の成果か、発艦ミスをするような機体はただの一機も無く、そのすべての機体が機首を北へと向けて高度を上げていく。
最後の一機を見送ったフレッチャー提督は、少しばかり肩の荷を降ろしたであろう航空参謀に向き直る。
「日本艦隊は攻撃隊を発進させる余裕があると思うか」
フレッチャー提督の問いに、航空参謀は少し考える素振りを見せる。
脳内で時間の計算をしているのだろう。
「おそらく無理ですね。彼らが夜明けと同時に索敵機を発進させたとして、我々を発見するのはどんなに早くても一時間後です。そして、それを知った彼らが攻撃隊を発進させるというまさにその時に、我々が放った攻撃隊が日本艦隊に殺到することになります」
発見された日本艦隊と自分たちの距離は約一五〇浬だ。
これは、暗号解読で得た事前情報を元にポジション取りした結果でもある。
そして、これだけ間合いが近ければ、巡航速度を大きく超える速さで進撃を続けても、TBD以外は余裕で往復できる。
もちろん、そのことでTBDが少しばかり戦場への到着が遅れることになる。
しかし、その頃にはSBDが日本の空母に手傷を負わせているはずなので、たいした問題ではないと思われた。
むしろ、TBDが戦場に姿を現した頃には日本艦隊の反撃力もガタ落ちしているはずだから、魚雷でとどめを刺すにはむしろ好都合だった。
「戦闘機それに急降下爆撃機が高い巡航速度を維持して日本艦隊に取り付く。これこそが今作戦の肝だな」
敵発見から攻撃までの時間が短ければ短いほど、相手に与えるリアクションタイムは少なくて済む。
そのために、SBDとF4Fは定められた巡航速度を無視して日本艦隊に向けて急行している。
そして、そのことによって日本の空母は攻撃隊を発進させる前にSBDの猛攻にさらされことになる。
(しかし、今回の作戦におけるMVPは間違いなく情報部門の連中だな)
フレッチャー提督は情報主任参謀のエドウィン・レイトン中佐や、あるいはハイポ班長であるジョセフ・ロシュフォート少佐に胸中で感謝を捧げる。
彼らが日本艦隊の行動を的確に予測してくれたおかげで、自分たちは理想的な攻撃開始位置で待ち伏せすることができた。
ただ、勝利を確信しつつも、しかしフレッチャー提督に油断は無い。
「迎撃機はいつでも発進できるようにしておけ。ここはラバウルに巣食う基地航空隊の攻撃範囲に収まってしまっているからな」
日本の双発爆撃機の脚は長い。
そして、連中は英国が誇る最新鋭戦艦「プリンス・オブ・ウェールズ」を撃沈したという実績を持っている。
もちろん、その対抗策として三隻の味方の空母にはそれぞれ一八機のF4Fが艦隊防空のために残されている。
フレッチャー提督は指示を重ねていく。
それに従う幕僚らの表情は明るい。
誰もが味方の勝利を確信しているのだ。
(マーシャル沖海戦での借りはここで返させてもらうぞ、イクサワ!)
フレッチャー提督は開戦劈頭に当時の太平洋艦隊を散々に打ちのめした日本の提督に思いを馳せる。
三国同盟に反対し、米国との戦争にも最後まで反対したという彼の人物評は好ましいと思う。
しかし、一方で大勢の友軍将兵を地獄へと叩き落としたのもまた事実だ。
(個人的な恨みは無いが、しかしこれも戦争だ。悪く思うな)
そう考えるフレッチャー提督は「ヨークタウン」艦橋から北の空を見据える。
その彼の脳裏には、日本の空母に急降下爆撃を仕掛けるSBDのビジョンがはっきりと映し出されていた。
夜が明けるよりもかなり早い時間に発進した空母「ヨークタウン」所属の索敵機。
そして、その彼らからもたらされた決定的ともいえる第一報。
その内容に、第一七任務部隊指揮官のフレッチャー少将は安堵の笑みを見せる。
そのフレッチャー提督は第一七任務部隊と第一八任務部隊、それに第一九任務部隊を率いている。
第一七任務部隊は「ヨークタウン」、第一八任務部隊は「ホーネット」、そして第一九任務部隊は「ワスプ」を基幹とする空母機動部隊だった。
本来、それら三個機動部隊を率いるのであれば、その総指揮官が少将というのは少しばかり貫目不足のきらいがあった。
しかし、開戦劈頭に生起したマーシャル沖海戦でパイ提督やハルゼー提督をはじめとした中将や、それに古参の少将がまとめて戦死あるいは捕虜になったものだから、フレッチャー提督が指揮を執ることになるのも、ある意味で仕方が無いことだと言えた。
そのフレッチャー提督は、日本艦隊と戦うにあたって太平洋艦隊司令長官のニミッツ大将からあまりありがたくない命令を受けていた。
「もはや、合衆国海軍には正規空母が四隻しか残っていない。しかも、そのうちで太平洋にあるのはわずかに三隻のみだ。だから、貴官には可能な限り空母を無傷で持ち帰ってもらいたい」
これまで、機動部隊同士の戦いは二度記録されている。
マーシャル沖海戦とそれにインド洋海戦だ。
このうち、マーシャル沖海戦では米空母が三隻撃沈され、日本のほうは一隻が撃破された。
インド洋海戦では英空母が三隻撃沈され、日本のほうは二隻が撃破されている。
被害の程度に差はあれども、しかしこれまでの戦いで彼我ともに無傷であった試しは一度として無い。
要するに機動部隊同士の戦いというのは、基本は刺し違えなのだ。
