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MO作戦
第56話 ポートモレスビー
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洋上停止に陥った二隻の米空母。
それらの沈没を確認した第二航空艦隊は、ポートモレスビーへの進撃を再開した。
その間、「翔鶴」と「瑞鶴」、それに「瑞鳳」の格納庫では損傷程度の軽い機体の修理と、さらにそれと並行して補用機の組み立てが行われていた。
このことで、二航艦の稼働機は零戦が七割、九九艦爆と九七艦攻は半数近くにまでその数を回復させていた。
さらに、生沢長官は慎重を期すべく、船団護衛の任務にあたっていた「祥鳳」を二航艦に呼び寄せてこれを組み込み、さらなる戦力の増強を図った。
「祥鳳」の引き抜きについては、すでに米機動部隊を撃滅していたこともあり、第四艦隊司令部もこれをあっさりと認めた。
「珍しく予言が外れましたね」
艦上機の回復状況を報告に訪れた志津頼航空甲参謀。
その彼が含み笑いの表情を生沢長官に向ける。
今は長官室に二人しかいない状況だ。
それゆえに、志津頼航空甲参謀の口調もかなりざっくばらんなものになっている。
その彼が指摘しているのは、以前に生沢長官が吐いた「MO作戦は失敗する」という一言だった。
「予想以上に二航艦が幸運だったからな。理由はただそれだけだ」
志津頼航空甲参謀の軽口に対し、生沢長官は憮然とした表情のまま言い返す。
その一方で、これまでの戦いに思いを馳せている。
実のところ、MO作戦が決行されると分かった時点で生沢長官は二航艦が敗北することを覚悟していた。
明らかな戦力不足に加え、さらに日本と連合国間における情報戦の格差のようなものを痛感していたからだ。
実際、先のインド洋海戦では第一航空戦隊の「赤城」と「加賀」が夜間雷撃を食らい、両艦ともにかなりの深手を負った。
その後、第二航空戦隊の「蒼龍」と「飛龍」が踏ん張ったことで逆転勝利を収めたが、しかしその卓越した働きが無ければ惨敗していてもおかしくない状況だった。
そもそもとして、夜間に航行中の艦隊の位置を、しかもピンポイントで捉えるのは、事前に相手の計画を承知していなければまず不可能だ。
そして、英海軍は何らかの手段を用いてそれを可能としていた。
帝国海軍の中枢にスパイがいないのであれば、それは間違いなく暗号解読によるものだ。
そのことで、此度の戦いでは情報戦において完全に機先を制されてしまった。
こちらの索敵機が発進してさほど間のない時間に、しかし米軍の索敵機はすでに二航艦の上空にその姿を現していたのだ。
相手が事前にこちらの位置情報を知悉していない限り、絶対に生じ得ない状況だった。
もちろん、こうなる事は生沢長官としてもすでに予想していた。
そのためにプランBと呼ばれる迎撃計画をあらかじめ用意していた。
このプランBを煮詰めるために志津頼航空甲参謀が寝不足に陥ったが、それについては生沢長官の関知するところではない。
いずれにせよ、戦闘機と急降下爆撃機を軒並み迎撃戦闘に動員するこのプランBは成功し、三隻の友軍空母は敵の空襲による損害を免れることができた。
ただ、生沢長官のほうはこの結果が単に運が良かっただけのことだと考えている。
常識的に考えて、わずかに二隻の正規空母と一隻の小型空母が、敵が放った一五〇機を超える艦上機の空襲を完全に捌き切れる道理が無いのだ。
しかし、二航艦の戦闘機隊はそれを成し遂げてしまった。
これは、生沢長官としても予想外のことだった。
生沢長官としては「翔鶴」か「瑞鶴」のいずれか一隻は被弾することを覚悟していた。
仮に、そうなればその時点でMO作戦の失敗は決定的となる。
それに、いくら「翔鶴」型空母が大攻撃力を擁しているとは言っても、一対三の戦いではさすがに勝利は覚束ない。
もちろん、二航艦には「翔鶴」と「瑞鶴」以外に「瑞鳳」がある。
しかし、小型で搭載機の少ない彼女を一隻の空母として戦力にカウントするのは、今回の戦いに限って言えば少しばかり無理があった。
「まあ、確かに運の要素は大きいですよね。いくらこちらが二〇〇機の迎撃機を擁していたとしても、しかし相手が百数十機の規模であれば、どうしたって討ち漏らしが生じてしまいます。けれど、今回はそれが無かった。天佑神助でも無い限り、普通は有り得ませんけどね」
二航艦は幸運だったという生沢長官の言葉に、志津頼航空甲参謀もまた全面的に同意する。
敵の理想的とも言える先制航空攻撃に対し、三隻の友軍空母がこれを無傷で乗り切れたのはひとえに運が良かったからだ。
