征空決戦艦隊 ~多載空母打撃群 出撃!~

蒼 飛雲

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MO作戦

第55話 苦渋の決断

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 「第一次攻撃隊は六〇機前後とみられるF4Fワイルドキャット戦闘機と、それに二〇機ほどのSBDドーントレス急降下爆撃機と交戦。これらのうち六〇機余を撃墜しています」

 帰還してきた搭乗員からの聴き取りなどによって戦果を集計した志津頼航空甲参謀が、「翔鶴」艦橋でその内容を読み上げる。
 あくまでも速報値のようなものなので、いささかばかり正確性には欠けるが、それでもある程度の目安にはなる。

 「次に第二次攻撃隊ですが、こちらは六隻の巡洋艦を攻撃。全艦に対して最低でも二発以上の命中弾を与えています。また、これら巡洋艦はそのすべてが機関を損傷したらしく、そのいずれもが速力を著しく低下させています」

 第二次攻撃隊に参加した五二機の九九艦爆だが、こちらは空母の護衛艦艇が形成する輪形陣の破壊をその目的としていた。
 そして、それらの中でも特に対空能力が高いと見られる巡洋艦を攻撃。
 それらすべてに複数の二五番を叩き込み、戦闘力とそれに機動力の減殺に成功している。

 「最後に第三次攻撃隊ですが、こちらは三隻の空母を攻撃し、そのいずれにも三本以上の魚雷を命中させています。接触機からの報告によれば、これらのうちで四本を被雷した一隻はすでに沈没。残る二隻についても航行不能に陥ったらしく、いずれも洋上停止しています」

 第三次攻撃隊の五一機の九七艦攻は三隻の米空母を雷撃。
 理想的な挟撃を実施できた結果、これらのうちの一隻を撃沈し、二隻を大破に追い込んでいる。

 「次に損害ですが、第一次攻撃隊のほうは一一機の零戦が未帰還となっております」

 第一次攻撃隊の零戦はF4FやSBDを相手に終始優勢を保っていたはずだが、それでも二割を超える機体を失った。
 もちろん、犠牲に見合った十分な戦果を挙げてはいるが、しかし手練れの戦闘機乗りを一度に一一人も失った事実は極めて重い。

 「第二次攻撃隊ですが、こちらは二機の零戦とそれに一二機の九九艦爆が未帰還となっています」

 他艦の援護を受けにくい輪形陣の外周に位置する艦を狙ったのにもかかわらず、九九艦爆は二割を超える損害を被っていた。
 それと、零戦の損失も一割にのぼっている。

 「第三次攻撃隊については、一一機の九七艦攻が未帰還となりました。なお、零戦のほうは特に被害は出ておりません」

 三隻の空母を攻撃した九七艦攻だが、こちらもまた九九艦爆と同様に未帰還が二割を超えていた。
 これら九九艦爆や九七艦攻のうちで、敵の戦闘機に食われたものは一機も無かった。
 裏を返せば、それだけ米艦の対空能力が高いということだ。

 戦果報告ならびに損害報告が終わったことで、志津頼航空甲参謀は即時稼働機の数字を報告すべくメモをめくる。
 その最中、通信参謀が電文用紙を手に「翔鶴」艦橋へと駆け込んできた。
 何か大きな動きがあったことは、その様子からすぐに分かった。
 生沢長官が首肯し、目で通信参謀に内容を読むよう促す。

 「接触中の『利根』四号機からの緊急電です。洋上停止中の二隻の米空母ですが、こちらは将兵が脱出の動きを見せているそうです。おそらく復旧は無理と見て、総員退艦が発令されたものとみられます。また、『筑摩』三号機も同時刻に同様の報告を送ってきておりますので、その確度は非常に高いものと思われます」

