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MO作戦
第54話 理想の雷撃
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第三次攻撃隊は九七艦攻をその主力とし、「翔鶴」と「瑞鶴」からそれぞれ三個中隊の合わせて五一機となっている。
本来であれば六個中隊だと五四機になるのだが、しかし九七艦攻については索敵任務にあたっていた一機が未帰還となり、さらに二機が発動機不調によって出撃を見合わせたことで定数割れを起こしていた。
また、「瑞鳳」にも九七艦攻が搭載されていたが、しかしこちらは前路哨戒や接触維持などに使用され、そのことで攻撃隊には加わっていない。
その九七艦攻は従来のそれとは大きく異なっていた。
発動機が一〇〇〇馬力の栄から一五〇〇馬力の火星に換装されていた。
大重量の発動機を搭載することに伴い、機体強度を大幅に強化した。
また、防弾装備も充実させている。
そのことで重量が激増したものの、しかしそこは大排気量発動機がもたらす余裕によって十分に補いをつけることができている。
ただ、あくまでも九七艦攻をベースとしていることから、やはり抗堪性には限界があった。
そして、それら九七艦攻の用心棒として「翔鶴」第六中隊とそれに同じく「瑞鶴」第六中隊の合わせて二個戦闘機中隊が第三次攻撃隊に参加している。
ただし、それら二個中隊もまた午前中の迎撃戦で二機が未帰還となり、さらに戦闘に耐えられないほどの深手を負った三機が戦力外とされたことから、第三次攻撃隊に参加しているのは一三機にとどまっている。
その第三次攻撃隊の前に立ちはだかるF4Fは一機も無かった。
おそらく、第一次攻撃隊とそれに第二次攻撃隊の零戦が始末をつけてくれたのだろう。
この状況に、零戦の搭乗員たちは肩透かしにも似た感情を覚える。
一方、九七艦攻の搭乗員のほうはこの状況をむしろ歓迎していた。
天敵ともいえるF4Fを気にせずに、敵艦攻撃に専念できるのはなによりもありがたい。
第三次攻撃隊指揮官兼「瑞鶴」飛行隊長の嶋崎少佐は進撃の途上で這うように進む六隻の中型艦と、それにその周囲を守るようにして付き添う三隻の小型艦をその視野に収めていた。
第二次攻撃に参加した艦爆隊は六隻の巡洋艦の撃破を報告している。
そのことから、嶋崎少佐は中型艦については二五番を被弾した巡洋艦で、小型艦のほうはそれらを護衛する駆逐艦だと判断していた。
三隻の駆逐艦はともかくとして、六隻の巡洋艦のほうは脚を奪われたことで機動部隊から切り離されたのだろう。
速度性能に難のある艦を抱えていては、まともな戦闘機動など出来たものではない。
つまりは、米海軍もまた状況次第では帝国海軍と同様に、足手まといとなった者は容赦無く切り捨てるという冷酷な一面を持ち合わせているということだ。
そのようなことを考えつつ、南下することしばし。
嶋崎少佐はようやくのことで三群から成る米機動部隊を発見する。
六隻の巡洋艦とそれに三隻の駆逐艦を切り離したことで、すでに輪形陣は崩壊していた。
現在は、それぞれ三隻の駆逐艦が空母を守る、三角陣とも言うべき形になっている。
「各位に達す。攻撃は空母のみをその目標とする。『翔鶴』二中隊と三中隊は右、『瑞鶴』二中隊それに三中隊は左にある空母を叩け。中央のそれは『瑞鶴』一中隊ならびに『翔鶴』一中隊がこれを受け持つ。攻撃法については各隊最先任者にこれを委ねる」
左右の空母の攻撃については「翔鶴」第二中隊長と「瑞鶴」第二中隊長に丸投げし、嶋崎少佐は直率する「瑞鶴」第一中隊それに同じく「翔鶴」第一中隊に命令を重ねる。
「『翔鶴』一中隊は右舷から、『瑞鶴』一中隊は左舷からこれを攻撃せよ」
嶋崎少佐の命令一下、「翔鶴」一中隊の八機の九七艦攻が右へ、「瑞鶴」一中隊の九機が左へと散開しながら中央の機動部隊に接近を図る。
「翔鶴」一中隊が八機なのは、発動機不調で一機が出撃を取りやめたことによるものだ。
一方、空母を守るべく周囲の駆逐艦が両用砲を持ち上げ射撃を開始する。
しかし、数が三隻と少ないことから十分な対空火網を形成することができない。
