征空決戦艦隊 ~多載空母打撃群 出撃!~

蒼 飛雲

文字の大きさ
69 / 108
欧州遠征

第69話 遣欧艦隊

しおりを挟む
 帝国海軍の欧州遠征については、結局のところこれが実施される運びとなった。
 これは、山本長官との会合の際に生沢長官が口にした前提条件や各種問題について、ドイツがその履行を約束したからだ。

 このことで、帝国海軍は遣欧艦隊の編成に着手する。
 その遣欧艦隊は一個機動部隊と同じく一個水上打撃部隊を基幹とし、補給部隊ならびにそれらを守る護衛艦隊がその傘下に組み込まれる。

 機動部隊とそれに水上打撃部隊がそれぞれ一個だけというのは、国内の燃料事情によるところが大きい。
 開戦以降、インド洋作戦やあるいはブリスベンを直撃するBB作戦といった遠征が相次いだことで、海軍が抱える油の備蓄は、危険なまでにその量を減らしていたのだ。
 また、油槽船の不足も顕著であり、油よりもむしろこちらのほうが切迫した問題だと言えた。
 いずれにせよ、日本と欧州を往復するのだから、艦艇が一隻増えるだけでも燃料の消費量は激増することになる。
 そのことで、欧州に送り込む艦艇については、その数を絞る必要があった。

 このうち、最大戦力である空母だが、こちらは多くとも六隻までとされた。
 これ以上増えると、艦隊運動に支障をきたすというのがその理由だった。

 数ある空母のうちで、真っ先に選ばれたのは四隻の「翔鶴」型空母だった。
 帝国海軍でも最大の搭載機数を誇り、航続性能も良好なことからこれら四隻を選ばない理由は無かった。
 もめたのは五番目と六番目の候補についてだった。
 第一航空戦隊の「赤城」「加賀」を推す者と、それに第二航空戦隊の「蒼龍」「飛龍」を推す者とで意見が割れたのだ。

 一航戦を支持する者は、それらが搭載する艦上機の多さをその理由に挙げていた。
 実際、開戦からここまで「翔鶴」型空母が赫赫たる戦果を挙げ続けているのも、ひとえに搭載機数の多さによるものだ。

 一方、二航戦を支持する者は、三四ノットを超える脚の速さを評価してのことだった。
 欧州という狭い戦域では、不意遭遇戦の勃発が懸念される。
 実際、英空母「グローリアス」が、突如姿を現したドイツ巡洋戦艦に砲撃で沈められるという事が起こっている。

 双方ともに、過去の現実を引き合いに出していたことからそれなりに説得力が有り、これもあって論戦が延々と続くことになった。
 困り果てた担当者は、当事者である生沢長官にお伺いを立てた。
 そうしたところ、「赤城」と「加賀」のほうがありがたいという答えが返ってきた。

 確かに「蒼龍」と「飛龍」の脚の速さは魅力だが、一方でその脚が短いことを生沢長官は気にしていた。
 言うまでも無いことだが、航続性能が低い艦艇は頻繁に洋上給油を実施しなければならない。
 これが結構手間がかかるうえに、危険極まりない作業でもあった。

 しかし、脚が長い艦艇であれば、その回数を減らすことができるから、その分だけ補給計画も楽になる。
 指揮官である生沢長官自身の希望もあって、最終的には「赤城」と「加賀」が遣欧機動部隊に組み込まれることになった。

 一方、遣欧水上打撃部隊、いわゆる遣欧打撃部隊のほうは第一戦隊の「長門」型、それに第二戦隊の「伊勢」型ならびに「扶桑」型の合わせて六隻の戦艦を主力とすることが決まった。
 脚が速く、使い勝手の良い「金剛」型戦艦が外されたのは、かなりの確率で英戦艦との撃ち合いが生起すると考えられていたからだ。

 残念ながら、正面から撃ち合った場合、「金剛」型戦艦が英戦艦に勝てる見込みはほとんど無い。
 「金剛」型戦艦は三六センチ砲を八門装備するが、一方の英戦艦のほうは最も弱いものでさえ三八センチ砲を八門装備する。
 自身が放つ三六センチ砲弾に対する防御力すら心許ない「金剛」型戦艦に、三八センチ砲弾を受け止められる道理は無い。
 「金剛」型戦艦がやり合えるのは、巡洋戦艦「レナウン」くらいのものだろう。

 ただ、戦艦同士の戦いには向いていない「金剛」型戦艦ではあっても、やはり三〇ノットに達する快速は捨てがたいものがあった。
 そのことで「金剛」型戦艦については、遣欧機動部隊に配備したうえでこれを空母の護衛にあててはどうかという意見が出た。
 敵の快速艦艇の追撃を受けた際、「金剛」型戦艦があればとても心強い。
 しかし、その案が通ることは無かった。
 切迫した燃料事情がそれを許さなかったのだ。

 戦艦に次ぐ戦力を持つ重巡については、「利根」型重巡と「最上」型重巡が選ばれた。
 これらは帝国海軍が保有する一八隻の重巡の中で最も新しい型であり、居住性も他の「妙高」型重巡や「高雄」型重巡に比べて良好だった。
 それに、長期航海において居住性という要素はとても重要だ。
 将兵のコンディションが悪ければ、艦艇が本来持っているはずの能力を十全に引き出すことはできない。
 それは、日露戦争におけるバルチック艦隊の将兵が身を持ってこれを証明している。