 通信参謀からもたらされた速報に、「翔鶴」艦橋がどよめく。
 生沢長官もまた一瞬ではあるが、安堵の笑みを見せる。

 「おそらく、米軍は艦艇の保全よりも将兵の生存を優先したのでしょうね」

 つぶやきのような志津頼航空甲参謀の言葉に、生沢長官もまた小さく頷くことで同感の意を示す。
 珊瑚海における艦隊決戦はすでに決着したと言ってよかった。
 米機動部隊は主戦力である空母をすべて無力化され、また水上打撃戦力の中核となるはずの六隻の巡洋艦を撃破されてしまっている。
 無傷を保っているのが一ダースの駆逐艦だけにしか過ぎないのであれば、どう考えても逃げの一手しか無い。

 「敵が自ら空母を始末してくれるとなると、ここは六隻の巡洋艦にも引導を渡しておきたいところですな」

 「翔鶴」艦長の城島少将にしては珍しく、二航艦司令部の会話に割り込んでくる。

 (米軍の新型巡洋艦に「翔鶴」艦爆隊がひどい目に遭わされたからな。城島艦長としては部下の仇討ちをやりたいところなのだろう)

 第二次攻撃の際、「翔鶴」艦爆第一中隊は攻撃目標に新型巡洋艦を選んだ。
 同中隊は卓越した技量をもってこれを撃破したものの、しかし一方で一度に全体の三分の一を失うという大打撃を被った。
 「城島」艦長としては、直属の部下を殺った艦については、これを是が非でも沈めておきたいのだろう。

 そのようなことを思いつつ、しかし一方で志津頼航空甲参謀の報告が中断していることに生沢長官は気づく。
 だから、自分のほうから即時使用可能な機体の数についてこれを尋ねる。
 敵の残存艦艇を叩くかどうかの判断については、それを聞いてからだ。

 「零戦が七一機、九九艦爆が一六機、それに九七艦攻が二五機です。それと、二機の一三試艦爆についてはいずれも使用可能です」

 零戦は半数に届かず、九七艦攻は四割、九九艦爆に至っては三割以下にまでその稼働率を低下させている。
 九七艦攻も「瑞鳳」隊が攻撃に参加しなかったことで四割近い稼働機を残しているが、しかしそれを除外すればその損耗率は九九艦爆とたいして変わらないはずだ。

 (敵残存艦艇への追撃は不可能だな)

 ポートモレスビー周辺には一〇〇機以上の航空機が存在すると考えられている。
 さらに、同地を攻略するのであれば、豪本土の北部に展開する機体に対しても警戒が必要だ。
 ただでさえ戦力が心許ないのに、そのうえ残敵掃討でさらに艦上機を失うようなことにでもなれば、ポートモレスビー攻略にそれこそ致命的とも言える支障をきたしてしまう。
 今回の作戦目標はあくまでもポートモレスビーの攻略なのだ。
 目先のおいしそうな獲物に幻惑され、主旨を履き違えてはならない。

 「敵の残存艦艇への攻撃はこれを実施しない。二隻の米空母の沈没を確認したうえで二航艦はポートモレスビーに向かう」

 生沢長官の宣言するような命令に、城島艦長がわずかに落胆の色をその表情に浮かべる。
 しかし、生沢長官とて出来るものであれば残った九九艦爆と九七艦攻を総動員して第四次攻撃を仕掛けたいというのが本音だ。
 特に最後まで空母に寄り添っていた駆逐艦については、是非ともこれを沈めておきたい。
 それら駆逐艦には整備員や兵器員、それに発着機部員といった海軍でも極めて数の少ないスペシャリストが収容されているはずだ。
 もし、そういった連中をここで仕留めることがかなえば、それは米機動部隊の再建に対して甚大な人的ダメージを与えることと同義だ。
 そして、今はそういった千載一遇の好機なのだ。

 だが、そういった未練を生沢長官はすぐに頭から叩き出す。
 そして、必要な命令を重ねていく。
 最大の脅威であった米機動部隊を撃滅したとはいえ、まだ気を抜くわけにはいかなった。
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