そのことで九七艦攻のほうは米駆逐艦の阻止線を悠々と突破、空母へと肉薄する。
(おそらくは「ヨークタウン」級だな)
嶋崎少佐は胸中で自分たちが対峙している空母の艦型を推し量る。
発見された三隻の米空母はそのいずれもが煙突が一体となった艦橋を有しているとのことだった。
そうであれば、敵空母は「ヨークタウン」と「ホーネット」、それに「ワスプ」のいずれかとなる。
このうち、「ワスプ」はそのエンジン出力の限界から最高速力は三〇ノットに届かないと聞いている。
眼前の空母が立てている艦首波は、三〇ノットを大きく超える速力でなければ発生しえない盛大なものだから、そうであれば「ヨークタウン」か「ホーネット」のいずれかだ。
その眼前の空母が取舵を切ったのだろう。
直進から一転、左へと艦首を振りにかかる。
「瑞鶴」一中隊の雷撃に対応する形だ。
逆に、「翔鶴」一中隊から見れば、敵空母が自ら横腹を晒すように映っているはずだ
(こちらのほうが数が多いからか、あるいは「翔鶴」一中隊よりもこちらが先に敵に近づいてしまったからか)
ついつい敵艦の行動、その根拠を考えてしまう。
しかし、今はそのようなことはどうでもいいと頭から振り払い、嶋崎少佐はわずかに機首を右に振り、すぐに左に戻す。
眼前の空母が放つ対空砲火には凄まじいものがあった。
高角砲弾炸裂の断片なのか、あるいは機銃弾によるものなのかは分からない。
いずれにせよ、機体を叩く音や衝撃がそれこそひっきりなしだ。
あるいは、栄から火星に発動機を換装し、機体の強化と併せて防弾装備を充実させた最新型の九七艦攻でなければすでに撃墜されていたかもしれない。
その最新型の防弾性能であれば、たとえ被弾機が続出しようとも、しかしこのまま全機が無事に投雷ポジションに遷移できるのではないか。
嶋崎少佐が淡い期待を抱いた瞬間、後方で爆発が生じる。
「二小隊一番機被弾!」
電信員の遠藤二飛曹からの怒声のような報告に、しかし返事をすることもなく嶋崎少佐はただ眼前の空母だけを見据えている。
その数瞬後、空母を必殺の間合いに取り込んだことを確信する。
「撃てっ!」
先ほど戦死した三人の部下たちの仇討ちだとばかりに、嶋崎少佐は気迫を込めつつ魚雷を投下する。
七機に減った部下たちの機体もそれに続く。
魚雷を放てば、あとは生存のための逃避行あるのみだ。
超低高度を維持しつつ空母の鼻先を抜け、そのまま米駆逐艦のいない方角へと機首を向けて敵の射程圏からの離脱を図る。
曳光弾の追撃が無くなったことで、操縦桿を引きにかかる嶋崎少佐の耳に、偵察員を務める松永特務少尉の喜色混じりの声が飛び込んでくる。
「敵空母の左舷に水柱! さらに右舷にも水柱! さらに一本、二本!」
どうやら、「瑞鶴」一中隊は一本、「翔鶴」一中隊のほうは三本の命中を得たようだった。
数の多い「瑞鶴」一中隊の命中が少ないのは、敵の空母が同中隊の攻撃を先に回避しようとした結果だろう。
(四本だと微妙だな)
これが排水量が小さく、そのうえ防御力に難の有る「ワスプ」であれば撃沈は間違いないところだ。
しかし、相手が「ヨークタウン」級空母だと、たとえ命中魚雷が四本であったとしても、当たりどころによっては致命の一撃になっていない可能性があった。
戦果を遠藤二飛曹に打電させつつ、嶋崎少佐は部下たちに集合するよう命じる。
ほどなく、嶋崎少佐の周囲に九七艦攻が集まってきた。
しかし、その数は六機のみだった。
魚雷を投下した時点では一機しか失われていなかったから、おそらくは投雷後の避退途中にやられてしまったのだろう。
(零戦に敵戦闘機を排除してもらい、さらに厄介者の護衛艦艇については九九艦爆がその多くを始末してくれた。そのうえ、この戦いからは防弾性能に優れた新型を投入している。しかし、それでもこれだけの被害が出るものなのか)
理想的な状況で雷撃を実施したのにもかかわらず、「瑞鶴」一中隊は二割を超える損害を出してしまった。
もし、新型の九七艦攻がこの戦いに間に合っていなければ、さらに被害は大きなものとなっていたことだろう。
そのことで、敵空母への雷撃を成功させた直後なのにもかかわらず、しかし嶋崎少佐は肉薄雷撃という戦術に限界のようなものを感じていた。
だが、すぐにその思いを振り払い、前を見据える。