もし、味方の空母の安全を図るのであれば、相手がこちらの存在に気づかないうちに艦上機隊を出撃させ、そして一方的に殴り続ける以外に他に手はない。
実際、インド洋海戦では戦闘の初期段階で英機動部隊がこの理想の戦いを成し遂げた。
夜間雷撃によって一方的に相手を攻撃することに成功した英機動部隊は当時の第一航空艦隊の主戦力であった「赤城」と「加賀」を撃破、同艦隊をあと一歩のところまで追いつめた。
ただ、残念だったのは「蒼龍」それに「飛龍」の二隻の空母を討ち漏らしたことだ。
そのことによって東洋艦隊は手痛い反撃に遭い、逆にすべての空母を撃沈されるという憂き目に遭っている。
(あの時は見通しの悪い夜間だったこと、それに攻撃隊の規模がわずかに四〇機にしか過ぎなかったことで二隻しか撃破できなかった。しかし今回は違う)
太陽はすでにその顔を出し、戦場の見通しは良好だ。
なにより、自分たちがこれから出撃させる攻撃隊は、インド洋海戦で東洋艦隊が夜間攻撃に繰り出した数の四倍近くに達する。
わずかに三隻しかない日本の機動部隊が、自分たちの乾坤一擲の攻撃隊を凌ぎきれる道理は無い。
「予定通りだ。すべての攻撃隊を発進させる。目標は空母だ。それ以外は目をくれるな」
フレッチャー提督の命令一下、「ヨークタウン」と「ホーネット」それに「ワスプ」の三隻が風上へとその艦首を向ける。
そして、合成風力が既定値に達すると同時に先頭にあったF4Fワイルドキャット戦闘機が滑走を開始する。
「ヨークタウン」からF4Fが九機にSBDドーントレス急降下爆撃機が二七機、それにTBDデバステーター雷撃機が一二機。
「ホーネット」からF4Fが九機にSBDが三六機、それにTBDが一二機。
「ワスプ」からF4Fが九機にSBDが三六機、それにTBDが六機。
「ヨークタウン」のSBDが少ないのは、同艦が本日の索敵担当艦だったからだ。
これまでの猛訓練の成果か、発艦ミスをするような機体はただの一機も無く、そのすべての機体が機首を北へと向けて高度を上げていく。
最後の一機を見送ったフレッチャー提督は、少しばかり肩の荷を降ろしたであろう航空参謀に向き直る。
「日本艦隊は攻撃隊を発進させる余裕があると思うか」
フレッチャー提督の問いに、航空参謀は少し考える素振りを見せる。
脳内で時間の計算をしているのだろう。
「おそらく無理ですね。彼らが夜明けと同時に索敵機を発進させたとして、我々を発見するのはどんなに早くても一時間後です。そして、それを知った彼らが攻撃隊を発進させるというまさにその時に、我々が放った攻撃隊が日本艦隊に殺到することになります」
発見された日本艦隊と自分たちの距離は約一五〇浬だ。
これは、暗号解読で得た事前情報を元にポジション取りした結果でもある。
そして、これだけ間合いが近ければ、巡航速度を大きく超える速さで進撃を続けても、TBD以外は余裕で往復できる。
もちろん、そのことでTBDが少しばかり戦場への到着が遅れることになる。
しかし、その頃にはSBDが日本の空母に手傷を負わせているはずなので、たいした問題ではないと思われた。
むしろ、TBDが戦場に姿を現した頃には日本艦隊の反撃力もガタ落ちしているはずだから、魚雷でとどめを刺すにはむしろ好都合だった。
「戦闘機それに急降下爆撃機が高い巡航速度を維持して日本艦隊に取り付く。これこそが今作戦の肝だな」
敵発見から攻撃までの時間が短ければ短いほど、相手に与えるリアクションタイムは少なくて済む。
そのために、SBDとF4Fは定められた巡航速度を無視して日本艦隊に向けて急行している。
そして、そのことによって日本の空母は攻撃隊を発進させる前にSBDの猛攻にさらされことになる。
(しかし、今回の作戦におけるMVPは間違いなく情報部門の連中だな)
フレッチャー提督は情報主任参謀のエドウィン・レイトン中佐や、あるいはハイポ班長であるジョセフ・ロシュフォート少佐に胸中で感謝を捧げる。
彼らが日本艦隊の行動を的確に予測してくれたおかげで、自分たちは理想的な攻撃開始位置で待ち伏せすることができた。
ただ、勝利を確信しつつも、しかしフレッチャー提督に油断は無い。
「迎撃機はいつでも発進できるようにしておけ。ここはラバウルに巣食う基地航空隊の攻撃範囲に収まってしまっているからな」
日本の双発爆撃機の脚は長い。
そして、連中は英国が誇る最新鋭戦艦「プリンス・オブ・ウェールズ」を撃沈したという実績を持っている。
もちろん、その対抗策として三隻の味方の空母にはそれぞれ一八機のF4Fが艦隊防空のために残されている。
フレッチャー提督は指示を重ねていく。
それに従う幕僚らの表情は明るい。
誰もが味方の勝利を確信しているのだ。
(マーシャル沖海戦での借りはここで返させてもらうぞ、イクサワ!)
フレッチャー提督は開戦劈頭に当時の太平洋艦隊を散々に打ちのめした日本の提督に思いを馳せる。
三国同盟に反対し、米国との戦争にも最後まで反対したという彼の人物評は好ましいと思う。
しかし、一方で大勢の友軍将兵を地獄へと叩き落としたのもまた事実だ。
(個人的な恨みは無いが、しかしこれも戦争だ。悪く思うな)
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