征空決戦艦隊 ~多載空母打撃群 出撃!~

蒼 飛雲

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豪本土攻撃

第66話 豪州脱落

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 ブリスベンの街を炎の海に叩き込んだ第一艦隊と第一航空艦隊、それに第二航空艦隊と第三航空艦隊から成る連合艦隊は、次に豪州第一の都市であるシドニーを燼滅すべく、その舳先を南へと向けた。
 ブリスベンを焼き払ってなお、豪政府に講和に向けた動きが見られなかったからだ。

 シドニーの街を攻撃圏内に捉えるべく、連合艦隊は進撃を続ける。
 しかし、母艦航空隊がシドニーをその作戦半径の内側に捉える直前、その歩みは止まる。
 連合艦隊司令部より作戦中止命令が下ったからだ。
 それは、つまりは豪政府が講和交渉に応じたということでもあった。

 「本来、連合国において国家単独による講和はこれを禁止されているはずでしたよね。ですが、豪州はそれを反故にせざるを得なかった。ということは、やっぱりブリスベンへの攻撃は効いていたんですね」

 帰路につく二航艦の旗艦「翔鶴」。
 その長官室で志津頼航空甲参謀が生沢長官に、あまり丁寧ではない敬語で話しかける。

 「あるいは、シドニーがブリスベンの二の舞いになるのを恐れたのかもしれん。ただでさえ、ブリスベンで大量に発生した難民を救済するだけでも大変なのに、さらにシドニーまでが同じ目に遭っては、豪政府もさすがにたまったものではないだろうからな」

 ブリスベン攻撃では飛行場や潜水艦基地といった軍事施設のみならず、市街地も徹底的に破壊し尽くした。
 そのことで、帰るべき家を失った市民は多数に上ったはずだ。
 他にも役所や学校といった公共施設も例外ではなかったから、被災した市民らは行き場所にも困っているはずだ。
 ただ、連合艦隊の側も今後のことを考え、病院についてはこれを攻撃対象とはしていない。
 それでも、個人営業の町医者のような小さなものについては考慮していないから、こちらのほうはほとんど焼き尽くされてしまったものと思われた。

 「まあ、豪政府がさっさと手を上げてくれたので、こちらとしても助かりましたよ。今回の作戦は、あまり気分が良いものではありませんからね」

 作戦を企画立案した人間を目の前にして、言いにくいことを平気で口にする志津頼航空甲参謀に、生沢長官としては苦笑するしかない。
 ただ、シドニー攻撃が中止となって最も安堵しているのもまた彼自身だった。
 生沢長官としても、この作戦が相当に外道なものであることは重々承知していたからだ。

 「まあ、そこらあたりは早いうちに決断してくれた豪政府に感謝だな。もちろん、シドニー市民を見捨てれば、豪州はまだ十分に戦えたかもしれない。しかし、それではもう国家とは言えないし、国民もまた政府を見限るだろう。結局、単独講和だろうが徹底抗戦だろうが、いずれにせよどちらに転んでもただでは済まない。そうであれば、より多くの国民が助かる方を選択する。おそらく、豪政府はそう考えたのではないか」

 国民の生命と、それに他国からの信頼を天秤にかけることを強いられた豪政府は、最終的に国民の生命と財産を選んだのだろうと生沢長官は推測している。
 志津頼航空甲参謀もそのことについては、考えを同じにしていた。

 ただ、一方で疑念も湧いてくる。
 もし、立場が逆転し、本土が米国の爆撃機によって蹂躙された場合、日本の政府と軍は果たしてどういった態度を見せるのか。
 豪州のようにあっさりと敵に屈するのか、あるいは国民が焼け死ぬのを横目に徹底抗戦を叫ぶのか。
 志津頼航空甲参謀としては、優柔不断を絵に書いたような政府とそれに頑迷な軍のコラボであれば、まず間違いなく徹底抗戦を叫ぶのではないかという気がしてしょうがなかった。
 自身の考えにげんなりした志津頼航空甲参謀は、さっさと話題を変えることにした。

