征空決戦艦隊 ~多載空母打撃群 出撃!~

蒼 飛雲

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豪本土攻撃

第58話 軍令部にて

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 (軍令部トップの二人、それに作戦担当のお出ましか。ずいぶんと気合が入っているものだ)

 軍令部に出頭した生沢長官の眼前には三人の将官とそれに一人の佐官が並んで座っていた。
 総長の永野修身大将と次長の伊藤整一中将、それに第一部長の福留繁少将と第一課長の富岡定俊大佐の四人だ。

 「ポートモレスビーの激闘の疲れも抜けきっていないだろう生沢さんをわざわざお呼び立てして誠に申し訳ありません」

 そう言って話を切り出したのは伊藤次長だった。
 その伊藤次長は生沢長官と同じ中将の階級を持つ。
 しかし、生沢長官のほうが海兵で二期、中将への昇任も二年早かったことから、それに応じて言葉遣いもまた丁寧なものになっている。

 だからと言って、生沢長官のほうは軍令部に対する印象が好転したわけではない。
 連合艦隊司令部とそれに軍令部との裏取引の産物とも言えるMO作戦の実行役を押し付けられた身としては、いまだに思うところは有る。
 ただ、それはそれとして、さっさと話を先に進めてしまいたい気持ちのほうが強かった。

 「そこは大丈夫です。それよりもここに呼ばれた用件を聞かせていただけますか」

 すでに戦争が始まって半年。
 そのような中で暇を持て余している海軍軍人などいない。
 まして、将官であればなおのことだ。
 時局を考えれば、社交辞令や丁寧なあいさつといったものは、それこそただの無駄でしかない。

 「話が早くて助かります」

 そう言って伊藤次長は本題を切り出す。

 「軍令部では第二段作戦の仕上げとしてニューカレドニアとフィジー、それにサモアの攻略を目指しています。そして、これらを総称したのがFS作戦と呼ばれるものです。
 そのFS作戦ですが、こちらの主な目的は米国と豪州を結ぶ交通線の遮断であり、そしてその最終目標は豪州を戦争から脱落させることです。それが叶えば米軍は我々に対する侵攻の足場を失い、そのことによって対日戦略の抜本的な見直しを強いられる。実はそのことについて、帝国海軍で最も実戦経験が豊富な生沢さんのご意見をお伺いしたいと考えてご足労を願ったのです」

 相手が伊藤次長だったことで、生沢長官はすでに警戒モードを一段階引き上げている。
 伊藤次長は少佐だった頃、米国での駐在中にこちらもまた大佐だった山本長官に世話になっていた。
 さらに、福留部長のほうは昨年まで、山本長官の元で連合艦隊参謀長を務めている。
 典型的な縦社会である帝国海軍において、上司と部下あるいは先輩と後輩との間にある目に見えないしがらみは、世間一般の人間が想像する以上に根深いものがある。
 ここで自分が話した内容が、伊藤次長あるいは福留部長を通じて山本長官の耳に入らないという保証は無い。
 迂闊な発言は控えるべきだった。

 「私はFS作戦については、その概要すらも承知しておりません。ですので、その件については十分な識見を持ち合わせていないのです」

 知らないものをどうやって判断しろというのか。
 そういった抗議をオブラートに包みつつ、生沢長官は申し訳なさそうな態度で投げられたボールを伊藤次長に返す。
 ただ、実際のところ生沢長官は某海軍御用達の料亭で当時の山本長官から軍令部が米豪遮断を企図しているといった話を聞かされていた。
 だから、念の為としてニューカレドニアやフィジー、それにサモアといった連合国軍の要地については、その下調べも入念に行っている。
 ただ、山本長官から口止めをされていないとはいえ、さすがにそのことを正直に話すつもりはなかった。

 だが、一方の伊藤次長は山本長官と生沢長官それに第一艦隊の高須長官が某料亭で会合を持ったこと、さらにそこで話された内容をすでに承知しているかもしれなかった。
 だから、こちらがどこまでFS作戦のことを知っているのか、その探りを入れてきたのかもしれない。

 「申し訳ありません。確かに生沢さんのおっしゃる通り、第二段作戦の今後については軍令部とそれに連合艦隊司令部ですり合わせを行っている最中であり、一部の者にしか伝わっていない情報でした」

 相手をうがった目で見ている生沢長官とは裏腹に、しかし一方の伊藤次長はあっさりと引き下がり、詫びを入れつつFS作戦の説明を始める。
 将官同士の腹の探り合いが始まるかもしれないと身構えていた生沢長官としては、いささかばかり拍子抜けする態度だった。

 伊藤次長が話す内容は、生沢長官が予想していた通りのものだった。
 その目的をざっくり言えば米豪連絡線の遮断だ。
 そのために連合艦隊はニューカレドニアやフィジー、それにサモアへ長駆進攻する。
 投入される戦力は水上打撃部隊の第二艦隊とそれに第一航空艦隊か第二航空艦隊、あるいはその両方を基幹戦力として考えているらしい。

 ただ、この作戦は生沢長官の目から見ても無謀なものだった。
 最も近いニューカレドニアでさえ、日本の首都である東京からの距離は七〇〇〇キロ近くに迫る。
 五〇〇〇キロのポートモレスビーですらその負担は大き過ぎるのに、さらにその四割近くも長い海上交通線を維持するなど、帝国海軍にできるわけがない。

 「現状の太平洋艦隊の戦力を考えれば、ニューカレドニアとフィジー、それにサモアの攻略は可能でしょう。しかし、その維持は可能なのですか。南方資源地帯からの物資を運ぶ船団の守りすらも十分では無いなかで、どうやって護衛艦艇を手当するのですか。まさかとは思いますが、太平洋の南北にわたって七〇〇〇キロに及ぶ長大な海上交通線を設定しておいて、護衛のほうはまったくの無しだというようなことはありませんよね」

 南方資源地帯と本土を結ぶルートでは、日本の船舶がたびたび米潜水艦の襲撃を受けていた。
 ただ、一方で被害のほうはそれほど大きいものではなかった。
 米軍の魚雷は、なぜかそのほとんどが起爆せずに終わっていたからだ。
 そのような事情もあって、帝国海軍の船団護衛に対する意識は、開戦前と同様にさほど高いものではなかった。

 「十分な数は出せませんが、それでも複数の輸送船を運行する場合には、こちらは最低でも一隻の駆逐艦を護衛にあてることにしています」

 伊藤次長の言葉に、生沢長官は胸中で嘆息する。
 帝国海軍の中でも俊英が集うとされる軍令部をもってしても、商船護衛に関してはこの程度の認識なのだ。

 しかし、だからといって生沢長官は伊藤次長を責めるつもりもなかった。
 むしろ、商船の護衛を理由に、艦隊から駆逐艦が引き抜かれることをことさらに嫌っている連中にこそ問題が有ると考えていたからだ。
 それに、組織を離れた一個人として見た場合、伊藤次長の人格や見識については生沢長官もこれを高く評価している。

 (ここでFS作戦が内包する欠陥をあれこれ指摘しても無駄か)

 戦力に限りが有る以上、作戦に完璧を期すことはできない。
 それは世界最強の国力を誇る米国にしたところで同様だ。
 そして、軍令部は補給の困難についてはこれを承知の上でFS作戦を推し進めるつもりでいる。
 そうであれば、理路を尽くした説得は無意味だ。
 もし、彼らを心変わりさせようと考えるのであれば、FS作戦を上回る旨味のある代案を出さなければならない。

 (出すか)

 結論を出した生沢長官は、自身が温めてきた策を開陳することにした。
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