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豪本土攻撃
第60話 方針決定
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豪州に向かうべきだと主張する軍令部と、一方でハワイ攻略を推し進めようとする連合艦隊司令部。
その折衝に勝利したのは軍令部の側だった。
軍令部は連合艦隊司令部とのパワーゲームを有利に導くべく、海軍省とそれに帝国陸軍を巻き込むことに成功していた。
軍政を司るがゆえに、可能な限り同盟国との軋轢を避けたい海軍省は、ハワイよりも豪州にその矛先を向けるほうがドイツそれにイタリアが喜ぶことを理解していた。
特にこれまで豪兵に手を焼かされてきたドイツは、その供給源である豪州が戦争から退場すれば、それこそ両手を挙げて喜ぶはずだ。
それに、現在ドイツはスエズ打通を成し遂げるべく、地中海戦線ならびに北アフリカ戦線に注力してくれている。
もちろん、これは帝国海軍がインド洋に艦隊を派遣した際の見返りとしての行為にしか過ぎない。
しかし、海軍省ではここでさらに豪州を叩いておけば、ドイツの日本に対する心証がさらに良くなると考えていた。
そして、それは間接的にスエズ打通の成功率の向上にもつながるはずだ。
そうであれば、現実味に乏しいハワイ攻略よりも豪州攻撃に賛成するというのは、当然の成り行きだといえた。
それと、どこでこの話を嗅ぎつけたのか、ドイツもまた外交ルートを通じて軍令部の方針に賛意を示してきた。
もちろん、誰がドイツにこの件を漏らしたのかについては問題となった。
しかし、相手が同盟国だったということで、この話はいつの間にかうやむやになっていった。
一方、帝国陸軍のほうは連合艦隊司令部に対する不信あるいは反発から軍令部に与していた。
これまで、連合艦隊司令部はミッドウェーやハワイの攻略といった、とかく東にしかその注意と関心を向けてこなかった。
もし、彼らがイニシアチブを握っていたら西に対する意識の低さから、二次にわたるインド洋作戦も実施されることはなかったはずだ。
そうなれば、援蒋ルートが遮断されることもなく、中国軍の戦備はさらに増強されていたことだろう。
いずれにせよ、海軍省や帝国陸軍、それに同盟国までもが軍令部の案に賛成してしまえば、連合艦隊司令部としてもどうしようもなかった。
このことで、生沢長官が連合艦隊司令部に出頭するという話は、土壇場でこれが取りやめとなった。
ハワイ攻略がお流れになった以上、連合艦隊司令部としても生沢長官を取り込むメリットは無い。
その連合艦隊司令部の分かりやすい変節に対し、一方の生沢長官は特に気を悪くしたような様子は無かった。
「ハワイ攻略の芽が完全に無くなってしまった以上、長官のご機嫌取りをしたところで何も良いことなんてありませんからね」
志津頼航空甲参謀のあけすけな物言いに、生沢長官は苦笑を返すしかない。
第二段作戦の最終目標は連合艦隊司令部が望んでやまないハワイ攻略ではなく、豪州と決まった。
しかし、それは軍令部がこれまでに推し進めてきた米豪遮断とは明らかに異なる、斜め上を行くものだった。
もともと、軍令部は米国と豪州の交通線を断ち切ることこそをその主眼に置いてきた。
そして、それを実現するためにニューカレドニアやフィジー、それにサモアを攻略、同地に基地航空隊を進出させる方針だった。
しかし、今回の作戦は目標が豪州だというのが同じなだけで、それ以外の共通項は極めて少ない。
なぜなら、同作戦は米豪交通線の遮断ではなく、豪州という国家そのものを屈服させるのがその大きな狙いだからだ。
「現在、米軍が保有する空母は『レンジャー』一隻のみだ。そして、インド洋で睨みをきかせていたはずの東洋艦隊は、しかし今はアフリカ東海岸にまで後退、同地で引きこもっている。そうであれば、今この時こそが豪州を屈服させ、戦争の舞台から引きずり下ろす千載一遇の好機。我々にハワイ攻略にかまけている暇などありはせんよ」
そう話す生沢長官に、志津頼航空甲参謀は豪州での戦いの展望を尋ねる。
志津頼航空甲参謀としては政治の話よりも、今は戦うべき相手のことが知りたかった。