 「それはそうと、ブリスベンには予想よりも遥かに多い戦闘機が配備されていましたが、あれはどういったことなんでしょうね。我が軍の基地航空隊からの圧力に対抗すべく、本土の北東側に航空戦力の過半を投入している豪州が、ブリスベンにあれほどの戦闘機を用意できるのは、どうにも納得しかねるものがあるのですが」

 第一次攻撃隊に参加した空戦指揮官や中隊長といった幹部搭乗員らは、その誰もが自分たちを迎撃してきた戦闘機がかなりの数に上っていたことを報告している。
 彼らが挙げた数字に若干のバラつきはあるものの、それでもその誰もが一〇〇機を大きく超えていたことは間違いないと証言していることから、相当な数の戦闘機がブリスベンに配備されていたのだろう。

 「あるいは、米軍が秘密裏に豪州に送り込んだ戦闘機かもしれん。艦隊を派遣しない代償といったところだな。豪州としても、戦艦を寄越すくらいなら、むしろ戦闘機のほうがありがたいだろう。まあ、いずれにせよこういった支援はアリバイづくり以外のなにものでもない。米国としては、自分たちは決して豪州を見殺しにはしませんよというメッセージをP40という実物に込めて送り込んだのではないか」

 生沢長官の推測に、志津頼航空甲参謀もまた、それはあり得るかもしれないと思う。
 米軍であれば、一〇〇機を超える戦闘機と、さらにその搭乗員を揃えることは、さほど難事ではないだろう。
 ただ、疑問もある。
 だから、そのことを志津頼航空甲参謀は尋ねる。

 「現場にいた搭乗員たちによると、敵戦闘機はすべて豪空軍の国籍マークだったと話していますが、そこらあたりはどう解釈すればいいんでしょうね」

 生沢長官の推測とは矛盾する事実に、志津頼航空甲参謀が困惑顔になる。

 「国籍マークについては、これを塗り替えたんだと思う。ブリスベンの市民からすれば、自分たちの頭上を守る戦闘機が米軍のものばかりだと、じゃあ自国の戦闘機はどこで何をやっているんだという話になる。たぶん、そういった疑念や批判を避ける意味からも、国籍マークを米軍のものから豪軍のものへと変えたんじゃないかな」

 同盟国同士とはいえ、国籍を偽るのはすごく問題の有る行為じゃないのか。
 志津頼航空甲参謀は疑念を抱くが、しかしバレなければどうってことはないのも事実なのでスルーする。

 「ブリスベンの戦闘機はすでに潰しましたから、そうであれば国籍マークについてはあまり考えても仕方ありませんね」

 もちろん、相手に与えた損害については、同じ連合国が相手でも豪州や米国といったそれぞれの国ごとにしっかりと分けたうえでこれを把握しておきたい。
 A国軍に大打撃を与えたことで、さらに別のA国軍に突っかかっていったら、実は大損害を被っていたのはB国軍でしたというのでは、さすがに洒落にならない。
 ただ、今回は少しばかり事情が違う。

 「そうだな。すでに撃滅した戦闘機隊のあれこれを考えたところで、しかし豪州が脱落した今となってはそれを調べることに大きな意味が有るとは思えんしな」

 豪州というそれなりの大木を叩き斬った以上、一つの戦闘機隊という枝葉末節にこだわるのは、生沢長官としても時間の無駄に思えた。
 それに、他に優先して考えることはいくらでもある。
 作戦を終えた帰路の航海だから少しばかりのんびりしているが、しかしそれも長くは続かない。

 (上層部は次にどこを目指すつもりだ)

 目標の選定を巡って常にいがみあっている軍令部と連合艦隊司令部。
 その彼らが現場の足を引っ張らなければ良いのだが。
 そう考えたところでドアをノックする音が響いた。
 生沢長官が「入れ」と短く言った後で入室してきたのは通信参謀だった。
 その表情は喜色と緊張が同居している。

 「連合艦隊司令部より緊急電です」

 小さく頷くことで、生沢長官はその先を促す。

 「読み上げます。本日、ドイツ軍ならびにイタリア軍はスエズ打通を達成。BB作戦に参加の各部隊は帰国を急ぎつつ、次の指示を待て。以上です」
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