そして、それが何度も続くことはない。
戦場の女神は決してお人好しではないことを生沢長官も志津頼航空甲参謀も十分過ぎるほどに理解している。
「まあ、我々の運が良かったのはそれとして、今回の戦いではそれなりの収穫があった。今のところはそれで満足すべきだろう」
並の参謀であれば、生沢長官の言うところの収穫について、これを三隻の米空母だと解釈するだろう。
しかし、志津頼航空甲参謀は違う。
彼は生沢長官の言う収穫の意味を正確に理解していた。
「やはり、帝国海軍の暗号は連合国に筒抜けになっているんですね」
志津頼航空甲参謀の懸念を含んだ問いかけに、生沢長官は満足気な表情を浮かべる。
問題の本質を素早く理解してくれる部下は、すごく貴重だ。
「もはや、疑いようもないだろう。インド洋とそれに珊瑚海で我々は完璧なまでに敵の待ち伏せを食らったのだ。状況証拠しか無いとはいえ、この事実は決定的だ。それでも、暗号がバレていないと言い張る者がいたら、それこそアホの極みだ。いずれにせよ、我々は情報戦において明らかに連合国軍に劣勢を強いられていることが分かった。あるいは、この事実があぶり出されただけでもMO作戦を実施した意味はあったのかもしれん」
そう言って生沢長官は苦笑いを浮かべる。
最初から破綻しているはずのMO作戦の中において、しかし災い転じて福となすを地で行くようなこの状況に複雑な思いを抱いているのだろう。
ただ、それはそれとして、志津頼航空甲参謀は最も気になっていることを生沢長官に尋ねる。
これまでのことよりも、これからのことが優先される。
「気が早いかもしれませんが、しかし我々がポートモレスビーを攻略したとして、その維持は可能なのでしょうか。同地と本土を結ぶ南北五〇〇〇キロにも及ぶ補給線ですが、これを守り抜く力は我々には無いと思うのですが」
仮にポートモレスビーをうまく攻略したとしても、しかし同地を維持するためには絶え間ない補給が必要となる。
それに、豪本土北部と対峙する地勢にあるポートモレスビーであれば、それなりの戦力を配置しなければならないから、そのために必要となる物資もまた膨大なものになる。
「かなり厳しいだろうな。特に最終航程では、補給船団は豪本土北部に展開する航空機の行動圏内を航行せねばならん。そうであれば、その間は戦闘機の傘が必要になってくる。それをポートモレスビー基地の戦闘機が担うのか、あるいは船団に空母を随伴させるのかは分からんが、いずれにせよその負担は極めて大きなものになる」
そう言って、志津頼航空甲参謀の見解を肯定しつつ、しかし生沢長官は別のことを考えている。
それは、補給の問題を根本から解決し、さらにルーズベルトやチャーチルに対して最大の嫌がらせにもなる、連合国から見れば悪魔の所業にも思える奸計だった。
それらの沈没を確認した第二航空艦隊は、ポートモレスビーへの進撃を再開した。
その間、「翔鶴」と「瑞鶴」、それに「瑞鳳」の格納庫では損傷程度の軽い機体の修理と、さらにそれと並行して補用機の組み立てが行われていた。
このことで、二航艦の稼働機は零戦が七割、九九艦爆と九七艦攻は半数近くにまでその数を回復させていた。
さらに、生沢長官は慎重を期すべく、船団護衛の任務にあたっていた「祥鳳」を二航艦に呼び寄せてこれを組み込み、さらなる戦力の増強を図った。
「祥鳳」の引き抜きについては、すでに米機動部隊を撃滅していたこともあり、第四艦隊司令部もこれをあっさりと認めた。
「珍しく予言が外れましたね」
艦上機の回復状況を報告に訪れた志津頼航空甲参謀。
その彼が含み笑いの表情を生沢長官に向ける。
今は長官室に二人しかいない状況だ。
それゆえに、志津頼航空甲参謀の口調もかなりざっくばらんなものになっている。
その彼が指摘しているのは、以前に生沢長官が吐いた「MO作戦は失敗する」という一言だった。
「予想以上に二航艦が幸運だったからな。理由はただそれだけだ」
志津頼航空甲参謀の軽口に対し、生沢長官は憮然とした表情のまま言い返す。
その一方で、これまでの戦いに思いを馳せている。
実のところ、MO作戦が決行されると分かった時点で生沢長官は二航艦が敗北することを覚悟していた。
明らかな戦力不足に加え、さらに日本と連合国間における情報戦の格差のようなものを痛感していたからだ。
実際、先のインド洋海戦では第一航空戦隊の「赤城」と「加賀」が夜間雷撃を食らい、両艦ともにかなりの深手を負った。
その後、第二航空戦隊の「蒼龍」と「飛龍」が踏ん張ったことで逆転勝利を収めたが、しかしその卓越した働きが無ければ惨敗していてもおかしくない状況だった。