「空母は先ほど話した『レンジャー』以外に特設空母が何杯か有るらしい。しかし、まあこちらは気にしなくてもいいだろう。いくら米軍の台所事情が厳しいとはいえ、さすがに艦隊戦に特設空母を投入するようなことはあるまい。
あとは戦艦だが、こちらは『ノースカロライナ』と『ワシントン』に加え、さらにそれらの後継となる新型が何杯か就役を開始したらしい。ただ、大型艦は特に慣熟に時間がかかるからな。たぶん次の戦いに間に合うのは一隻か多くても二隻までだろう。だから、もし太平洋艦隊がブリスベンを守ろうと艦隊を派遣するのであれば、現状では三隻乃至四隻の新型戦艦を基幹とした水上打撃部隊を編成するのがせいぜいと言ったところだな」
生沢長官の話を聞いて、志津頼航空甲参謀はさすがに詳しいなと感心する。
実のところ、生沢長官の子飼いの部下は志津頼航空甲参謀だけではない。
中には少将や大佐といった、司令官が務まるような大物も存在する。
だが、圧倒的に多いのは准士官やそれに古参の下士官といった、帝国海軍の中で最も耳聡いとされている連中だ。
そのいずれもが生沢長官から薫陶という名の悪影響を受けた部下たちで、そんな連中が海軍省や軍令部で情報収集のための網を張っている。
そして、生沢長官はそんな彼らから日々貴重な情報を得ている。
もちろん、そのことが表に出ないように生沢長官も部下たちも気を配っている。
もし、自分たちがやっている事がバレてしまえば、かなりの面倒事になってしまうのは必至だからだ。
「今はどうかは知りませんが、しかしかつての米海軍が大艦巨砲主義で良かったですね。もし、新型戦艦の代わりに『ヨークタウン』級空母を造っていればと考えると、それこそ寒気がしますよ」
志津頼航空甲参謀が言うように、「ノースカロライナ」級戦艦や、あるいはまだその姿を拝めていない新型戦艦の代わりに「ヨークタウン」級空母を建造していれば、米海軍は開戦時には最低でも同級を五隻、下手をすれば七隻乃至八隻を保有していたはずだ。
もし、そうなっていたら此度の戦争の様相は大きく変わっていたことだろう。
あるいは、自分や志津頼航空甲参謀はすでに靖国に祀られていたかもしれない。
生沢長官は、一瞬だがそんなことを考えてしまう。
「確かに、新型戦艦の建造を推進してくれた米海軍の鉄砲屋には感謝すべきだろうな。しかし、あと一年もすればそんな呑気なことも言っていられなくなる」
わずかに懸念の色を浮かべて話す生沢長官に、志津頼航空甲参謀もすぐにその理由に思い至る。
「例の『ヨークタウン』級を大きく上回る戦力を持つという新型空母ですか。で、そいつらの数が揃い始めるのが一年後くらいということですね」
志津頼航空甲参謀の質問に頷きつつ、生沢長官は話の先を続ける。
「悪い時には悪いことが重なるものでな、米海軍は新型空母以外に新型巡洋艦を改造した空母の量産にも着手したらしい。たぶん、こいつらもまた近いうちにその姿を現すはずだ」
米海軍は二大洋艦隊整備計画で一ダースにも及ぶ正規空母以外にも多数の戦艦や巡洋艦、それに駆逐艦の建造を打ち出していた。
これはオープン情報だから、軍人のみならず一般人でも容易にその内容を知ることができた。
その中で、大小二クラスの整備が予定されている軽巡のうちで、艦型が大きいほうの建造については、これが三〇隻以上も予定されていた。
たぶん、これらのうちの何隻かが空母へと改造されるのだろう。
おそらく米国のことだから一隻とか二隻で終わるはずがない。
下手をすれば一〇隻近くを改造するのではないか。
帝国海軍の「瑞鳳」や「祥鳳」といった重巡に近いサイズを持つ改造空母の実績を考えれば、それら巡洋艦改造空母は三〇機程度の艦上機を運用することになるはずだ。
一隻あたりの戦力は小さくとも、しかし数が揃えばかなりの脅威になる。
「米国も、大国の割にセコいことをしますね。ただでさえ、新型空母だけでもアホほど建造中だというのに、それでもまだ足りないと言うんですか」
うんざりとした表情の志津頼航空甲参謀に、生沢長官がさらにとどめとばかりに悪い情報を上積みする。
「それと、だ。米海軍の新型空母の数が揃った頃には、同じく米海軍の新型艦上戦闘機もまたその開発が完了しているはずだ。もし、我々が何もせずに漫然と構えていれば一年はおおげさでも、しかし一年半で彼我の戦力は同等になる。そして、二年後には完全に逆転されることになるだろう」