まずは激戦を生き延びた部下たちを母艦に送り届ける。
指揮官として、今はそのことに全神経を集中させるべきだった。
本来であれば六個中隊だと五四機になるのだが、しかし九七艦攻については索敵任務にあたっていた一機が未帰還となり、さらに二機が発動機不調によって出撃を見合わせたことで定数割れを起こしていた。
また、「瑞鳳」にも九七艦攻が搭載されていたが、しかしこちらは前路哨戒や接触維持などに使用され、そのことで攻撃隊には加わっていない。
その九七艦攻は従来のそれとは大きく異なっていた。
発動機が一〇〇〇馬力の栄から一五〇〇馬力の火星に換装されていた。
大重量の発動機を搭載することに伴い、機体強度を大幅に強化した。
また、防弾装備も充実させている。
そのことで重量が激増したものの、しかしそこは大排気量発動機がもたらす余裕によって十分に補いをつけることができている。
ただ、あくまでも九七艦攻をベースとしていることから、やはり抗堪性には限界があった。
そして、それら九七艦攻の用心棒として「翔鶴」第六中隊とそれに同じく「瑞鶴」第六中隊の合わせて二個戦闘機中隊が第三次攻撃隊に参加している。
ただし、それら二個中隊もまた午前中の迎撃戦で二機が未帰還となり、さらに戦闘に耐えられないほどの深手を負った三機が戦力外とされたことから、第三次攻撃隊に参加しているのは一三機にとどまっている。
その第三次攻撃隊の前に立ちはだかるF4Fは一機も無かった。
おそらく、第一次攻撃隊とそれに第二次攻撃隊の零戦が始末をつけてくれたのだろう。
この状況に、零戦の搭乗員たちは肩透かしにも似た感情を覚える。
一方、九七艦攻の搭乗員のほうはこの状況をむしろ歓迎していた。
天敵ともいえるF4Fを気にせずに、敵艦攻撃に専念できるのはなによりもありがたい。
第三次攻撃隊指揮官兼「瑞鶴」飛行隊長の嶋崎少佐は進撃の途上で這うように進む六隻の中型艦と、それにその周囲を守るようにして付き添う三隻の小型艦をその視野に収めていた。
第二次攻撃に参加した艦爆隊は六隻の巡洋艦の撃破を報告している。
そのことから、嶋崎少佐は中型艦については二五番を被弾した巡洋艦で、小型艦のほうはそれらを護衛する駆逐艦だと判断していた。
三隻の駆逐艦はともかくとして、六隻の巡洋艦のほうは脚を奪われたことで機動部隊から切り離されたのだろう。
速度性能に難のある艦を抱えていては、まともな戦闘機動など出来たものではない。
つまりは、米海軍もまた状況次第では帝国海軍と同様に、足手まといとなった者は容赦無く切り捨てるという冷酷な一面を持ち合わせているということだ。
そのようなことを考えつつ、南下することしばし。
嶋崎少佐はようやくのことで三群から成る米機動部隊を発見する。
六隻の巡洋艦とそれに三隻の駆逐艦を切り離したことで、すでに輪形陣は崩壊していた。
現在は、それぞれ三隻の駆逐艦が空母を守る、三角陣とも言うべき形になっている。
「各位に達す。攻撃は空母のみをその目標とする。『翔鶴』二中隊と三中隊は右、『瑞鶴』二中隊それに三中隊は左にある空母を叩け。中央のそれは『瑞鶴』一中隊ならびに『翔鶴』一中隊がこれを受け持つ。攻撃法については各隊最先任者にこれを委ねる」
左右の空母の攻撃については「翔鶴」第二中隊長と「瑞鶴」第二中隊長に丸投げし、嶋崎少佐は直率する「瑞鶴」第一中隊それに同じく「翔鶴」第一中隊に命令を重ねる。
「『翔鶴』一中隊は右舷から、『瑞鶴』一中隊は左舷からこれを攻撃せよ」
嶋崎少佐の命令一下、「翔鶴」一中隊の八機の九七艦攻が右へ、「瑞鶴」一中隊の九機が左へと散開しながら中央の機動部隊に接近を図る。
「翔鶴」一中隊が八機なのは、発動機不調で一機が出撃を取りやめたことによるものだ。
一方、空母を守るべく周囲の駆逐艦が両用砲を持ち上げ射撃を開始する。
しかし、数が三隻と少ないことから十分な対空火網を形成することができない。
そのことで九七艦攻のほうは米駆逐艦の阻止線を悠々と突破、空母へと肉薄する。
(おそらくは「ヨークタウン」級だな)
嶋崎少佐は胸中で自分たちが対峙している空母の艦型を推し量る。
発見された三隻の米空母はそのいずれもが煙突が一体となった艦橋を有しているとのことだった。