そもそもとして、夜間に航行中の艦隊の位置を、しかもピンポイントで捉えるのは、事前に相手の計画を承知していなければまず不可能だ。
そして、英海軍は何らかの手段を用いてそれを可能としていた。
帝国海軍の中枢にスパイがいないのであれば、それは間違いなく暗号解読によるものだ。
そのことで、此度の戦いでは情報戦において完全に機先を制されてしまった。
こちらの索敵機が発進してさほど間のない時間に、しかし米軍の索敵機はすでに二航艦の上空にその姿を現していたのだ。
相手が事前にこちらの位置情報を知悉していない限り、絶対に生じ得ない状況だった。
もちろん、こうなる事は生沢長官としてもすでに予想していた。
そのためにプランBと呼ばれる迎撃計画をあらかじめ用意していた。
このプランBを煮詰めるために志津頼航空甲参謀が寝不足に陥ったが、それについては生沢長官の関知するところではない。
いずれにせよ、戦闘機と急降下爆撃機を軒並み迎撃戦闘に動員するこのプランBは成功し、三隻の友軍空母は敵の空襲による損害を免れることができた。
ただ、生沢長官のほうはこの結果が単に運が良かっただけのことだと考えている。
常識的に考えて、わずかに二隻の正規空母と一隻の小型空母が、敵が放った一五〇機を超える艦上機の空襲を完全に捌き切れる道理が無いのだ。
しかし、二航艦の戦闘機隊はそれを成し遂げてしまった。
これは、生沢長官としても予想外のことだった。
生沢長官としては「翔鶴」か「瑞鶴」のいずれか一隻は被弾することを覚悟していた。
仮に、そうなればその時点でMO作戦の失敗は決定的となる。
それに、いくら「翔鶴」型空母が大攻撃力を擁しているとは言っても、一対三の戦いではさすがに勝利は覚束ない。
もちろん、二航艦には「翔鶴」と「瑞鶴」以外に「瑞鳳」がある。
しかし、小型で搭載機の少ない彼女を一隻の空母として戦力にカウントするのは、今回の戦いに限って言えば少しばかり無理があった。
「まあ、確かに運の要素は大きいですよね。いくらこちらが二〇〇機の迎撃機を擁していたとしても、しかし相手が百数十機の規模であれば、どうしたって討ち漏らしが生じてしまいます。けれど、今回はそれが無かった。天佑神助でも無い限り、普通は有り得ませんけどね」
二航艦は幸運だったという生沢長官の言葉に、志津頼航空甲参謀もまた全面的に同意する。
敵の理想的とも言える先制航空攻撃に対し、三隻の友軍空母がこれを無傷で乗り切れたのはひとえに運が良かったからだ。
そして、それが何度も続くことはない。
戦場の女神は決してお人好しではないことを生沢長官も志津頼航空甲参謀も十分過ぎるほどに理解している。
「まあ、我々の運が良かったのはそれとして、今回の戦いではそれなりの収穫があった。今のところはそれで満足すべきだろう」
並の参謀であれば、生沢長官の言うところの収穫について、これを三隻の米空母だと解釈するだろう。
しかし、志津頼航空甲参謀は違う。
彼は生沢長官の言う収穫の意味を正確に理解していた。
「やはり、帝国海軍の暗号は連合国に筒抜けになっているんですね」
志津頼航空甲参謀の懸念を含んだ問いかけに、生沢長官は満足気な表情を浮かべる。
問題の本質を素早く理解してくれる部下は、すごく貴重だ。
「もはや、疑いようもないだろう。インド洋とそれに珊瑚海で我々は完璧なまでに敵の待ち伏せを食らったのだ。状況証拠しか無いとはいえ、この事実は決定的だ。それでも、暗号がバレていないと言い張る者がいたら、それこそアホの極みだ。いずれにせよ、我々は情報戦において明らかに連合国軍に劣勢を強いられていることが分かった。あるいは、この事実があぶり出されただけでもMO作戦を実施した意味はあったのかもしれん」
そう言って生沢長官は苦笑いを浮かべる。
最初から破綻しているはずのMO作戦の中において、しかし災い転じて福となすを地で行くようなこの状況に複雑な思いを抱いているのだろう。
ただ、それはそれとして、志津頼航空甲参謀は最も気になっていることを生沢長官に尋ねる。
これまでのことよりも、これからのことが優先される。
「気が早いかもしれませんが、しかし我々がポートモレスビーを攻略したとして、その維持は可能なのでしょうか。同地と本土を結ぶ南北五〇〇〇キロにも及ぶ補給線ですが、これを守り抜く力は我々には無いと思うのですが」
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そう言って、志津頼航空甲参謀の見解を肯定しつつ、しかし生沢長官は別のことを考えている。
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