その折衝に勝利したのは軍令部の側だった。
軍令部は連合艦隊司令部とのパワーゲームを有利に導くべく、海軍省とそれに帝国陸軍を巻き込むことに成功していた。
軍政を司るがゆえに、可能な限り同盟国との軋轢を避けたい海軍省は、ハワイよりも豪州にその矛先を向けるほうがドイツそれにイタリアが喜ぶことを理解していた。
特にこれまで豪兵に手を焼かされてきたドイツは、その供給源である豪州が戦争から退場すれば、それこそ両手を挙げて喜ぶはずだ。
それに、現在ドイツはスエズ打通を成し遂げるべく、地中海戦線ならびに北アフリカ戦線に注力してくれている。
もちろん、これは帝国海軍がインド洋に艦隊を派遣した際の見返りとしての行為にしか過ぎない。
しかし、海軍省ではここでさらに豪州を叩いておけば、ドイツの日本に対する心証がさらに良くなると考えていた。
そして、それは間接的にスエズ打通の成功率の向上にもつながるはずだ。
そうであれば、現実味に乏しいハワイ攻略よりも豪州攻撃に賛成するというのは、当然の成り行きだといえた。
それと、どこでこの話を嗅ぎつけたのか、ドイツもまた外交ルートを通じて軍令部の方針に賛意を示してきた。
もちろん、誰がドイツにこの件を漏らしたのかについては問題となった。
しかし、相手が同盟国だったということで、この話はいつの間にかうやむやになっていった。
一方、帝国陸軍のほうは連合艦隊司令部に対する不信あるいは反発から軍令部に与していた。
これまで、連合艦隊司令部はミッドウェーやハワイの攻略といった、とかく東にしかその注意と関心を向けてこなかった。
もし、彼らがイニシアチブを握っていたら西に対する意識の低さから、二次にわたるインド洋作戦も実施されることはなかったはずだ。
そうなれば、援蒋ルートが遮断されることもなく、中国軍の戦備はさらに増強されていたことだろう。
いずれにせよ、海軍省や帝国陸軍、それに同盟国までもが軍令部の案に賛成してしまえば、連合艦隊司令部としてもどうしようもなかった。
このことで、生沢長官が連合艦隊司令部に出頭するという話は、土壇場でこれが取りやめとなった。
ハワイ攻略がお流れになった以上、連合艦隊司令部としても生沢長官を取り込むメリットは無い。
その連合艦隊司令部の分かりやすい変節に対し、一方の生沢長官は特に気を悪くしたような様子は無かった。
「ハワイ攻略の芽が完全に無くなってしまった以上、長官のご機嫌取りをしたところで何も良いことなんてありませんからね」
志津頼航空甲参謀のあけすけな物言いに、生沢長官は苦笑を返すしかない。
第二段作戦の最終目標は連合艦隊司令部が望んでやまないハワイ攻略ではなく、豪州と決まった。
しかし、それは軍令部がこれまでに推し進めてきた米豪遮断とは明らかに異なる、斜め上を行くものだった。
もともと、軍令部は米国と豪州の交通線を断ち切ることこそをその主眼に置いてきた。
そして、それを実現するためにニューカレドニアやフィジー、それにサモアを攻略、同地に基地航空隊を進出させる方針だった。
しかし、今回の作戦は目標が豪州だというのが同じなだけで、それ以外の共通項は極めて少ない。
なぜなら、同作戦は米豪交通線の遮断ではなく、豪州という国家そのものを屈服させるのがその大きな狙いだからだ。
「現在、米軍が保有する空母は『レンジャー』一隻のみだ。そして、インド洋で睨みをきかせていたはずの東洋艦隊は、しかし今はアフリカ東海岸にまで後退、同地で引きこもっている。そうであれば、今この時こそが豪州を屈服させ、戦争の舞台から引きずり下ろす千載一遇の好機。我々にハワイ攻略にかまけている暇などありはせんよ」
そう話す生沢長官に、志津頼航空甲参謀は豪州での戦いの展望を尋ねる。
志津頼航空甲参謀としては政治の話よりも、今は戦うべき相手のことが知りたかった。
「空母は先ほど話した『レンジャー』以外に特設空母が何杯か有るらしい。しかし、まあこちらは気にしなくてもいいだろう。いくら米軍の台所事情が厳しいとはいえ、さすがに艦隊戦に特設空母を投入するようなことはあるまい。