そうであれば、敵空母は「ヨークタウン」と「ホーネット」、それに「ワスプ」のいずれかとなる。
このうち、「ワスプ」はそのエンジン出力の限界から最高速力は三〇ノットに届かないと聞いている。
眼前の空母が立てている艦首波は、三〇ノットを大きく超える速力でなければ発生しえない盛大なものだから、そうであれば「ヨークタウン」か「ホーネット」のいずれかだ。
その眼前の空母が取舵を切ったのだろう。
直進から一転、左へと艦首を振りにかかる。
「瑞鶴」一中隊の雷撃に対応する形だ。
逆に、「翔鶴」一中隊から見れば、敵空母が自ら横腹を晒すように映っているはずだ
(こちらのほうが数が多いからか、あるいは「翔鶴」一中隊よりもこちらが先に敵に近づいてしまったからか)
ついつい敵艦の行動、その根拠を考えてしまう。
しかし、今はそのようなことはどうでもいいと頭から振り払い、嶋崎少佐はわずかに機首を右に振り、すぐに左に戻す。
眼前の空母が放つ対空砲火には凄まじいものがあった。
高角砲弾炸裂の断片なのか、あるいは機銃弾によるものなのかは分からない。
いずれにせよ、機体を叩く音や衝撃がそれこそひっきりなしだ。
あるいは、栄から火星に発動機を換装し、機体の強化と併せて防弾装備を充実させた最新型の九七艦攻でなければすでに撃墜されていたかもしれない。
その最新型の防弾性能であれば、たとえ被弾機が続出しようとも、しかしこのまま全機が無事に投雷ポジションに遷移できるのではないか。
嶋崎少佐が淡い期待を抱いた瞬間、後方で爆発が生じる。
「二小隊一番機被弾!」
電信員の遠藤二飛曹からの怒声のような報告に、しかし返事をすることもなく嶋崎少佐はただ眼前の空母だけを見据えている。
その数瞬後、空母を必殺の間合いに取り込んだことを確信する。
「撃てっ!」
先ほど戦死した三人の部下たちの仇討ちだとばかりに、嶋崎少佐は気迫を込めつつ魚雷を投下する。
七機に減った部下たちの機体もそれに続く。
魚雷を放てば、あとは生存のための逃避行あるのみだ。
超低高度を維持しつつ空母の鼻先を抜け、そのまま米駆逐艦のいない方角へと機首を向けて敵の射程圏からの離脱を図る。
曳光弾の追撃が無くなったことで、操縦桿を引きにかかる嶋崎少佐の耳に、偵察員を務める松永特務少尉の喜色混じりの声が飛び込んでくる。
「敵空母の左舷に水柱! さらに右舷にも水柱! さらに一本、二本!」
どうやら、「瑞鶴」一中隊は一本、「翔鶴」一中隊のほうは三本の命中を得たようだった。
数の多い「瑞鶴」一中隊の命中が少ないのは、敵の空母が同中隊の攻撃を先に回避しようとした結果だろう。
(四本だと微妙だな)
これが排水量が小さく、そのうえ防御力に難の有る「ワスプ」であれば撃沈は間違いないところだ。
しかし、相手が「ヨークタウン」級空母だと、たとえ命中魚雷が四本であったとしても、当たりどころによっては致命の一撃になっていない可能性があった。
戦果を遠藤二飛曹に打電させつつ、嶋崎少佐は部下たちに集合するよう命じる。
ほどなく、嶋崎少佐の周囲に九七艦攻が集まってきた。
しかし、その数は六機のみだった。
魚雷を投下した時点では一機しか失われていなかったから、おそらくは投雷後の避退途中にやられてしまったのだろう。
(零戦に敵戦闘機を排除してもらい、さらに厄介者の護衛艦艇については九九艦爆がその多くを始末してくれた。そのうえ、この戦いからは防弾性能に優れた新型を投入している。しかし、それでもこれだけの被害が出るものなのか)
理想的な状況で雷撃を実施したのにもかかわらず、「瑞鶴」一中隊は二割を超える損害を出してしまった。
もし、新型の九七艦攻がこの戦いに間に合っていなければ、さらに被害は大きなものとなっていたことだろう。
そのことで、敵空母への雷撃を成功させた直後なのにもかかわらず、しかし嶋崎少佐は肉薄雷撃という戦術に限界のようなものを感じていた。
だが、すぐにその思いを振り払い、前を見据える。
まずは激戦を生き延びた部下たちを母艦に送り届ける。
指揮官として、今はそのことに全神経を集中させるべきだった。
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