 だから、空母や戦艦のときとは違い、重巡の選択について、これに異を唱える者はいなかった。
 そして、このうち二隻の「利根」型重巡は遣欧機動部隊に、四隻の「最上」型重巡は遣欧打撃部隊に組み込まれることになった。

 軽巡もまた似たような理由から選ばれた。
 最近完成したばかりの「阿賀野」を除いたうちで、最も新しい「川内」と「那珂」、それに「神通」の三隻が欧州に向かうことになった。

 駆逐艦については燃料補給の便から、航続性能が高い甲型それに乙型で固められている。
 このうち、一〇隻の甲型と二隻の乙型が遣欧機動部隊に、残る一六隻の甲型が遣欧打撃部隊の編成に加わることになっている。

 そういった中、遣欧機動部隊を指揮することになった生沢長官のほうは、支援艦艇を巡って海軍上層部と丁々発止のやり取りをしていた。
 半年近くに及ぶ作戦期間が予想されている中において、将兵や艦艇を支える裏方の手が充実しているかどうかは、モロに戦力に響いてくる。

 生沢長官が真っ先に目をつけたのは工作艦「明石」だった。
 開戦以来、相次ぐ戦闘艦艇の損傷を次から次へと修理している「明石」は、帝国海軍艦艇の稼働率あるいは回転率の向上に決定的ともいえる役割を果たしている。
 それは、生沢長官をして「翔鶴」型空母以上の働きだと言わしめるほどのものだ。
 そして、ドイツやイタリアの造修施設がどの程度あてに出来るかが分からない以上、修理能力が極めて高い「明石」は、生沢長官にとっては絶必の存在だった。

 さらに、生沢長官は給糧艦も必要だと訴え、こちらは竣工してから一年と経っていない最新鋭の「伊良湖」を分捕ることに成功している。
 ただ、本音を言えば、生沢長官としてはサイズの大きい「間宮」のほうが良かった。
 しかし、同艦は巡航速度が低く、補給船団の脚についていけないことから、これを理由にあきらめざるをえなかった。

 そして、これら貴重な支援艦艇や輸送船を無為に失うことが無いよう、生沢長官は護衛艦艇の充実も要求している。
 こちらについては、当初予定されていたものに加え、特設空母「大鷹」ならびに「雲鷹」を勝ち取っていた。
 二隻の空母には九七艦攻や最新型の零戦が搭載され、水中や空中の刺客から補給船団を守る役割を担っている。

 これら戦力をもって遣欧艦隊は欧州の戦いに臨む。
 日本の運命を大きく左右する一大作戦が始まろうとしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幻の十一代将軍・徳川家基、死せず。長谷川平蔵、田沼意知、蝦夷へ往く。

克全
歴史・時代
 西欧列強に不平等条約を強要され、内乱を誘発させられ、多くの富を収奪されたのが悔しい。  幕末の仮想戦記も考えましたが、徳川家基が健在で、田沼親子が権力を維持していれば、もっと余裕を持って、開国準備ができたと思う。  北海道・樺太・千島も日本の領地のままだっただろうし、多くの金銀が国外に流出することもなかったと思う。  清国と手を組むことも出来たかもしれないし、清国がロシアに強奪された、シベリアと沿海州を日本が手に入れる事が出来たかもしれない。  色々真剣に検討して、仮想の日本史を書いてみたい。 一橋治済の陰謀で毒を盛られた徳川家基であったが、奇跡的に一命をとりとめた。だが家基も父親の十代将軍:徳川家治も誰が毒を盛ったのかは分からなかった。家基は田沼意次を疑い、家治は疑心暗鬼に陥り田沼意次以外の家臣が信じられなくなった。そして歴史は大きく動くことになる。 印旛沼開拓は成功するのか? 蝦夷開拓は成功するのか? オロシャとは戦争になるのか? 蝦夷・千島・樺太の領有は徳川家になるのか? それともオロシャになるのか? 西洋帆船は導入されるのか? 幕府は開国に踏み切れるのか? アイヌとの関係はどうなるのか? 幕府を裏切り異国と手を結ぶ藩は現れるのか?

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

小沢機動部隊

ypaaaaaaa
歴史・時代
1941年4月10日に世界初の本格的な機動部隊である第1航空艦隊の司令長官が任命された。 名は小沢治三郎。 年功序列で任命予定だった南雲忠一中将は”自分には不適任”として望んで第2艦隊司令長官に就いた。 ただ時局は引き返すことが出来ないほど悪化しており、小沢は戦いに身を投じていくことになる。 毎度同じようにこんなことがあったらなという願望を書き綴ったものです。 楽しんで頂ければ幸いです!

土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家
歴史・時代
 榎本艦隊北上せず。  それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。  生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。  また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。  そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。  土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。  そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。 (「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です) 

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

対ソ戦、準備せよ!

湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。 前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。 未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!? 小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

大和型重装甲空母

ypaaaaaaa
歴史・時代
1937年10月にアメリカ海軍は日本海軍が”60000トンを超す巨大戦艦”を”4隻”建造しているという情報を掴んだ。海軍はすぐに対抗策を講じてサウスダコタ級戦艦に続いてアイオワ級戦艦を4隻建造することとした。そして1941年12月。日米は戦端を開いたが戦列に加わっていたのは巨大戦艦ではなく、”巨大空母”であった。

処理中です...