あとは戦艦だが、こちらは『ノースカロライナ』と『ワシントン』に加え、さらにそれらの後継となる新型が何杯か就役を開始したらしい。ただ、大型艦は特に慣熟に時間がかかるからな。たぶん次の戦いに間に合うのは一隻か多くても二隻までだろう。だから、もし太平洋艦隊がブリスベンを守ろうと艦隊を派遣するのであれば、現状では三隻乃至四隻の新型戦艦を基幹とした水上打撃部隊を編成するのがせいぜいと言ったところだな」
生沢長官の話を聞いて、志津頼航空甲参謀はさすがに詳しいなと感心する。
実のところ、生沢長官の子飼いの部下は志津頼航空甲参謀だけではない。
中には少将や大佐といった、司令官が務まるような大物も存在する。
だが、圧倒的に多いのは准士官やそれに古参の下士官といった、帝国海軍の中で最も耳聡いとされている連中だ。
そのいずれもが生沢長官から薫陶という名の悪影響を受けた部下たちで、そんな連中が海軍省や軍令部で情報収集のための網を張っている。
そして、生沢長官はそんな彼らから日々貴重な情報を得ている。
もちろん、そのことが表に出ないように生沢長官も部下たちも気を配っている。
もし、自分たちがやっている事がバレてしまえば、かなりの面倒事になってしまうのは必至だからだ。
「今はどうかは知りませんが、しかしかつての米海軍が大艦巨砲主義で良かったですね。もし、新型戦艦の代わりに『ヨークタウン』級空母を造っていればと考えると、それこそ寒気がしますよ」
志津頼航空甲参謀が言うように、「ノースカロライナ」級戦艦や、あるいはまだその姿を拝めていない新型戦艦の代わりに「ヨークタウン」級空母を建造していれば、米海軍は開戦時には最低でも同級を五隻、下手をすれば七隻乃至八隻を保有していたはずだ。
もし、そうなっていたら此度の戦争の様相は大きく変わっていたことだろう。
あるいは、自分や志津頼航空甲参謀はすでに靖国に祀られていたかもしれない。
生沢長官は、一瞬だがそんなことを考えてしまう。
「確かに、新型戦艦の建造を推進してくれた米海軍の鉄砲屋には感謝すべきだろうな。しかし、あと一年もすればそんな呑気なことも言っていられなくなる」
わずかに懸念の色を浮かべて話す生沢長官に、志津頼航空甲参謀もすぐにその理由に思い至る。
「例の『ヨークタウン』級を大きく上回る戦力を持つという新型空母ですか。で、そいつらの数が揃い始めるのが一年後くらいということですね」
志津頼航空甲参謀の質問に頷きつつ、生沢長官は話の先を続ける。
「悪い時には悪いことが重なるものでな、米海軍は新型空母以外に新型巡洋艦を改造した空母の量産にも着手したらしい。たぶん、こいつらもまた近いうちにその姿を現すはずだ」
米海軍は二大洋艦隊整備計画で一ダースにも及ぶ正規空母以外にも多数の戦艦や巡洋艦、それに駆逐艦の建造を打ち出していた。
これはオープン情報だから、軍人のみならず一般人でも容易にその内容を知ることができた。
その中で、大小二クラスの整備が予定されている軽巡のうちで、艦型が大きいほうの建造については、これが三〇隻以上も予定されていた。
たぶん、これらのうちの何隻かが空母へと改造されるのだろう。
おそらく米国のことだから一隻とか二隻で終わるはずがない。
下手をすれば一〇隻近くを改造するのではないか。
帝国海軍の「瑞鳳」や「祥鳳」といった重巡に近いサイズを持つ改造空母の実績を考えれば、それら巡洋艦改造空母は三〇機程度の艦上機を運用することになるはずだ。
一隻あたりの戦力は小さくとも、しかし数が揃えばかなりの脅威になる。
「米国も、大国の割にセコいことをしますね。ただでさえ、新型空母だけでもアホほど建造中だというのに、それでもまだ足りないと言うんですか」
うんざりとした表情の志津頼航空甲参謀に、生沢長官がさらにとどめとばかりに悪い情報を上積みする。
「それと、だ。米海軍の新型空母の数が揃った頃には、同じく米海軍の新型艦上戦闘機もまたその開発が完了しているはずだ。もし、我々が何もせずに漫然と構えていれば一年はおおげさでも、しかし一年半で彼我の戦力は同等になる。そして、二年後には完全に逆転されることになるだろう」
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